第4話

第4話




テスト前、だけど俺には『初デート』の日。

どこに行くのかという母親には、図書館へ行くと軽くウソをついた。

『図書館』という言葉は便利なものだ。

そこへ行くというだけで、なぜか勉強するものだと思ってくれる。

自転車で駅へ向かい、やたらに広い駐輪場へとめる。


「あ! 駿介、お前、どこに行くんだよ」


こんな時に声をかけてきたのは、中学まで一緒の榎本だった。

あれこれ言われて、長引くと、美咲がここへ来てしまう。


「ちょっとな、参考書買いに行くんだ。お前はどこに行くんだよ」

「ん? 俺? 俺は電車に乗って、待ち合わせてデート」


何?

お前がデート?


そういえば榎本は、電車で毎日通学する、地元から少し離れた私立の高校へ通った。

電車に乗るのも毎日のことで、街へ出ることも珍しいものではないだろう。


「電車に乗るのか……デートで……」


最悪だ。これじゃこいつがここに絶対、残ってしまう。


「あぁ……春から付き合い始めたんだ。
昨日でテストが終わってさ。今日は久しぶりに会うことになって」

「まさか映画でも見に?」

「映画? いや……」


よかった。これで映画を見に行くと言われたら、今日一日がぶっ潰れるところだ。

それにしても、この駅に電車は30分に1本しか通っていない。

美咲も次の電車に間に合うように、ここへきてしまうだろう。

榎本と会ったら、なんてごまかすか。


「あ……室井だ」


ダメだ、作戦を練る時間も、なかった。これはごまかしようがない。

こうなったら、この場所で榎本が発作で倒れるくらいしか、手立てがない。


「久しぶりだな、室井、元気だったか」

「うん、元気。榎本君も元気そうね」

「あぁ、俺は元気だよ」


榎本の視線が、美咲と俺とを行ったりきたりする。

そうか、俺も美咲に挨拶しないと、おかしいんだっけ。


「へぇ……二人はデートなんだ」


経験を重ねているヤツは、これだけ鋭いのだろうか。

ごまかす前に完全にばれている。


「テスト前なんだけど、ちょっと息抜きに」

「ほぉ……」


榎本のヤツ。街であれこれ話したらただじゃおかないからな。

そういう視線を無言で送り続ける。

30分に1本しかない電車が、ガタガタと音をさせながらやってきた。

今更ながら、この街は狭くて窮屈だと思い知らされる。


「榎本君、楽しい映画、何か知っている?」

「映画? あぁ、お前たち映画見るんだ。
だったら、『恋するモルモット』って言うのがおもしろかったよ」

「『恋するモルモット』?」

「そう、学者の話しなんだけど、動物の恋愛を研究していて、
自分たちも恋に落ちるって話し」

「へぇ……」


おもしろいのか? それ。『初デート』なんだぞ、榎本。

昔から、人とピントがずれているところがあったしな、どこまで信頼できるのか。

電車はトンネルを抜け、見えていた景色をガラリと変える。

ボックス席に座ったため、俺たち二人の前にいる榎本の顔がハッキリわかった。


「室井、高校に入っても手芸部なのか?」

「ううん、手芸部はないの。今は何もしていない」

「お! それは帰宅部だな」

「帰宅部?」


そうだった。榎本の制服のボタンが取れかかっているとわかった美咲が、

得意の裁縫で、直してやっていたっけ。


「今はお店を手伝っているから……」

「あぁ、『金村園』のことか。それも大変だな」

「大変だけれど、当たり前だから」


美咲は、自分と母親が世話になっているのだから、手伝いくらいは当然だとそう答えた。

店の手伝いの中で、覚えることもいろいろあるのだと、

いつものように明るく振舞っている。


「おい、駿介。どうしたんだよ、黙っていて」

「ん?」


黙っているというよりも、お前を交えて話すことが見つからないだけだ。

貴重な30分間を、こんな形で費やすことになるとは。


「ずっと好きだったんだよな、駿介は、室井のこと」


中学2年に美咲が引っ越してきてから、俺がずっと好きだったのだと、

榎本は途中で止めるのも聞かずに、どんどんと語ってしまう。


「榎本、いい加減にしろって」

「いいじゃないか、こうして二人は付き合ってるわけだし、なぁ、室井」


美咲は、それでも嬉しそうに笑っていた。

俺が美咲のことを好きだったなんて、薄々わかっていたに違いない。


「室井のことばっかり考えてさ、ほら……あのエロ本」


俺は身を乗り出すと、榎本の胸ぐらを思い切りつかんだ。

車内には、少ないけれど数名の知らない客もいて、

その人たちが一斉にこっちを振り向く。


「榎本……窓から突き落とすぞ」


そう、エロ本を中学3年の夏に、拾い読みしたことがあった。

男たち3人で、誰の胸が形がいいとかなんだとか、クラスの女子話に変わってしまって。

その先は……


「じゃぁな、二人とも、また!」


榎本は終点の『戸倉』までは行かず、その2駅前で降りていった。

こんなところでどんなデートをすると言うのだろう。


「榎本君、今日はサイクリングなんだって。
ほら、明神公園にサイクリングコースがあるでしょ」

「サイクリング?」


毎日、通学で自転車を使う俺には、デートで自転車に乗るという発想は、

ありえなかった。それでも、ボックス席にいた邪魔者が消える。


「榎本に会うとはな……」

「よかったわよね、懐かしくて」

「いいか? 何もよく思えないけれど」

「そう? 映画も教えてもらったし」


美咲は本気で『恋するモルモット』を見るつもりらしい。

妙な映画だったら、今度あった時に蹴り飛ばしてやるからな。



覚えておけ、榎本!





「はぁ……ドキドキしたね」


榎本が紹介してくれた『恋するモルモット』は、タイトルの悪さに反比例し、

内容はとてもよかった。途中にあれこれあった主人公二人の恋も、

モルモットのおかげで途切れることなく続き、最後はハッピーエンドを迎える。

俺と美咲は隣同士に座り、1つだけ買った『ポップコーン』をつまみ、

先はどうなるのか予想をしながら、最後まで楽しんだ。


映画館を出た後、ファストフードの『ラッピーズ』に入る。

こんな店も、俺たちの町には存在しない。


「えっと、『チーズセット』と『トマサラセット』ください」


大丈夫、札は数枚入っているはず。

映画館ではあたふたしている間に、美咲が2人分チケットを買ってきてしまった。

ここは俺が出さないと。


「あと、これも……」


美咲が取り出したのは、優待券だった。単品で『ダブルビーフバーガー』が追加される。

俺たちのトレイの中に商品が収まって、俺は支払いを終える。

『ダブルビーフバーガー』は無料になった。


「どうしたんだよ、あれ」

「あのね、お店へ買い物に来るお客様のおばあちゃんがくれたの。
株主さんなんだって」

「株主?」


美咲が毎日店番をしていることに感激したおばあさんは、

街に行った時にでも使いなさいと、美咲に券をくれたのだと言う。


「へぇ……」

「いいことあるのよ、店番も」

「そうだな」


俺は、夜遅くまで、窓拭きや外掃除をしている美咲のことを知っている。

それでも、その頑張りを認めてくれた人が他にいたというだけで、

なんだか嬉しくなった。


「はい、これは大倉君が食べて。サッカー部でしょ、いっぱい食べて体力つけないと」


美咲は『ダブルビーフバーガー』を俺の方へ寄せた。

確かに2枚の肉が重なっていて、ボリュームがある。


「いいの? 本当に」

「いいの、いいの。遠慮なんてしないで」

「うん……」


単品の値段でも、セットと同じものだった。

そうなると、そのボリュームに期待が大きく膨らんでいく。

俺は『ダブルビーフバーガー』を両手でつかみ、思い切り口にほおばってみる。

口の中が『肉』であふれかえって、美味しさがそのまま腹の中に消えた。


「美味しい?」


まだ、口の中に残っているので、無言で何度か頷いた。

美咲は嬉しそうに笑っている。

しっかり一口目を食べ終えた後、初めに半分にすればよかったと急に思い立つ。


「肉の味がギュー! ってするの?」

「あぁ、するする。美咲も食べてみろよ。まだ、下のほうなら別にできるし……」

「そのままでいいよ」


美咲は、そのままでいいと手を出してきた。

この場所は噛んだぞと言いながら、両手で手渡していく。


「大倉君に負けないように、大きな口で食べるから」


美咲はそういうと、俺が噛んだ場所など気にせずに、そのまま口をつけた。

大きな口と言いながらも、噛んだ後の状況は、さすがに女の子だ。

俺に比べて、明らかに小さい。


「美味しい……」

「だろ」


かわいいとか、美人だとか、そんなことどうでもよくて、

目の前の美咲が、今の自分の全てだった。

美咲が笑ってくれるのなら、どんなに大変なことも出来る気がしたし、

あいつが助けてくれと言うのなら、どこからでも走っていける気がした。



好きで……ただ、好きで仕方がなくて。

1秒でもそばにいたくて、少しでも触れていたくて、



帰りの電車の中では、ずっと手をつないでいた。




第5話

駿介と美咲、二人の『恋』は、芽を出し、花を咲かせるのか……
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コメント

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どきどきものです

拍手コメントさん、こんばんは

>いいなあ・・・^^。
 二人で、一つのハンバーガーをドキドキしながら、食べる♪

あはは……ねぇ、思い出しますよね。
こんな純粋な日々(笑)
『高校生らしく』(一昔、二昔前のね)進みますので、
引き続きよろしくお願いします。