4 ハッキリ言う男 【4-4】

【4-4】

どうして彼女と会っていたのか、何を話したのか、

全てを知りたかったわけではないし、私には知る権利も何もない。


「何ですか」

「私、梶本君のプライベートを、あれこれ聞き出したいわけではないの。
ただ、ちょっと……」


私より背が高くて、運動神経も良さそうで、

言いたいことが素直に、ストレートに言えることに、

若くて、何でも出来そうで、自信があって……

そんなあなたに、軽い嫉妬をしていたのかもしれない。


「ちょっとだけ先輩面したかったの……かな? 余計なことなのにね」


こんな表現でよかったのだろうか、梶本君と会うと、どうも調子が狂ってしまう。

もっと冷静でいたいのに、知らない自分ばかりが前に出て行く。


「……なら、いいです」


梶本君は、また笑顔を取り戻して、何かに納得出来たのか、小さく頷いた。

私は、何がいいのかがわからなくて、首を傾げてみる。


「米森さんが、妙な考えを持っていないのなら、それでいいです」


妙な考え……それはどんな考えなのだろう。

モデルの子とは、特になんでもないですからという部分を、

梶本君はその後も強調した。


「いよいよ来週ですね、花火大会」

「あ……そうね」


マンションの入り口が目の前に迫り、最後は『花火大会』の話が始まる。


「晴れるといいですね」

「そうね」


落ち着きを取り戻し、エレベーターに乗り込むと、挨拶を交わし互いの部屋へ戻った。





顔の前で両手を組む時、力が入ると、血管が浮き出てくる。

確かにそこに血が流れているのだとわかり、難しそうな顔と重なって、

男の力強さも見えた。

彼が考え事をするときは、アゴの下に手を置くのが定番で、

何かを決めた時には、ほんの少しだけコクンと首が動く。



全て、斜め前方位置に座り、的確に部下を動かす謙の仕草。



過去を忘れようとしても、忘れ切れていない現実があることを、

慣れてきたからなのか、冷静に受け取れるもうひとりの自分がどこかにいる気がする。


上司と部下、今の私たちはそれだけだ。

私さえしっかり足を地面につけていれば、

別に知らない男のどうでもいい欲望を受け入れる必要もない。


「これ……お願いします」

「あぁ……」


提出する書類を全て書き終え、頭を下げた。

ふとした仕草に気持ちが揺れるけれど、どうしようもないくらいの苛立ちは消えて、

何か一つだけ階段を上がった気がする。

支店のシャッターが全て降り、その日の出来事を書類で振り返ると、

ほぼ定時通りに業務が終了した。


「お先に失礼します」


髪の毛も少しだけ切ったし、洋服も1つだけ新しく増やした。

他の人にはどうでもいいことだろうけれど、私には大事。

週末、出かける場所で、また一つ気持ちを入れ替えよう。

私にとって旅は……そんな意味を持っている。





旅行の日、いつもの時間に目覚めると、カーテンの隙間から見えたのは、

夏を意識しすぎるくらいの日差しだった。

眩しさに目を細め、片目だけをなんとか開ける。

起き上がりたくない。このままずっと眠っていたい。



しかし、辛いのは今だけ。

ここを乗り越えて出かけてしまえば、後は流れに身を任せられる。



「よし!」


1泊しか出来ないのだから、それほど大きな荷物は必要ない。

ちょっとしたものをあれこれ詰めて、リュックを背中に背負う。

今回は少し歩くつもりなので、動きやすさを意識したジーンズ姿。

ガスの元栓は閉めたし、カギも間違いなくかけて、

私は現実からほんの少しだけ自分を解放するため、駅へ向かう。

すると向こうからビニール袋をぶらさげて歩く、梶本君に会った。



本当によく出会う。



いや、出会う人は他にもいるのだろうが、知らない者同士だと、

通りすぎてしまうのだろう。

梶本君は、私に気付き、上から下まで確認するように目を動かした。


「おはようございます」

「おはよう……」

「旅行……ですか」

「うん、ちょっとした息抜き」


梶本君の顔が、何か言いたそうだったけれど、そのまま通りすぎる。


「あ、そうだ」


私は振り返り、『甘い物』は食べられるのかと尋ねてみた。

『箱根』にある甘くて美味しいもの、色々と知っている。


「米森さん」

「何?」

「……あ……いいです、すみません、出かけるところ」


歯切れの悪い会話が、妙な違和感を生み出した。

何でも思ったことをストレートに出せるところが、梶本君だと思うのに。


「何? 何か言いたげなんだけど。言いたいことがあるのなら、言ってください。
梶本君に引かれると、変な感じでしょ」


自分でガンガン言っていくのは好きではないが、私自身もグレーな状態は望まない。

右なのか左なのか、表なのか裏なのか、ハッキリさせたい。

このまま出発すると、梶本君のモゾモゾとした言葉が、ずっと頭に残りそうだ。


「じゃぁ、聞きます」

「はい」

「恋人と……旅行ですか?」


26歳。モデル並の女性が悩みを相談に来る若者には、

『恋』などに夢を見られなくなった私のひとり旅など、想像出来ないようだった。

そうなのだとウソをつこうかと思ったが、それもなんだかおかしな気がして、

私は目の前に立つ梶本君の顔面に向かって、左ストレートを打ち込む……ふりをする。

梶本君は、お付き合い程度に、よける仕草をしてくれた。


「お土産、買ってこないからね、『お一人様』にそういうことを言うと……」


それだけ言っておけばわかるだろうと思い、また前を向く。

しばらく歩いてもう一度振り返ると、梶本君の姿は消えていた。



【4-5】

『恋』の駆け引き……探る男と、探られる女
日常が、窮屈に思えてしまう時は、心が疲れているのかもしれなくて……
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