11 愛に向き合う女 【11-4】

【11-4】

「前にね、ひとりで暮らす意味などないから、実家へ戻れって言われたことがあったの。
それを無視していたら、勝手に乗り込んで来て、荷物を出そうとしたのよ。
ひどいでしょ、父は私があの部屋にこだわる意味なんてわからないのよ。
花火大会を見たことも、忘れているの」


前もこんなふうに、梶本君に家族の愚痴を語った。

『親は親』だとわかっているつもりだけれど、やはり寂しさはぬぐえない。

どうして他の人と同じにならないのかと、不満ばかりが積もっていく。


「自分は愛されない存在なんだなって、高校くらいから思うようになっていた。
私や母よりも、別の女を選んで父は出て行ってしまったから」


それだけではない。

父を失った母に、心の隙間を埋める相手として待たれていることが辛くなって、

結局私も家を出てしまった。

家族なのに、気持ちも体もバラバラになったまま。

その溝は時間が経っても埋まらないし、誰も埋めようとはしない。


「あの『花火大会』を一人で見ていると、すごく寂しくなるんだけれど、
でも、唯一、『愛されていた記憶』があるような気がして……忘れられなくて、
あの場所を選んでいたんだよね」



またいつか……



「またいつか……
この『花火大会』を、本当に優しい気持ちで見ることが出来たらって……」



私を本当に愛してくれる人と一緒に、一瞬だけれど輝くあの星の夜を感じたい。

それが出来たらきっと、自分に自信が持てる。

『愛されている』ことがわかればきっと、寂しさが消えていく。


「米森さん」

「何?」

「愛されない存在だなんて、そんな寂しいこと言わないでください。
あなたなら、好きになってくれた人だって、いたはずですよ」



好きになってくれた人



そう、私が好きになって、ずっと一緒にいたいと願った人もいた。

でも、彼も私を捨てていった。

尽くしても、愛しても、その願いは叶わなかった。



「恋愛もうまく行かないタイプなの、私。『どうせ』とか、『でも』とか、
いつも自分自身につけていた。かわいくないのよ……
だからね、梶本君が『惹かれています』って言ってくれたときも、
ふざけているのだろうとしか思えなかった」

「ひどいな、それ」

「ごめん、でもそうなの。6つも年下で、モデルをするくらい素敵な人が、
こんな自分に興味を持つこと自体、真実だと思えない……ううん、
真実だと思ってしまって、また『裏切られる』ことが嫌だったから」


信じなかったというよりも、信じてしまったら自分が損をすると、

そう思っていた。どこかで突き落とされるのなら、

初めから登らなければいいのだと、信じていた。


「上司から、米森さんの仕事はしっかりしているなんて言われても、
全然嬉しくなかった。私は、仕事しか出来ない人だって、言われているみたいで」

「米森さん……」

「いやよね、年齢を重ねると、素直じゃなくて」


目の前に咲く花を単純に綺麗だと思い、美しいものの裏など見ずに、

その華やかさだけを追い続けることは、いつの間にかできなくなった。



「俺がいますから」



梶本君はそういうと、また私の手をポケットに押し込んだ。

指先の冷たさが、だんだんと温度をあげていく。


「どの顔を好きになったとか、そういう具体的な例では言えないですけど、
米森さんといると、心が休まるんです。
人に見せようとして、無理に笑ったりしないから」


無理に作る笑い。

それがさらに寂しさを生むことも、いつの間にか覚えていた。


「本当に笑ってくれることが嬉しくて、もっともっと笑って欲しいとそう思うんです。
俺が、笑顔にしてあげたいって、そう思うんです」


本当に笑うこと……

そう、それも梶本君が思い出させてくれた。

あるときは書類をばら撒いて、あるときは頭を寝癖にして、

そしてあるときには、私の顔を、子供のようにじっと見ていた。



「ありがとう」



あなたのおかげで、私は少しだけ『かわいさ』を取り戻しただろうか、

私は、梶本君のストレートな言葉を受け、照れながら頭を下げた。

年の差はあるのに、あなたの方が私より数倍も強さを持っている。

私はこの手を離したくないと、ポケットの中にある手を握り返した。



【11-5】

『恋』に振り回されたあの日も、
『恋』にほっとした今日も、どちらも私……
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