短編の小部屋

      短編の小部屋

連載ではない、短い読み切りを集めてみました。
ちょっぴりのラブ・ストーリー、いかがですか?


恋の処方箋
薬剤師の瞳ちゃんと、なぞの北城くん、ちょっとコメディータッチの恋のお話です。

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君を待つ夜
恋人より2つだけ年下、年上のことを気にする男女が主人公のお話です。

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『告白旅行』
職場の先輩と後輩、なにげない日々で恋に気付き……こちらは先輩(香坂くん)の語りで進むお話です。

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『Yellow Flower』
一つのランプをめぐって、お花屋さんに勤める美晴に、小さな出会いが生まれます。

『Yellow Flower』(前)はこちらをポチリ
『Yellow Flower』(後)はこちらをポチリ

Sweet Half
雅紀と沙織、恋人から、夫婦になり……、ふと振り返って見ると…

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『プロポーズ』
私の幸せな時間は、ある日突然やってくる……




『姿を変えたサンタさん』
いつもの店で会う人は、心を少し刺激して……

  

『彼』側ではなく、『彼女』側からのお話はこちら……





これから少しずつ増えていくと思いますので、また、のぞいてみてくださいね。

姿を変えたサンタさん 深雪のつぶやき

           姿を変えたサンタさん 深雪タイトル


幼い頃からいつもそうだった。

小雪は愛想がよくて、大人からも褒められることが多く、

私は、丁寧にやろうとするあまり、何をするにも遅れてしまう。

父が少し早めの退職をして、近所の方と笑顔で会える店を作りたいといい、

オープンしたコンビニが軌道に乗り始めた3年目に、母が病気で入院した。


『私は無理だからね、仕事に生きがい感じているし、トモも忙しいし』


小雪には3年付き合っている彼がいて、貿易関係の会社に勤めている。

おそらくこの1、2年の間に、海外勤務になることもわかっていて、

そんな相手を持つ自分が、コンビニをやるのは無理だと、すぐに手をあげた。


「いいよ、お父さん。私が手伝うから」


結局、私が短大を卒業し5年勤めている会社を辞め、4月から店を手伝うことにした。

始めは仕事を覚えるのに必死だったが、慣れてくると色々なものが見え始める。

ご近所の方がどんなものを好み、何が売れ、何が残るのか、

母が退院してからも、完全に戻ることは出来ず、店の中心は父と私になった。

店の周りに落ちている吸殻を掃き集めていると、郵便のバイクが止まり、

『クロベエ』のいる方へ歩いていくのが見えたので、慌てて声をかける。


「すみません、店の方で結構ですよ」

「あ……はい」

「家の裏までなかなか掃除が行き届かなくて、雑草が……。
足、汚れてはいないですか?」

「いえいえ、そんな」


背の高い、真面目そうな郵便配達員さんだった。

バイクの後ろには『持田』と名前が書いてある。

それから持田さんは、よく店に郵便物を運んでくれるようになった。

店の台の隅に郵便物を置くと、『郵便です』の声も忘れずにかけてくれた。

そして……



『Marupolo メンソールを1つ』



店に来ると必ず、このタバコを買ってくれる。

元々、若い人が買っていくもので、うちでも人気が高い。

棚を見ると残りは3つしかなく、慌ててストックを見ると、ワンカートン入っていた。


「ねぇ、タバコの発注終えた?」

「さきほどオーナーが入力していたようですけど」

「ちょっとレジお願い」


私は店の奥にいる父のところへ向かい、

『彼のタバコ』をもうワンカートン追加するように話をした。

父は、またすぐに注文できるのだからと軽く受け流す。


「ダメよお父さん。必ずあるものがないと、お客さんは離れてしまうでしょ」


どこにだって売っていて、どこでも買えるものだからこそ、

絶対に切らしたくなかった。

一度、彼が別の店で買うことになってしまったら、

ここでは買わなくなるかもしれない。


なんとか発注を終え、父に頼まれ銀行へ向かい、帰りに本屋へ立ち寄った。

いつも読む『料理本』を手に取ると、裏表紙に『定期購読のすすめ』が載っている。



『定期購読』



そうだった。こんなふうに本屋に買いに来るのではなくて、『定期購読』にすれば、

買い忘れることもないし、なによりも彼が必ずお店へ配達してくれる。

私は家へ戻ると、さっそく『定期購読』を申し込み、

ついでに父がよく買う『将棋』の雑誌も『定期購読』に変えた。


通販のインテリア雑誌、そしてファッション雑誌、

ちょっと興味があったペットの雑誌まで、

郵便物は少しずつ増えていって……



……彼が顔を出してくれる日も、増えていった。





「おい、深雪、銀行へ行ってくれ」

「午後でいいでしょ」

「いや、今行ってくれ」


父は取引メーカーの営業マンが来るため、店を離れられないと言い、

私は仕方なく店を出た。

自転車に乗り、急いで銀行へ向かい手続きを済ませ戻ってくると、

いつもの場所にはすでに郵便物が置いてあって……


「はぁ……」


せっかく顔を見られるチャンスだったのに、

ほんの少しだけでも会話が出来るチャンスだったのに、

明日来てくれる保障なんてどこにもないのに。


「あらあら、『Marupolo メンソール』だけがいっぱい入っていて……」

「いいんです!」


パートの竹下さんに当たることではないのに、

私はその日一日を、どんよりした気分で送ることになった。





季節は夏を過ぎ、秋を迎え、そして冬の音をさせ始める。

クリスマスやお正月のパンフレットが店内に並び、華やかな雰囲気だけが漂った。

毎日のように顔を合わせ、タバコを売り、

そして『ほんの少しだけ』励ます言葉をかけてあげる。



彼は、どんな天気でも毎日、この寒空を走るのだろうか。



12月に入ってからの雨は、体温を大きく下げてしまうだろう。

濡れた体を拭くタオルはあるのだろうか、温かい飲み物はあるのだろうかと、

泣き空を見ながら考えた。


「あら珍しい。『Marupolo メンソール』が切れてますね」

「エ! どうして? 昨日の夕方には2カートンあったのに」

「さぁ……売れたんじゃないですか? 元々人気があるし……」


私はすぐに時計を確認した。彼はだいたい同じくらいの時間に郵便物を運んでくる。

もしかしたら今日は届ける物がないかもしれない。

それでも、いつものようにタバコを買おうとして無かったら、

濡れた体で、また他の店へ寄らなければならなくなる。


「竹下さん、すぐに戻るから」

「エ……深雪さん、どこに?」


傘をさして、少し早足になりながら、駅の反対側にあるコンビニへ向かう。

なんだかおかしいことをしているのはわかっているけれど、

それでも、足が自然に動いていた。


「すみません、『Marupolo メンソール』を3つ」


彼は1つしか買わないだろう。それでも、念のため3つ買う。

小さな袋にタバコを入れてもらい、私は店へ戻った。

竹下さんが雑誌を直している間に、棚に2つだけ『Marupolo メンソール』を入れる。

あとの1つは、ストック棚に保管した。


雨の音にバイクの音が混じり、レインコートに身を包んだ彼が、

店の入り口に姿を見せた。マットの横に立ち、台の隅に雑誌を置いてくれる。


「すみません……ここ」

「大丈夫ですよ、これくらい」


彼はいつも天気が悪いと、郵便物を抱きかかえるように入ってくる。

濡れないようにしてくれているのがわかっているから、

紙袋に水滴がついたことくらいで、あれこれ文句なんて言えるはずもない。



『彼のタバコ』を、あの店へ買いに行っておいてよかった……



このレジの前に立つのを待っていると、持田さんはその場から動かずに、

タバコを買いたいと言い出した。 中へと進めたが、

店内が汚れるからとその場所を動かない。



そんなこと気にしなくてもいいのに……



それでも、また真面目な彼の姿を見ることが出来て、私は嬉しかった。

タバコを買う、たった一つの行為だけなのに、

持田さんの生活ぶりまで、見える気がしてしまう。


彼はきっと私と同じように、あまり要領のいいタイプではなさそう。


私は『彼のタバコ』を手に取り、小銭と交換した。



少しだけ触れた持田さんの手は、すっかり濡れて、冷たくて……


「ありがとう」


1分でも1秒でも早く、配達が終わりますように。

早く、温かい場所に戻って、ほっと一息つけますように。

私はそう思いながら、『気をつけて』と、声をかけた。

自動ドアが開いて閉じて、持田さんのバイクが遠ざかる。


「あれ? 『Marupolo メンソール』切れてませんでしたっけ?」

「切れてません!」


不思議そうな竹下さんに向かって私はそう言うと、笑ってしまうのをこらえながら、

他のお客様が滑らないよう、乾いたモップを動かした。





12月に入ってから、小雪が急に電話を寄こし、トモ君と結婚すると言い出した。

そして、お腹にはすでに新しい命が宿っているのだと、両親に報告する。

順番が逆だと電話口で怒鳴った父も、二人の付き合いは認めていて、

孫が出来ると喜ぶ母の顔を見ているうちに、自然とその事実を受け入れていた。


何をするにも、自分に有利な方向へ持って行く術を、

小雪は生まれながらに持っているのだろう。

同じ親から生まれた双子の私は、その分何も持たずに、生まれてきたのかも知れない。


「宮田のおばあちゃん、いらっしゃい」


宮田のおばあちゃんは、私達が揃いの服を着て、遊んでいた時代から知ってくれている。

お気に入りのメロンパンを買いに来たと言いながら、店へ入ってきた。


「ごめんね、今売れちゃったの」

「あらあら……」


おばあちゃんの後ろに、持田さんがバイクを止める姿が見えた。

すぐに棚を確認すると、『彼のタバコ』はちゃんと入っている。


「決まったんだってね、おめでとうさんね」

「あ……ありがとうございます」


父から小雪の話を聞いたのだろう。さすがにおばあちゃんは情報が早い。

軽く頭を下げて、『彼のタバコ』を取ろうとしたが、持田さんはレジに並ぶことなく、

郵便だけ台の上に置くと、サッと出て行ってしまった。


「あ、今のは郵便君だね」

「うん……」


どうしたんだろう……

タバコ、今日は必要なかったのかな。


持田さんのバイクは、いつものように店を離れていった。

急いでいるのだろうか、それとも、別の店ですでに買ってしまったのだろうか。

しかたなく、台に置かれた郵便物を取りに向かうと、

この間、小雪の代わりに行った『結婚式場』から、

余計な『ブライダルフェア』の挨拶状が入っていた。

仕事が急に忙しくなったと、前日になって小雪がSOSを出してきたんだっけ。

それなら行かなければいいと言ったら、

記念品になっている『銀の写真立て』がどうしても欲しいからって、押しつけられて。



『カップルで行かないとダメなの、ねぇ深雪、トモ君と行ってきて』



そういうところだけは、とんでもなくずうずうしいけれど、

それをさらりと言えちゃうのは、小雪のすごいところ。


「ねぇ、深雪ちゃん」

「何?」

「あんたもさぁ、小雪ちゃんのようにそろそろいい話がないのかね」

「いい話?」


いけない、こんなもの隠しておかないと。

宮田のおばあちゃんに見つかったら、またあれこれ詮索されてしまう。


「深雪ちゃんに決めた人がいないのなら、私、紹介したい人がいるんだよね」

「……紹介?」


それにしても、どうしてこの手紙が私宛に届いたのだろう。

アンケートに答えたのは、トモ君だったはずなのに。

おばあちゃんの問いに答えながらも、私の気持ちはどこかポカンと抜けていた。


「郵便君! ねぇ、彼なんてどうだい?」


おばあちゃんは、私に持田さんを紹介すると言い始め、私はそれは困ると必死に止めた。

いい人なのはよくわかっている、彼がお年寄りにも優しく、

小さな子供が店の前で転んだ時、声をかけているのを見たこともあった。


彼がダメなのではなくて……

私は、自分に自信がない。


「ここじゃ、出会いがないだろうに……」


小雪のように自分に自信が持てるのなら、

私も親の手伝いで、店に入ろうとは思わなかったかも知れない。

それなのに、『私はどうですか?』なんて、聞いてもらうこと自体、恥ずかしい。

その日はなんとかおばあちゃんを説得し、店を出てもらった。



『トモ君がね、見たらあんまりいい場所じゃないって言うからさ、

だからアンケートは深雪が書いたことにしちゃったんだって。ごめんね!』



……もう、バカ!





調子のいい小雪たちに振り回され、私の12月は1日ずつ過ぎていく。

冬だから寒いのは当たり前なのだけれど、

私の心は、それだけで寒いのではないような気がしてしまうのはなぜだろう。


「そういえば、ここのところ来ませんね、あの郵便屋さん」

「お休みなのかな」


1日2日の休みなら、そう思うことも出来た。

しかし、彼が姿を見せない日が1週間続き、

そして、久しぶりに赤いバイクが店の前に止まった時、

姿を見せたのは彼ではない人で。


「もしかしたら担当が変わったのかも知れないわね。
いやぁ……参っちゃうわ、彼をあてにして入れたタバコ、しばらくさばけないかも」


パートの竹下さんは、ストックの棚を見ながら、そうつぶやいた。

タバコの消費期限なんて、軽く1年はあるのだから、気にしなくて大丈夫だ、

そんなことより、本当に持田さんは、ここを離れたのだろうか。

彼の代わりに顔を見せるようになった男の人に、聞いてみればわかることだと思い、

次の日、思い切って声をかけた。


「はい、何か……」

「あ……あの……」


持田さんは、別の場所を担当になったのか、

それだけを聞けばもやもやは晴れるはずなのに、私の口は重たいだけで動かなくなる。



『持田は場所が変わりました。ここへはもう来ませんよ』



そう言われてしまったら、もやもやはなくなっても、

それ以上に、心の中を冷たい風が吹き抜けてしまいそうだ。


「すみません、なんでもないです。呼び止めてごめんなさい」


不思議そうな顔をした郵便配達員さんに頭を下げ、私はまた仕事に戻った。




うやむやでもいい……

私の恋はいつもそうだったから。

『またきっと来てくれる』、せめてそう思っていたい。





持田さんが姿を見せなくなって2週間が過ぎた。

『Marupolo メンソール』は売れていくけれど、勢いはそれほどなく、

ストック棚では相変わらず、大きな態度を見せている。



『深雪ちゃん、クリスマスには帰るからね。美味しい料理、トモ君と期待してます』



勝手に一人暮らしを始めて、勝手に彼氏を作って、

勝手に結婚まで決めた小雪から、朝一番にメールが入った。

確かに料理は好きだけれど、たまには『誰か』のために作ってあげたい。



……まだ、どこにいるかわからない……誰か……



いつものようにレジを打ち、伝票の整理をしていると、

聞きなれたエンジン音が響き、郵便配達のバイクが止まる。


「あ……」


ヘルメットを脱いだのは、間違いなく持田さんだった。

やはり彼は病気でもなく、担当場所が変わり、ここへは来られなくなったんだ。


「すいません、お釣りは?」

「あ……ごめんなさい」


もしかしたら、ここへ来てくれるのは最後なのかもしれないと、

目の前のお客様にお釣りとレシートを渡す。

どこに変わったのか、それくらいなら答えてくれるだろうか。

自動ドアが開き、入ってきた持田さんと一瞬だけ目があった。

どうしたんだろう、郵便物は持っていないし、

なんだか思いつめているような表情をしているみたい。


「すみません!」

「はい……」


私は、気持ちが乱れていて、じゃがいもとにんじんをカゴに入れたご近所の主婦が、

目の前に立っていることにも気づかなかった。

いけない、こんなことでは、しっかりしないと。


「348円になります」


竹下さんが『彼のタバコ』を取り出し、向こうのレジへ呼んでしまった。

お待たせするのはいけないことだけれど、彼だけは担当したかったのに。


「ありがとうございました」


竹下さんの方を見てみると、持田さんがしばらく来ないことで、

『Marupolo メンソール』が余っていることや、

私があれこれ心配したことを勝手に話しだしている。


「竹下さん」

「また、こちらへ戻ってこられるんですか? 担当」

「あ……はい、おそらく……」

「そんなこと言わなくてもいいんです」




……でも、戻ってくるんだ、それはいい情報!




それでも、これ以上持田さんに色々と言われたくなくてそばに近寄ると、

タイミング悪く、別のお客様がまたレジ前へ立った。

言われたタバコを取りだそうと、ストック棚を開ける。

持田さんに見えてしまっただろうか、たくさんの『Marupolo メンソール』


お客様を送り出し、こっちを向いている持田さんの真剣な顔に、

私は恥ずかしさでいっぱいになった。何をあたふたしているのだろうかと、

呆れているかもしれない。

ただ、『彼のタバコ』を買うために、立ち寄っている店の娘、それが私。


「担当が変わられたとは知らなくて、それでもよかったです、ご病気ではなくて」


こんなことを言うのが、精一杯だ。

本当は、毎日、どうしたんだろうと気にしてばかりだったのに。

こんな気持ちを、素直に言えたら、どれだけ楽だろう。


「あの!」

「……はい」

「ご結婚、おめでとうございます」


持田さんから予想外の言葉を告げられて、私はどうしたらいいのかわからなかった。

姉の結婚が決まったことを、彼はどこで知ったのだろう。

それでも、ありがとうございますと頭を下げる。


「どうして姉の結婚をご存じなんですか?」

「……姉?」

「はい、双子の姉なんです。もしかしたら宮田のおばあちゃんですか?」


そうだった。宮田のおばあちゃんがよく彼のことを褒めていた。

素敵な人だから、私のお相手になんて、言ってくれたこともあったっけ。

もしかしたら、そんなことも言ってしまったんだろうか。


「あ……そんなものです」

「そうですか……。実は式を挙げるつもりでしたが、
お相手の仕事が急に動いてしまって、とりあえずアメリカへ行くことになって……」

「お姉さんですか。僕はてっきり、あなたが結婚するのかと……」

「エ……私ですか? とんでもないです。私なんてお相手もいませんし……」


持田さん、それは違います。結婚するのは私ではありません。

私には、そんな人はいないんです。どうしよう……どう言ったら……



……何を必死になっているんだろう、私。



あまりにも『違う』と繰り返し言い過ぎた。

持田さんの顔を、まともに見ていられない。


「深雪ちゃんは小雪ちゃんと違って、おとなしいから。
ご両親のためにお店へ入ってしまって、なかなか出会いがないんですよ」

「竹下さん!」


どうして今日、竹下さんをパートに入れてしまったのだろう。

これ以上、私に恥をかかせないでください。


「お料理だって上手だし、家庭的なんですよ」


いくら『家庭的』でも、ちゃんと仕事をしていても、それだけではダメなんです。

竹下さんのおかげで、おかしな方向に動きそうだった空気が、

自動ドアが開いたことで、外の冷たい冬の風と交じり合う。

宮田のおばあちゃんが、ゆっくりと中に入ってきた。


「あら郵便君、また会ったわね」

「あ……」


宮田のおばあちゃんは、小雪に渡すという下駄の見本を見せてくれた。

アメリカでは日本の小物が人気だと言う。

小雪は社交的だから、こんなものも話題にして、また新しい友人を作るのだろう。


「小雪ちゃんに持たせてやりたくてさ」

「ありがとうございます。明日、戻ってきますから」

「はいはい」


宮田のおばあちゃんは、持田さんを見て何かを思い出したのか、手をポンと叩いた。


「そうそう郵便君、さっき言ったのはこの深雪ちゃんのことなんだよ、
いい子なんだよ、おとなしいけれど家庭的で、どうだい?」


竹下さんだけではなくて、宮田のおばあちゃんまで、

よりにもよってこんなときに、何を言っているの。

持田さんに私を押し付けるようなこと、何度も言わないで。


今、許されるのなら、私、店から走って逃げていきたい。





……逃げ出したい!











「そうだったんですか、それならもっと真剣に聞いておけばよかったです」


持田さんは少しこわばったような表情から、優しい笑顔に変わり、

ポケットからクシャクシャのチケットを出した。

それは『スクランブル』のクリスマスコンサート。

彼の手は間違いなく、私に向かって差し出されている。


「これ……」

「僕の知り合いがくれたんです。深雪さん、『スクランブル』好きですよね」

「はい」

「すみません、郵便物をチェックしているわけではないのですが、
運ぶときに表紙を見てしまって。だから、もし……一緒に行って頂けたら……と……」

「私と……ですか?」

「はい」


持田さんは照れくさそうにそう言うと、

竹下さんに、ストック分の『Marupolo メンソール』をワンカートン買うと言い出した。

私はそれを慌てて止める。


「ダメです、たくさんあるとたくさん吸いたくなりますし……それに」

「それに?」

「1つずつ買っていただいた方が、何度もお店に来ていただけるので……」


言ってしまった。

私にしては大胆なことを、口に出してしまった。


持田さんは嬉しそうに頷くと、自分もその方がいいと納得してくれる。

竹下さんは少しにやけた顔で、『25日はパートに入ります』と言い、

宮田のおばあちゃんは、『自分の目には狂いはない』と自慢げに立っている。


「あの……」

「はい」

「僕、『スクランブル』をあまり知らないんです。
よかったら、CDでも貸していただけたら、コンサートまで曲を聴いておきます」

「あ、はい、すぐにお貸しします」


私は店の裏口から家の方へ戻り、転げそうになりながら靴を脱いだ。

持田さんは私が『スクランブル』を好きなことは知ってくれていたけれど、

どうして好きになったのかまでは、わかっていないらしい。





……ボーカルがあなたに似ているんです……





いつかそんなことを、言えたらいいのに……

私の作った料理を、食べてもらいながら。




ねっ……私の小さな幸せを、いつも運んでくれるサンタさん。




                    【姿を変えたサンタさん 深雪のつぶやき編  終】






『姿を変えたサンタさん』

持田にとっては、深雪との間を埋めてくれた
パートの竹下さんや上司の大江、そして宮田のおばあちゃんで……
深雪にとっては、持田自身がサンタに見えていたようです。
同じ場面でも、立場を変えながら書くと、またあらたな発見があるな……なんて、
楽しんで書けました。
お付き合い、ありがとうございました。

みなさんのクリスマスは、どんな日でしたか?
あぁ、目の前に迫る大晦日(笑)







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Author:momonta
ただいま、怪獣2匹を飼育中の、お気楽主婦です。
日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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