6 目の前にいる男 【6-3】

【6-3】

私に向けているこの目は、何%くらいがウソで、何%が本気なのだろう。


「それは、関係のないことですから」

「興味を持つことは悪いこと?」

「副支店長が奥様とどうするのかは副支店長の問題で、私のことは……」

「副支店長と、この場所でも呼ばなければいけないくらい、壁を作らないとダメなのか?
僕は、どんな人を選んだのかと、それを聞いているだけだ」


謙の目が、『ウソをついているだろう』と、私を揺さぶってくる。

ここで動揺する仕草を見せたら、私の負け。


「そうですね、いつも明るくて、それでいて優しくて、少し……」


少し……真面目すぎるところもあるけれど、でも……


「そう……私に、ウソをつかない人です」


私を抱きしめ、『愛している』とささやきながら、別の人と歩くことを選んだ男。

彼はそんな人ではない。




彼……




「ウソ……か……。確かに、今の僕と歌穂の状態を冷静に見れば、
僕は君にウソをついたことになるのだろうね」


私は、謙に誰のことを話したのだろう。

ごく普通の、そこら辺にいる人のことを思い浮かべたつもりだったのに。


「だとしたら、僕の告白は迷惑なだけだろうけれど、
思いがあることだけは、隠したくない……。まだ、時間があるというのなら……」


『時間』

流れてきた時と、これから向かう時と。



「僕は君を、もう一度振り向かせてみせる」



謙はそう言うと、また箸を動かし始めた。

昔から、こうすると決めた時は、必ずその通りに成し遂げてきた。

だとしたら、謙はもう一度、あの頃のように私を見つめてくれるのだろうか。


「ワイン、もう1杯いただいてもいいですか?」

「……あぁ」


深みに嵌りそうな話題から、あえて気持ちを逸らすことにした。

今はまだ、鎧をつけた状態のままでいたい。



『男』の気持ちなど、いつどう変わるのかわからない。

私は、父と謙から、そういうずるさを見せつけられてきたから。





「ごちそうさまでした。たいしたことをしたわけでもなかったのに、
申し訳ないくらいですけど」

「いや……」


私はあらためてお礼を言うと、駅に向かう案内図を探すため上を見た。

謙は私の腕をつかみ、動こうとした体は、思いとは別に止まってしまう。


「また……誘ってもいいだろう」


深く、そして重く、どこまでも優しい声。

私はイエスともノーとも言わないまま、謙の手をすり抜ける。


あの日々の心地よさと、あの日々の張り裂けそうな辛さと、

どちらが私を包むのだろう。


私は一度も振り返らずに歩き続け、そして、地下鉄のホームに向かうため階段を下りた。





東京にある大きな放送局。

毎日、同じ番組が繰り返し流れてくる。

『米森源太郎』は、その番組内で月に1度コメンテーターを引き受けている。

神南大教授、心理学分野の研究者、生活に悩む人のアドバイスをするには、

もってこいの存在だった。


「そうですか……家族の」

『はい、娘が心を開かなくて……』


年頃の娘と、なかなかコミュニケーションが取れないことが悩みだと、

今朝の主婦はそう相談内容を語った。父は親身に聞いているという態度を取り、

『あなたが真剣に生きていれば、娘さんはきちんと見てくれています』と、

恥ずかしげもなく、見知らぬ他人にそう言い切った。


「何言っているんだか……」


クロワッサンをちぎりながら口に入れ、ティーバックで色を出した紅茶を飲み干すと、

私は流しに片付ける。今日はゴミの日。

忘れないように袋をまとめ手に持つと、そのまま玄関を出る。

カギをかけて下に降りると、ゴミ置き場へ袋を押し込んだ。

朝早くから来てくれている管理人さんに挨拶をし、少し早歩きで駅に向かう。

昨日とは違う今日の日が、また始まった。



【6-4】

『恋する気持ち』を伝える方法は、人それぞれ
押すべきか、引くべきか……悩む歌穂の思いはどこに……
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