15 迷い続ける女 【15-1】

15 迷い続ける女


【15-1】

『クリスマス』がやってきた。

その日もいつもの通りの平日だれど、さすがに特別な日だからなのか、

仕事を終えると、急いで帰り支度をする人が多い。

高野さんも井上さんもそれぞれ都合があるらしく、

いつもなら私よりのんびり帰り支度をするのに、今日はすでにいなかった。


「失礼します」


更衣室を出ると、会議室へ入る上司たちが立っていた。

謙を中心としたメンバーは、『寺道支店』の合流準備のため、

クリスマス気分に浮かれている余裕はないらしい。

そこに山田支店長の顔はなかった。

公に発表されているわけではないが、山田支店長が別支店へ異動するという噂は、

やはり本物らしい。


となると、来年の春、謙は『森口支店』の支店長となるのだろう。


「お疲れ様」


謙にそう声をかけられ、私は一度頭を下げた。

玄関を出た後、駅に向かって歩いていく。

頼まれているのか、すでにケーキを手にしたサラリーマンがホームに立っていた。

私は携帯を開き、時計を確認する。

1本、電車を見送ると、ホームに梶本君が姿を見せた。


「お疲れ様でした」

「うん……」


一緒に銀行を出てくるのはさすがに出来ず、少し時間をずらしてこの場に立った。

今日は一緒に過ごそうと、前から決めていて、

プレゼントも買い、食事も彼のリクエストで、あの唐揚げをあげる予定。

ケーキは梶本君が、響子さんから聞いているお店で、予約をしてくれた。


「今夜は雪になるかもしれないって、天気予報で言ってましたね、今朝」

「うん」

「ホワイトクリスマスって言うのも、いいですね」


私は頷きながら、何もない状態で今日を迎えられていたら、

本当に幸せだっただろうと、そう思った。

梶本君のことなのだから、彼の出した結論に従おうと言う思いと、

私のことだけで諦めるものの大きさを思うと、本当にそれでいいのかと、

自問自答を繰り返す。

車内に乗り込み、扉付近に立つと、梶本君が私を庇うように並んでくれた。

これだけそばにいてくれるのに、失わないとならないのだろうか。

『恋すること』を諦めていた私の心に、溶け込むように入ってくれた人。




……行かないで




私は左手で梶本君のコートをつかむ。


「どうしました?」

「ううん……」

「なんだか辛そうですけど、具合でも悪いんですか?」

「大丈夫」


電車の揺れに、定まらない私の気持ちも、揺れていた。





食事の支度をし、一緒にテレビを見ながらプレゼントを交換する。

私は外に向かうことが増えた彼に、マフラーを贈り、

彼からはブランケットを受け取った。

銀行業務は座っていることが多く、意外に足元が冷える。

互いに大事にすると感謝の思いを伝え、梶本君は自分の首にマフラーをつけ、

似合うかどうかと聞いてきた。


「うん、似合う、私のセンスだもの」

「あはは……そうですね」


梶本君は立ち上がり、カーテンを開けると、窓に姿を写している。

そんな姿に、モデル仕事の話を思い出し、私は下を向いてしまった。

この幸せな時間のおかげで忘れていた現実を、思い出してしまう。


「俺、一つ、サンタに願い事をしました」

「サンタに願い事? 子供みたいね」

「そうですか?」


梶本君はサンタは信じればいるものだとそう言い切り、カーテンをまた閉めた。

私はワイングラスに口をつけ、何を願ったのかと聞いてみる。



「……あなたを歌穂と呼びたい」



米森さんと梶本君ではなく、歌穂と圭という名前で呼びあいたい。

梶本君はそういうと、私の方を向いた。



【15-2】

感情を出せる人と、出せない人がいる。
思いの深さは、言葉だけで知ることは出来ず……
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