14 隠し事をする男 【14-2】

【14-2】

「ごめんなさい、気持ちが焦ってしまって」

「いえ……」


梶本君は、謙と私の過去を気にしているわけではないと、そう何度も言い続けた。

正々堂々と自分の力で返済する道を選びたいと、彼らしく言い切ってしまう。


「真面目に銀行マンをしているよりも、正直、お金にはなりますから。
割り切って、若いうちだと思えば、それで解決出来ます」

「仕事って、あるの?」


私はそういった華やかな世界を何も知らない。

でも、事務所に所属するだけで、急にあれこれ仕事がもらえるものだろうか。

よく、テレビなどでタレントさんが、売れなかった時代の話をすることがある。

世の中は、そんなに甘くないだろう。


「それも、考えてのことです」


何を言っても、梶本君の気持ちは変わらないように思えた。

決まったら話してくれると言っていたけれど、すでに決まっているようにしか思えない。


「とにかく、話してしまったので、これからはウソにならないように気をつけます」


梶本君は残ったコーヒーを飲み干し、遅くなるから出ましょうと、そう言ってくれる。

私は1度だけ頷くと、彼の背中を追った。





聞きたいことも、話したいこともまだまだあった。

でも、他の人がいる店の中で、あれ以上語り合うことは出来なかった。

事情は簡単に理解したけれど、梶本君を手放しで応援するほど、

納得はしていない。

私に出来ることは何かないだろうか。

整理のつかない頭の中でたどり着いたのは、謙への連絡だった。





仕事をした後、いつも会っていた店で待ち合わせをした。

今日は会議があるので、

予定通りに着くかどうかもわからないとメールの返信を受けたが、

時間が重なるほど、問題の解決が困難になりそうで、私は待つことを選択した。

事務所としての実績は、現在売れているモデルもいるのだから、問題ないだろうが、

梶本君が銀行を避けているような態度が、気になった。

精一杯やったけれど、出来なかったと言うより、

あえて関わろうとしていないように思えることが、もやもやを膨らませていく。


時計が夜の8時を過ぎた頃、謙が店に来てくれた。

私は席を立ち、きちんと頭を下げる。


「どうしたんだ、そんなことをして」

「ごめんなさい、忙しいのに」

「あぁ……忙しいね。どうでもいいことには関わりたくないくらい」

「謙……」


謙は、すでに私が何を考えているのか、わかっているのだろう。

席へ着き、いつものお酒を頼むと、座るようにと指示される。


「梶本のことだろう」

「うん」

「辞めるそうだ」

「ねぇ、どうにかならない? 彼はこれからも『東日本成和』で働けるわ。
うちが借金を肩代わりできたら、そうしたら……」

「歌穂、銀行は誰が見ても納得できると言う理由付けがなければ、融資は出来ない。
行員だからその基準がないようなものだとなったら、資産は守れないだろう」

「わかっています。でも、梶本君の実家には土地があるでしょ。
それをとりあえず……」

「ダメだ」

「謙……」

「君が思いつくくらいのことなら、あいつが思いつかないわけがないだろう。
それを実行しないのだから、それなりの理由がある。そうは思わないのか」


それなりの理由。


「支店長や副支店長に頭を下げたくないって、そう言っていた」


謙に頭を下げたくないのは、負けたくないから。

そんなどうでもいいことに振り回されるのは、誰よりも彼のためにならない。


「ふっ……」


謙は余裕の笑みを浮かべ、グラスに口をつける。

私は、謙ならば、何かいい方法を考えられないのかと、食い下がった。

個人的なプライドにこだわっている場合ではないのだから。


「歌穂、どうして僕があいつにそこまでしなければならないんだ。
辞めるか辞めないかは、梶本自身が決めることだ。
むしろ、僕がやらないとならないのは、彼がいなくなっても、
仕事がスムーズに進むように考えること、そうだと思うけれど、
上司だからといって、立場を危うくするくらいまで、のめりこむ必要などない」

「謙……」

「あいつが銀行からいなくなるのなら、僕にとってこれ以上のことはないだろう。
君の前からいなくなる」

「何を言っているの?」

「何って、そういうことだ」

「バカなことを言わないで。私は戻らないとそう言ったでしょ」

「それなら……」


それなら……

今の話を止めて、謙が何を言うのか、私はその口元に目を向けていく。


「それなら、僕が梶本を救えたら……君は僕の出す条件を飲めるのか?」

「条件?」

「副支店長として、いや、『東日本成和銀行』の社員として、自分の立場も利用し、
若手の社員の窮地を救ったのだとしたら、君は……」



梶本君の悩みを、謙が救えるのなら……




「君は僕に、全てを投げ出せるのか?」




『全てを投げ出す』

そう言った謙の目は、どこか冷たく、寂しそうに見えた。



【14-3】

男のプライドと女の意地。
歌穂の恋模様は、あらたな絵を描いていくことに……
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