11 愛に向き合う女 【11-1】

11 愛に向き合う女


【11-1】

カーテンは閉められていて、オレンジ色のライトが、重なる私達を優しく包む。

梶本君の唇から、お酒の匂いはしたけれど、

訳がわからなくなるまで酔っているとは言えず、

むしろ、私への思いを大胆に現してくれた。


普段のような、丁寧な言葉づかいで私に問いかける彼はそこにいなくて、

ただ、『男』の力強だけ感じさせてくれる。

小さな部屋の中で、素肌を互いに重ねたまま、私達は『愛に揺れた』。


彼の指先が私に触れるたび、体中が1本の線でつながれているような気がしてしまう。

私は、このあふれていく声と思いを、止めることは出来そうもなくて、

流れていく指先の行方に、脚が震え、そして背中を反らす。


目の前にいる彼の目が、ひとり冷静に思えて、悔しくなるのに、

私は全てを支配されたまま、ただ、女として受け入れることしかできなくなっていた。

唇を閉じたままの私から出て行ったのは、少し困った子犬の、甘えたような声。

彼は、そんな私の訴えに、優しく微笑んだ。


長い吐息と一緒に、私達は互いのぬくもりを感じあった。

触れる唇、からむ指先が、もっと強く愛して欲しいと訴えていく。

『愛すること、愛されること』に背を向けていた私。

そんなガチガチな心を溶かしてくれた人は、ゆっくりと揺れながら、

滑らかな思いを残していく。



梶本君は、両肘をついたまま私を見つめ、優しく微笑むと、

少し汗ばんだおでこに、そっとキスをしてくれた。





心も、身体も、全てを包まれたまま、私は眠りにおちていく。

優しく、あたたかいその場所は、誰でもない私だけのもの……





彼の体温に包まれた朝は、鳥の声で始まった。

私は、少し体の向きを変え、そばにあった時計に手を伸ばす。

夢のような夜は、眩しい光りの朝に変わった。

私たちが、ぬくもりから抜けだし、同僚の立場に戻らなくてはならない時間。

そろそろ起き上がり、それぞれ支度をしなければ遅れてしまう。


「ねぇ、梶本君、時間」

「ん?」


隣で気持ちよさそうに眠っている彼には悪いが、

このまま夢の中で過ごしてもらうわけにはいかない。

梶本君は、昨日見せてくれていた顔とは全く違う、子供のような顔で、

少しボーッとした表情を、私に向けている。

そんな幸せな表情を、飽きるほど見ていたけれど、そうもいかない。


「ねぇ、起きて。もう朝だし、支度もあるし」

「あ……はい」


起き上がった梶本君の頭は、またあの日と同じになっていて、

私はそれがおかしくて、笑い出した。

昨日の夜は、こんな髪の毛ではなかったのに。


「どうして笑うんですか」

「ごめんね、だって……頭、ほら、あの……」

「アトム?」

「そう」


眠り方がどうのこうのという問題ではないのかもしれない。

梶本君が、必死に手で髪をなでる仕草が、余計に笑いを増長させた。

私はそのまま、梶本君の寝癖に手を伸ばす。


「あぁ、もう、そんなに笑うな!」

「あ……やだ」


起きようと思っていた私の体は、また彼に押さえられ、ベッドへ戻された。

あらためて仰向けにされてしまうと、何も隠すものがない自分の姿に、

恥ずかしさが頂点になり、笑いは一気に冷めていく。


「ねぇ、ちょっと……」

「昨日の夜は、あんなにかわいい顔をしていたのに」


男の力で、私のことを押さえ込み、得意げな梶本君の顔が、目の前にある。

そういう時のことを持ち出すのは、ズルイと思う。


「そういうことを言わないで」


自分が、ただ彼を求めていた時のことを、思い出してしまう。

体中が熱くなり、自然と吐息が漏れた……あの時……


「でも、そんなギャップが好きです……」

「梶本君、ねぇ」


私は、梶本君に両腕を押さえられたまま、何もすることが出来ない。

なんとかしようと脚を使い、身体をはずそうとするが、

動けない私をあざ笑うかのように、梶本君の唇がゆっくりと私の胸の先に近づき、

舌が軽く触れる。

そのくすぐったい刺激が、言葉とも言えない声を、私の唇から送り出してしまう。


「……やめて」

「どうしようかな」


起きなければならないのに、こんなことをしていてはいけないのに、

気持ちばかりが焦ってしまい、身体は思い通りに動いてくれない。


いや……本当は、動こうとしていないのかもしれない。

私自身が、また、彼を求めているのかもしれない。


「また見せてくれますか? そんな顔」


梶本君の言葉が、首筋にキスをした唇から耳に優しく届く。


「もう、いいから、起きて!」


私はなんとか彼の腕から手を抜き取り、何かを思い出していそうな顔に向かって、

その余韻を打ち消すように手を大きく広げていく。

梶本君は、指の隙間から少しだけ顔を出し、

私はその優しい笑顔に向かってゆっくりと近づき、『おはよう』のキスを送った。



【11-2】

『恋』に振り回されたあの日も、
『恋』にほっとした今日も、どちらも私……
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