6 目の前にいる男 【6-6】

【6-6】

仕事に行きたくないと思ったのは、何年ぶりのことだろう。

予定外のところから、設定された2つの食事会。

少し落ち着きを取り戻していた私の気持ちが、完全におかしくなってしまった。

どうしよう、梶本君の顔、まともに見られるだろうか。


いや、謙と奥さんのことは、私にはどうにも出来ないのだから、

まずは、梶本君の方を、きちんとしないと。




『俺……あなたに惹かれています』




本当に、ストレートだった。

30をとっくに迎えてしまった私には、あのまっすぐさが怖いくらいに。


歯ブラシを口に入れ、前後に動かしながら、鏡に映る自分を見た。

仕事中は、いや、それ以外の場面でも愛想はないし、

変なところが負けず嫌いで、相手に調子を合わせることだってあまりない。

年齢だって彼より6つも上で、だからといって、

飛び抜けた魅力があるわけでもないのだから。



『惹かれています』



「……おかしいでしょ、絶対に」


確かに言えることは、梶本君も酔っていたということ。

きっと、浮かれた気持ちを、『惹かれた』と勘違いしたのだろう。

隣に住んでいて、職場の先輩で、ほんの少し今までに出会った人たちよりも、

興味を惹くところが、私にあったのかもしれない。


「ふぅ……」


いつものように挨拶をして、いつものように仕事をしよう。

そして、タイミングがあったとき、『気にしていないから』と一言言えば、それで終わる。

私の方が先輩なのだから、ここはうまくリードしてあげないと。

そう鏡の前に立つ自分に何度も繰り返し、私は身支度を整えて電車に乗った。





午前中から、給料関係の出金が多く、店は慌しい。

私はお行儀欲並ぶ数字たちを確認しながら、もう一つの確認を行った。

体調を崩した謙は、もうすっかりよさそうで、仕事の引継ぎも順調。

そして、突然の告白で私を驚かせた梶本君も、真剣な顔で目を動かしている。


「米森さん」

「はい」

「午後から、資料作りを頼めるかな。あさっての『西地区会議』があるからさ」

「はい……」


東日本銀行の頃から、この支店が自社ビルだったこともあり、

上の階ではよく会議が行われた。成和銀行と合併し、地区割りも済んだのか、

『支店長』が集まる会議が、初めて行われる。

支店長会議の資料は最重要資料のため、会議中配られたものは、

持ち帰りは禁止とされていた。

用紙が抜けていないかどうか、全てチェックまで行わないとならなくて、

普通、資料作りなど新人の仕事だけれど、この会議だけは行員の中でも、

ある程度のベテランがやることになっていた。

私も初めて指名されたのは入行5年目。


「わかりました」

「あ、そう、梶本君にも頼んであるから、一緒にね」

「あ……はい」


梶本君と一緒。

梶本君は入行4年目のはず。成和銀行はルールが違うのだろうか。

そういえば、今資料作りを頼んだ主任は、元成和の出だ。

となると、作り方も違う可能性がある。

私は午前中の仕事を終えて、休憩に入りますと声かけをした後、

いつもの休憩室でお弁当を広げた。

5分ほどすると、外で声がし始め、買い物に出かけた行員たちも、

どんどん休憩室へ入ってくる。その中に梶本君が見え、私の方へ近付いた。


「米森さん」

「はい」


まさかとは思うが、昨日のことをあれこれ言うつもりだろうか。

いや、いくらハッキリものを言う梶本君でも、

ここがどこなのかくらい、わかっているはず。


「午後の資料作り、よろしくお願いします」

「あ……こちらこそ」


昨日、一応告白をした相手がここにいるのに、別に何かが変わったことも、

どこか照れくさそうでもなく、梶本君は普通に声をかけてくれた。

私の方が意識しているようになってしまい、返事が少し遅れていく。


「梶本君、4年目なのに資料作り任されるのね」

「4年目? あぁ、はい。入った年数って関係あります?
東日本は違うんですか」

「うん……うちは……」


少し話せればいいと思っていたのに、梶本君は、私の目の前に座り、

買ってきたお弁当を広げ始めた。ここで食べるつもりだろうか。


「成和は、全てメールで支店長宛てに資料が届きます。
おそらくこれから作るのは、付属的なものだと……」

「付属……」

「はい」


梶本君は、自分のお弁当が新しく出来た店のもので、

結構人数が並んでいたので、買ってみたと言いながら食べ進める。

私は、時々、話しかけられるので席を立つわけにもいかず、

いつもよりもゆっくりとコーヒーを飲んだ。



【7-1】

『恋する気持ち』を伝える方法は、人それぞれ
押すべきか、引くべきか……悩む歌穂の思いはどこに……
1日1回、読みましたの拍手、ランクぽちもお願いします(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


コメント

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これからもおつきあいください

拍手コメントさん、こんばんは

>毎日だと、読むのが大変かなと思っていましたが、
 それほど長くないので、あっという間です。

そう言っていただけると、嬉しいです。

>私のごひいきは、今は黙っておきます。

あはは……知りたいですけれど、聞かずにおきます。
どうぞ、これからもおつきあいください。

本当にお久しぶりです。
しばらくぶりにここに来て、
一気にここまで読んじゃいました♪

私のごひいきは、お若い梶本君です^^
がんばれ若造!
途中でへこたれずに突き進んでね♪

また続き読みに来ます~(^-^)/

ありがとう

れいもんさん、こんばんは
お久しぶりです。

読んでくださったのですね、嬉しいです。

>私のごひいきは、お若い梶本君です^^
 がんばれ若造!

あはは……ごひいきは圭ですね。
現在、お話は終盤になっていますが、いつでもここにありますので、
お好きなときに、おつきあいくださいませ