3 永遠の女神 【3-1】

「まずい!」


昨日の『事故』でなかなか眠れなかったあずさは、

目覚めた時間が朝食の5分前だったことに気付き、慌ててパジャマを脱いだ。

とりあえずみっともないことにならない程度に髪をとかし、下に降りる。

そこにはすでに武彦と敦が降りていて、あずさは『おはようございます』と挨拶をする。

そしてすぐに滝枝のところに向かった。


「滝枝さん、ごめんなさい。私、手伝うつもりだったのに」

「いいんですよ、あずささんは。これは私の仕事ですから、気になさらないように」


滝枝は、あずさの持ってきたかぼちゃをポタージュにしましたと言い、

食事の準備を続ける。あずさはとりあえず昨日、東子に言われた場所に座った。


「おはよう、あずさちゃん」

「おはよう……」


東子が入り、そして浩美が入ってくる。

あずさの隣に、敦が座った。


「初めての場所で、眠れましたか?」

「あ……はい」

「ウソでしょ、あずさちゃん。岳の襲撃で眠れなかったはず」


東子はそういうと、口を手で押さえながら笑う。


「東子」


敦は妙な言い方をするなと、岳をかばった。

そこに岳が登場する。


「宮崎さん」

「はい」

「夜は、本当に申し訳なかった」


あずさは『いいえ』と答え、すぐに下を向いた。

岳を見ると、どうしてもその上に祐が重なってしまう。


「岳……」

「はい」


あずさは、武彦が岳に話しかけたことがわかり、横を向いた今なら、

少し冷静に表情が見えると少しだけ顔をあげる。


「そうか、うまくいったのか」

「はい。情報通りでした。後はこちらから条件を提示すれば……」


岳と祐。全く関係のない人なのに、どうしてこう重なるのだろうと、

あずさは考えながら、手に持っていたハンカチを握りしめた。



そして、朝6時半。

忙しく動く相原家のメンバーが唯一揃う、朝食が開始になる。

浩美の合図で、あずさは立ち上がった。


「おはようございます。昨日からお世話になっています、宮崎あずさです。
ご挨拶が今朝になって、すみません」


あずさはそういうと、あらためて武彦に頭を下げた。

武彦は横に置いたメガネをかけ、すぐにあずさの方を見る。


「いや、こちらこそ、仕事の事情で今朝になってしまって。
あずささん、お世話になっているなどと萎縮することなく、
自分の家だと思って、生活をしてください」

「ありがとうございます」


武彦は、表情も柔らかく、庄吉から全てを聞いていたとわかるくらい、

あずさを自然に受け入れてくれた。

あずさは、またひとつポイントを通過したと、軽く息を吐く。


「あらためて、私が浩美です。家にいることもありますが、
婦人会のみなさんと、活動している日もありますので、何かわからないことがあったら、
昨日も会った滝枝に伝えてくださいね」


浩美は、そういうと岳に声をかける。

あずさは斜め前に座っている岳をあらためて見た。


「相原岳です。昨日の夜はあんな形になって申し訳なかった」


愛想などあまりない『最低限』の挨拶が、あずさに届く。

岳がまた食べ始めたのを見て、あずさの隣に座る敦がナイフとフォークを置く。


「相原敦です。宮崎さんは東京に転勤になったと聞きましたが、勤め先はどちらですか」


敦は祖父、庄吉からそこは聞いていないのでと言う。


「あ……はい。私は『アカデミックスポーツ』に勤務しています。
今までは地元群馬でしたが、今回『東京本部に』」

「『アカデミックスポーツ』ですか」

「はい」


浩美や岳の目も、一度別のものを見ていたのに、あずさに戻ってくる。

あずさは、何か自分が特別なことを話しただろうかと考えたが、

その答えはすぐにわかった。


「『東京本部』って、あの会社にそんな偉そうな場所があったか」

「おそらく、前の『Sビル』かと……」

「は? あれは本部か」

「はい、確か届出はそうなっていると……」


岳と敦の会話を聞きながら、あずさには一抹の不安が広がりだす。


「ご存知なんですか、『アカデミックスポーツ』」


あずさは二人が知っているのなら、場所もきちんと教えてもらえると、

少しだけほっとする。


「あの……うちのビルの正面にあると……」


敦の言葉に、あずさは『BEANS』と向かい合うようにビルが立っているのかと思い、

その光景を勝手に頭に浮かべた。

スポーツジムを仕切る本部で、慌しく動く社員たちのイメージが、

頭の中を行ったりきたりする。


「宮崎さん、あの倉庫で何をするの」

「……エ?」

「兄さん、あの場所は倉庫ではなくて」

「あれは倉庫だろ。人なんて……」


岳の言葉に、敦は、今日から働くのかとあずさに聞いた。

あずさは今日はまだ行きませんと、首を振る。


「今日は、相原会長にお会いするつもりです。こんなふうに迎えていただけたことを、
きちんと報告しないと」

「あ、そうね。お義父さんが喜ばれると思うわ」


浩美はそういうと、隣に座る敦に、あずさを『青の家』まで送ってあげたらと提案する。


「いえ、それは大丈夫です。これから毎日電車に乗りますし、
実は、東京に友人がいるので、そこにも立ち寄りたいですし」


あずさは、これ以上『借りを積み重ねるのは困る』と思い、

自分の力で行きますと宣言する。


「大丈夫? 結構、路線が複雑だけれど」

「大丈夫です。口もありますし、迷ったら聞きますから」

「そう……」


敦はそれならと、また食事に戻る。


「なら敦。空いた後部座席に東子を乗せて、学校に送ってよ」


東子は今日はラケットもあるし荷物が重たいと、そう言い始める。


「ダメだよ、お前はすぐ楽なことをしようとするから、行かない」

「何よ、ケチ!」


東子は敦に向かって、舌を出してみせる。


「東子、俺が送ろうか」

「エ……岳、行ってくれるの?」


東子は、嬉しいと隣に座る岳に投げキッスをしてみせるが、

すぐに明るかった表情を、悔しそうなものに変える。


「何よ、岳。昨日は酔って戻ってきたでしょう、車、ないはず」


東子はそう言いながら、『はぁ』と息を吐く。

岳は、東子の方に顔を向け『あれ、そうだったかな』と言い、軽く笑う。


「もう!」


東子は、ナフキンを膝から取ると、ごちそうさまだとテーブルに置いてしまう。

あずさは、3人の兄妹のやり取りを聞きながら、

滝枝が作ってくれたかぼちゃのポタージュを飲んだ。



【3-2】



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コメント

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すでにお話に入り込んでいます。
男二人に女が一人
ももんたさんのお話を生み出す力に
感心してます
楽しみ

どうも

ぽこさん、こんばんは

>男二人に女が一人
 ももんたさんのお話を生み出す力に
 感心してます

あぁ……そうですね。過去にも数作、男2女1のものがありました。
さて、どんな展開になるのかは、これからじっくりお付き合いください。