6 目の前にいる男 【6-1】

6 目の前にいる男


【6-1】

花火大会で迷惑をかけたという、梶本君からの謝罪。

急な病気で、迷惑をかけたという謙からのお礼。

意味は別なのに、どちらも『食事』という形になった。

『どうしましょうか』という梶本君と、『よければ明日の予約をする』と宣言する謙。

性格の違いだろうか、それとも……



経験の違いだろうか。





昨日、ちょっとした『詐欺事件』に巻き込まれそうになった早野さんの息子さんが、

あらためての挨拶に訪れてくれた。

家に戻り、それはだまされていたのだと冷静に話をし、

早野さんも納得してくれたと頭を下げてくれる。


「いや、そんな……」

「本当に助かりました。父はまだ、
一線で仕事をしていたときの気持ちが抜けていないのだと思います。
今時、現金をそのまま操ることなどないからと、何度も言い聞かせましたから」


本当に、梶本君の冷静な判断で、犯罪を未然に防ぐことが出来た。

山田支店長もよくやったと褒め言葉を贈り、同僚たちからも拍手が起こる。

休憩室には、早野さんからいただいた、高級なお菓子の詰め合わせが、

行員の分以上に、並べられた。


「いいんですか? いただいて」

「うん、みなさんで食べましょう」


さすがに若い女子たち、高野さんや井上さんはこのお菓子メーカーがどこで、

どんなものがおいしいのかも知っているらしく、二人で同じものを素早く取った。

支店長と謙が顔を出し、高野さんは箱を持つと、どれがいいですかと聞いている。

謙はきっと……


「高野さんは何がお薦め?」

「私ですか? 私ならこれかな。これ、美味しいですよ」

「それなら僕はこれで」


謙は高野さんのお薦めを取ると、それを高野さんに手渡した。


「僕から高野さんに……申し訳ないが甘いものは苦手なので」

「いただいていいんですか? 副支店長」

「どうぞ……」


高野さんは嬉しそうにそれをポケットに入れ、

井上さんはそうなるのなら自分が聞けばよかったと悔しがった。

謙は昔から甘いものが好きではない。

食事に行き、コースの最後に甘いものが出ると、必ず私に押しつけた。

味わう前から嫌わずに、試しに一口だけどうなのかと言っても、

絶対に口にしなかった。



好みは変わっていないらしい。



昼食を済ませ、バッグにお弁当箱を入れ終えると、携帯にメールの印が見えたので、

私は更衣室の隅でそれを開く。



『今日、19時に『TWIN HOTEL』のロビーで待っていてほしい』



もし、都合が悪いのなら退社までにメールをほしいという文面が、

その後についていた。更衣室に別の女子行員が戻ってきたためすぐに閉じ、

バッグに押し込んでいく。



『TWIN HOTEL』



場所はどこだっただろうか、ここからならどれくらいの時間がかかるだろうかと、

私の頭はすぐに簡単な計算を始めてしまう。

その日の午後は、いつもより時間を確かめる回数が増えていた。





細かい数字が並ぶ書面を、隅からしっかりと確認し、上司へ渡す。

ロビーに立っていたパートたちが、『本日もありがとうございました』と頭を下げ、

目の前にシャッターが降りていく。

高野さんは立ち上がると思い切り背伸びをし、やっと一日が終わったという顔を見せ、

先輩行員から、少しにらまれた。

私は、今日の取引が全て正確にこなされているかの確認をするために、

データを呼び出していく。ほんの数秒ある待ち時間に、時計を確認した。

謙との待ち合わせの時間まではまだ余裕があるのに、

心だけは『恋』をしていたときのように、浮き上がるような思いがよみがえる。


「確認OKです」

「はい、了解」


お先に失礼しますと声を出し、自分の担当場所から離れていく。

法人課との会議を終えた謙と、階段ですれ違った。

互いに合わせた目は一瞬だけれど、『NG』ではないことが伝わっただろう。


「米森さん」


階段の下から声がしたので振り返ると、梶本君が上がってくるところだった。



【6-2】

『恋する気持ち』を伝える方法は、人それぞれ
押すべきか、引くべきか……悩む歌穂の思いはどこに……
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