11 愛に向き合う女 【11-2】

【11-2】

二人で朝食を取った後、彼は隣の部屋に戻り、私は支度を済ませていく。

梶本君は今日、午前中は本店に行く予定があると言っていた。

こういう時、直接出かけられる仕事は、あれこれ誤魔化しやすい。

二人分のカップを流しに片付け、私は先に家を出ることにする。

化粧をするために鏡の前に座ると、いつもと変わらない自分の顔がそこにあった。


形は変わらないけれど、私自身は大きく変わっている。

どこかに見失っていた『愛』が、突然私を大きな心で包んでくれたから。


「よし……」


カギを閉め、今頃寝癖に奮闘しているはずの彼の部屋の前を歩き、

私は一人、エレベーターに乗った。





流れていく数字を追いかけながら、提出された書類に目を向ける。

気になる箇所があり、提出者の印を確認すると、思った通りの人だった。


「高野さん、ちょっといい?」

「はい」

「ごめんね、これ、もう一度書いてもらってもいい?」


彼女のくせ字はなかなか直らない。銀行は数字が全て。

まぁ、これでいいやでは片付けられない。

一人がどこかで勘違いをしてしまったら、全ての積み重ねが無駄になる。


「わかりました、すぐに書き直します」

「うん……」


意識していたわけではないのに、自分でもわかるくらい口調が優しくなれた。

だからなのか、高野さんの反応も悪くなく、とげとげしさもない。

その日は、窓口業務のパートさんが、子供の急病で休みを取り、

フォローに慌ただしいこともあったが、大きなトラブルもなく、

時間はあっという間に過ぎていく。


「すみません、先に休憩入ります」

「はい」


私は更衣室へ向かい、ロッカーを開き、お弁当と携帯電話を取り、

先に食事を始めていた同僚に頭を下げ、いつもの端の席に座った。

お弁当の包みをほどこうとしたが、携帯にメールの印がわかり、

そちらを先に開いてみる。

相手は、梶本君だった。



『今日の空は、快晴中の快晴です。外回りも気持ちがいいですよ』



つい、何時間か前まで、同じ場所の空気を吸っていたはずなのに、

その心地よい時間が、相当前だったような気がしてしまう。

私は携帯を持ったまま、休憩室にかかっているカーテンを開いた。

見上げると、眩しい太陽と、確かに快晴の空が見える。

この空を、彼は今、どこで見ているのだろう。


「うん……快晴だ」


私は、その日差しを背中に受けながら、梶本君にメールの返信をする。

メールのマークが携帯の画面を横切り、OKの文字が現れた。

確かに送られたことを確認すると、そこからはゆっくりお弁当をほおばった。





梶本君との日々は、それからも順調に進んでいった。

同じ職場と言うこともあり、だいたい忙しい日はいつなのか、

時間が取れるのはどこなのか、互いにわかってくる。

支店を一緒に出るようなことはしなかったが、駅でそれなりに時間を合わせ、

目的地の改札を抜ける頃には、足並みも揃った。


「あぁ……今日は寒いね。手がかじかんじゃいそう」

「そうですね」


11月に入ると、朝や夜は本当に冷え込んだ。

厚めのコートを羽織ながら、街の華やかな場所を歩いて行く。

素敵なブーツに目を奪われていると、私の右手が、梶本君にさらわれた。


「何?」

「手がかじかむのでしょ。ここに手を入れておくと、あたたかいから」


つながれた私の手は、梶本君のコートのポケットに収まるが、

少し引っ張られている気がして、思っていたよりも歩きにくい。


「ごめん、これは嫌。歩きづらい」

「そうですか?」

「そうよ、梶本君の方へ常に引っ張られている感じで歩くから、違和感ある」

「そっか……」


いいことを思いついたのにと言った梶本君は、少し残念そうに手を出したが、

つながれたままでいることに、心がほっこりと温まる。


「ねぇ、これ見て。素敵でしょ」

「どれ?」


始めのうちは、どこかで知り合いの行員に会うのではないかと、

ハラハラしながら歩いていたけれど、それはいつの間にか消えていた。



つながる手と、笑う声。



私達は悪いことをしているわけではない。

堂々と歩き、見つめ合い、楽しい話をすればいいのだから。

特別に入る店を決めたわけではないので、二人のペースで歩みは続いた。



【11-3】

『恋』に振り回されたあの日も、
『恋』にほっとした今日も、どちらも私……
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