10 勘違いをする男 【10-3】

【10-3】

梶本君はあらためて目の前に座ると、何やらチケットをテーブルに置いてくれる。


「これ、見て下さい」

「うん、何?」

「実は昨日、家に戻る前に俺、『ジュピター』に行ったんですよ」

「『ジュピター』に?」

「はい。ひとりで部屋にいて、米森さんを待っているのも落ち着かない気がして」


梶本君は、食事の予定があることも隠さずに話してしまっただろう。

響子さんはきっと、梶本君のそわそわした思いに気付いていたはず。


「これ……もらったんです」

「何?」

「『宝町』に新しく出来たビル、知ってますか? うちの『宝町東支店』の反対側」

「あ……うん、ニュースになっていたね」

「そこの最上階に、『プラネタリウム』が出来たそうです」


そういえば『ジュピター』とは木星の意味。

響子さんも『星』が好きなのだろうか。


「『ジュピター』を利用しているお客様の中に、この建設に携わった人がいて、
その人から招待券をもらったって。で、それを俺に……」


響子さんは、自分には一緒に星を見たい相手もいないのでと説明をつけた上で、

梶本君に手渡したと言う。


「『プラネタリウム』かぁ……小学校の時くらいに、見た記憶があるけれど」

「ガンバレ……って、言ってくれました」


『ガンバレ』

響子さんが、梶本君にエールを送ったということ。


「すぐには無理かもしれませんけれど、何度もくじけずに頑張りますって、
俺、言ってきました」


梶本君は、テーブルのチケットを、手でこちらに押してくれる。

『星空と夢への招待券』

チケットには、そうタイトルがついていた。


「何度も……くじけずにって?」

「はい。その割には、昨日くじけてましたけど」


梶本君はそういうと、照れくさそうに笑ってくれた。



『米森さんを取るかもしれない男の話を、聞いているのは……嫌です』



そう、あの顔、あの姿を見せられて、確かにこたえた気がする。

胸が苦しくなるなんて感情、久しぶりに味わったっけ。


「一緒に……行ってくれますか? 俺と」


私は両手でチケットを受け取り、しっかりと頷いた。

梶本君と見に行くのなら、動物園でも水族館でも楽しそうだ。


「初デートです」


梶本君はそういうと、恥ずかしそうに鼻の下を軽く掻いた。

そんな仕草を見た私の口元も、自然と緩んでしまう。





私たちは、1歩前に、進み始める……





知っている星座の話をしたり、困ったお客様の話をしたり、

食べるものがすっかり無くなってからも、私達の話題は尽きることがなかった。





「休憩取ります」

「はい」


梶本君に逆告白をしてから、私は休憩時間になると、

お弁当と一緒に携帯を取るのが癖になった。

梶本君は、この秋から得意先へ向かうことが増えていて、行内にいないことも多い。



『真壁さんとの話し合い、うまく行きました』



仕事の報告、町で見つけたお店の話題、暇を見つけては私にメールをしてくれる。

私も『よかったね』とか、『気をつけて』とか、特別な言葉ではないけれど、

エールを送ってあげられることが嬉しくて、気付くと昼食を取る手が、

止まっていることが増えていく。


「米森さん、ここいいですか」

「あ……うん」


高野さんの登場に、慌てて携帯をしまった。

梶本君と個人的な付き合いを始めていることなど知られたら、

あっという間に広まってしまう。


「米森さん」

「何?」

「なんだかここのところ、楽しそうですね」


高野さんは、私がいつも笑っているとそう言ってくれた。

自分でそんなことを考えたことなどなかったので、思わず頬に触れてしまう。


「別に何も変わらないけれど」

「そうですか? 毎日充実しているって顔をしてますよ。うらやましいです」


高野さんには確か、お付き合いを始めた人がいたはず。


「彼とケンカ?」

「……そう見えます?」


見えるとか見えないとかではないけれど、自分の話題からそらしたい思いはあった。

高野さんの仕事以外の鋭さに、巻き込まれそうだし。


「最初は優しい人だと思ったんですよ。私のことを気にしてくれるし、
でも、近頃どんどん変わってきて」

「うん……」

「やっぱり男なんて、自分が一番かわいいんだなって、そう思うようになりました」


そう、私もそうだった。

『恋』がうまくいかないときって、全てがそうなのだと思えてしまう。


「そんなことないよ。もちろん自分が大事だということはあるだろうけれど、
相手のことも考えてくれる人はいる」



『あなたに惹かれています』



私の気持ちを、くじけずに『待ってくれた人』

そんな人だって、この世にはいる。


「やっぱり……」

「何?」

「やっぱり米森さん、そういう人がいるんですね。だって、余裕だもん。
どういう人ですか?」

「あぁ、もう、そんなことは言っていません」


高野さんは、米森さんならきっと社会的に地位のある人ではないかとか、

勝手な想像を膨らませていく。私は、これ以上向かい合っていると、

余計なことを言ってしまいそうで、少し急いで昼食を食べ終えた。



【10-4】

心の変化に気がつくと、見えている景色も変わってくるようで、
『思い』は人を、笑顔にも不安にもさせていく。『恋』する歌穂と、そして……
1日1回、読みましたの拍手、ランクぽちもお願いします(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


コメント

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休みの楽しみです。
毎日、わくわくしてます。
頑張れ

ぽこさん、こんばんは
コメント、大丈夫ですよ。

世間はGW。主婦は忙しいですよね。
そんななかで楽しみにしていただけて、とっても嬉しいです。
これからもおつきあいください。