14 隠し事をする男 【14-6】

【14-6】

帰りに乗った電車は、いつもよりも空いていた。

あと数駅で降りるところまで近づいたが、私は電車を降りホームのベンチに座る。

梶本君は隣に住んでいる。

もし、今、この状態で顔を見てしまったら、どう対応していいのかわからない。

工藤さんの前では、とりあえず受け入れてしまったけれど、

気持ちは何も整理がついていなかった。



あと1ヶ月の中で、彼を失うのかと思うと、

このまま、生きていることすら終わらせたいとさえ考えてしまう。



謙が東日本を辞め、私の前から去ったときも、同じような思いだった。

心も身体も抜け殻になってしまって、息をすることすら難しい気がした。



それでもこうして、今、新しい恋を見つけることが出来ている。

梶本君を失ってもまた、私は立ち上がることが出来るのだろうか。



空に輝く冬の月を見つめてみるが、何も答えは返らないまま、

また電車が通り過ぎていった。





次の日、私はいつものように仕事をしながら、梶本君の席を見た。

午前中は、本社に行くという予定が、ボードに書き記されている。

梶本君は、借金のために土地を手放し、ごく普通にモデルとして復活し、

出きる範囲で仕事を続け、残りを返していくつもりなのだろう。

しかし、大手の誘いを自ら断るとなると、

それだけの仕事が入るかどうかの保証もないと、工藤さんからは聞いている。


お世話になってきた伯父さん夫婦、そしてご両親、未来を夢見る妹さん、

その期待が梶本君にかかっている。

私とのことなど、小さくてちっぽけなものだろうけれど、

彼はその小さなものを、必死に守ろうとしていた。



『大丈夫です……あなたを離したりしませんから』



梶本君の優しい言葉が、チクチクと心臓を刺すようで、

考えていると、気持ちが落ち込んでしまうため、顔をあげて席を立つ。

ファイルを手に取り、書類を挟みながら、逃げられない場所に追い込まれたようで、

大きくため息をついた。





その日は、母にも話さずに実家へ戻った。

それが最善だとは思わないけれど、何もしないまま時を過ごすことは出来なかった。

母は、私の提案に驚き、どうしたのかと逆に尋ねてくる。


「少し、人を助けたいと思って」

「助けたいって、歌穂。この家も土地も、お父さんの名義なのよ。
それを担保にしてお金を借りるって、あなた……」

「わかっている。でも……最終的には私が継ぐことになるのでしょ」


何かをしなければ、耐えられなかった。

ただ、梶本君の出す結論にしがみつくのか、彼を突き放すのか、

どちらにしても、辛い選択しかない。


私は母に、怪我の治り具合を聴き、その日は実家に泊まることになった。

しかし、さらに3日後、携帯に父からのメールが届く。

それがどういうことなのか、内容を見なくてもすぐに理解出来た。

昔から母はそうだった。

私が何かを相談しても、頼りになどならない父に意見を聞こうとする。

離れて暮らしている父に、何もかもわかっているような態度をされることが、

一番嫌なことなのに、母は何も気付いていない。

家の資産について、あれこれ聞いたのは私だったため、

次の日、父に会うため大学を訪れた。


「お母さんから聞いたぞ。お前はどういう男と付き合っているんだ」

「どういうって、普通の人です。ううん、普通以上に優しい人です」

「女の金をあてにしている男の、どこが優しい」


何もわかっていないくせに、頭から決め付けるようなことは辞めて欲しい。

父はデスクに乗っている本をあれこれ見ては、また積み上げている。


「彼から頼まれたわけではありません。私がただ、何か助けてあげられたらって、
そう思っただけで……」

「今からでも小林君に連絡を取るべきではないのか。
彼なら、金のことでお前を困らせることもないし、社会的な地位もしっかりしている。
間違いなく、お前を幸せにしてくれるぞ」


『幸せ』がどこにあるのか、この人はわからないのだろう。

だから、人を平気で『不幸』に出来る。


「社会的な地位があっても、金銭的に余裕があっても、私は幸せになんかなりません。
そういったものが何も役に立たないことを、あなたからずっと教えてもらってきた」

「……歌穂」

「私がどれだけ寂しい思いをしていたか、あなたはわかっているの?
私がどうしてあの部屋を出て行かないのか、わからないでしょう。
大学教授として、人の心を読む話を偉そうにしても、娘の気持ちなど、
少しも理解しようとしない」


大嫌いだ。

世の中の全ての男の中で、あなたが一番嫌いだ。

私はそう思いながら、席を立つ。


「おい、待ちなさい」

「もういいです」


私が梶本君を救いたい理由など、父には絶対にわからないだろう。

彼が自分よりも私のことを大事にしてくれる人だから、だから助けたい。

そんな思いに、あの人が気付くことなど……





死ぬまでないことがわかった。



【15-1】

男のプライドと女の意地。
歌穂の恋模様は、あらたな絵を描いていくことに……
1日1回、読みましたの拍手、ランクぽちもお願いします(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


コメント

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いつも拝見しています。

歌穂さんに、幸せになってほしいな~って思います。

この先が楽しみです。

歌穂のかたち

ピンクリリーさん、こんばんは

>歌穂さんに、幸せになってほしいな~って思います。

かわいげのなかった歌穂が、新しい恋で変わっていったように、
これからの出来事で、さらに色々と動いていきます。
彼女の『幸せ』がどんな形になるのか、
どうか、最後までおつきあいください。

いつも、楽しんでもらえて、嬉しいです。