14 隠し事をする男 【14-5】

【14-5】

『別れて欲しい』という話を、こうして目の前に出されると、

どう反応していいのか、わからない。


「ごめんなさい。もう少し言い方があるのだろうけれど、
伝わらなかったら意味がないので」


『身辺整理』

2年間、専属モデルとしての契約を済ませ、一年の半分くらいを、

プロモーションを兼ね、海外で過ごさなければならないと説明される。

新しいブランドのイメージを確実なものにするために、

絶対にスキャンダルは許されない。

具体的な内容を見せてもらったわけではないが、

『車の運転禁止』、『保証人の禁止』、『物件などの自由契約の禁止』、

そして、『インタビューの制限』、『コメントの制限』など、海外企業らしい、

細かいものまで含まれていた。


「片桐さんは仕事にも厳しい方です。
でも、彼に見いだされて成功しなかったモデルはいません。
『Rioni』のモデルをすることは、さらに先へ仕事が続くことになるのです」


大きなプロジェクトで成功すれば、確かに先の見通しは明るいだろう。

しかも、梶本君がいいと、わざわざ声をかけてもらったのだから。


「年頃のモデルに、色々と厳しい条件を出すのは、昔からですが、
梶本をと指名してくれた以上、
その条件をこちら側が受け入れないわけにはいかないのです」


『1000万円』確かに高額だった。

その条件として出されているものに、少しの変更もあり得ないだろう。


「梶本にも話しました。梶本は絶対に嫌だと、首を振りました。
それしか方法がないのなら、全てをあきらめても仕方がないと、譲りません」


私と別れなければならないのなら、土地を守ることも、伯父さん御夫婦や、

ご両親を守ることも諦めると、梶本君は工藤さんに伝えていた。



私と親との間で、彼は悩みを抱えている。

仕事を辞めて救う気になっていたのだから、本心は諦めたくないだろう。


「米森さん……」

「はい」

「梶本よりも年上の女性だと聞きました。あなたにも辛いことでしょうが、
ここは、梶本の将来性を認めて、受け入れてもらえないでしょうか」


事情を受け入れ、梶本君との別れを了承してほしいと、

工藤さんは頭を下げてくれる。

トップブランドのイメージを背負って立つ男。

確かに彼女がいます。こんな生活をしていますと明らかになるのでは、

夢を売ることなど出来ない。


でも、それしか方法はないのだろうか、

踏ん切りの付かない頭は、どう答えを出せばいいのか、わからなくなっている。


「何年、契約が続くのですか」

「『Rioni』との契約は2年です」

「それなら、会わないとお約束すれば……」


工藤さんの表情が曇ってしまった。

私は、思いのままに言ってしまったことを、後悔する。


「米森さん。私も女です。それなりに恋愛経験もあります。
普通の感情を持つ男と女が、2年も音信不通のまま、いられると思いますか?
いえ、隠してメールなどで連絡を取れるようなことになれば、
どういうことをしても会いたいと思うのが、普通ではないでしょうか。
私は、梶本の性格を知っています。ウソがつけず、
思ったことはハッキリさせなければ気が済まない。
そんな梶本が、好きだという思いを持ったまま、あなたに会わずにいられますか?」


声が聞きたい、姿を見たい、そして触れていたい。

その当たり前の感情を持っている人間なら、心に秘めているだけではいられない。


「契約金の高い仕事には、それなりのリスクがともないます。
自分のいいような条件を相手に求め、こちら側は何もリスクがないというのでは、
信頼関係も築けないでしょう。梶本が『Rioni』のモデルに力を注げば、
片桐さんもさらにバックアップをするはずです」


確かに工藤さんの言うとおりだ。

都合のいいところだけを受け取るわけにはいかない。


「契約自体が好条件ですから、もし、契約通りにしていないと判断された場合、
報酬以上の違約金を支払わなければならないのです。
その自信がないのなら、この仕事は請けるべきではない。だからこそ梶本はNGを出した。
でも、この話を受け入れないのなら、彼が実家を助けることは不可能です」


梶本君の実家を保つことが出来ない。

あのお野菜を作っていたお母さんの生きがいも、なくなってしまう。


「梶本も、銀行側に借金を申し出たそうですが、
父親が、相談なしに借りていた金融業者のことを聞きつけ、
『東日本成和』側からはすでにNOの返事が届いています」


工藤さんの話を聞きながら、私はそうなのかと納得できることがあった。

この間、謙が言っていたのは、このことなのだ。

銀行にとって、何が一番問題のあることなのか、私にもわからないことはない。

『お金を貸す』ということを商売にしている会社は銀行以外にもある。

だからこそ、行員は立場を守らないとならない。


「すぐに全額を支払って、その業者と父親とのつきあいもやめさせなければなりません。
それが出来るのは、この方法しかないのです」


『1000万円』

私が全てをかき集めても、とても届く金額ではなかった。

梶本君も、その条件を出されるまでは、モデルの話しに乗り気だったという。


「あなたさえ、覚悟を決めてくれたら……梶本の覚悟も決まりますから。
どうかお願いします」


私が別れを選べば、梶本君は家族を救える。

私が拒めば、彼はそのまま仕事を受けることなく流してしまうだろう。

失った土地を見ながら、後悔することになるのかもしれない。


川岸の向こうにあった、祖父母の工場に思いをはせていた梶本君。

だからあの場所に、部屋を借りていた。

あの工場で花火を見ていた頃の幸せを、もう一度感じたくて……





私さえ……

全てを飲み込めば……





土下座のように頭を下げている工藤さんに、

私は『わかりました』ということしか出来なかった。



【14-6】

男のプライドと女の意地。
歌穂の恋模様は、あらたな絵を描いていくことに……
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コメント

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きっと、みなさんそうだよね

拍手コメントさん、こんばんは

>だんだん読むのが辛くなってきたよ~

うーん……ですよね。
しばらく幸せモードで展開していただけに、
読みづらくなっているでしょうが、
そこは、この先へ続くエピソードの一つ一つだと思って、
おつきあいくださいませ。

いつも、ありがとうございます。