15 迷い続ける女 【15-2】

【15-2】

「銀行も辞めることになりましたから、
仕事中に呼んでしまうという心配もなくなるでしょ」


確かに梶本君の言うとおりだった。でも、銀行を辞めることが、どういうことなのか、

全てを知ってしまった私の頭が、素通りできないのだと心に訴えかける。


「ねぇ……」

「はい」

「私ね、工藤さんにお会いした」


梶本君の表情は、一気に曇り、首に巻いてくれたマフラーを外してしまった。

工藤さんに会うということがどういうことなのか、すぐにわかってくれたのだろう。

私は、仕事のこと、家のこと、『Rioni』のこと、工藤さんから聞いたことを、

全て話していく。


「私と別れることが条件だって、そう言われたのでしょ」

「……もういいんです。米森さんが悩むことではありません」

「でも、それを受けたら、救えるのでしょ」

「必要ありませんから」

「でも……」

「あなたを失ってまで救うことに、何の意味があるんですか」



意味……

意味と聞かれても、答えられない。



「始めは、なんとかしようと思いました。仕事を変えてそれを乗り越えられるのなら、
それでいいと。でも、他の人を巻き込む話ではありません。
あの土地のことで、あなたを悲しませる必要なんて、ないでしょう」

「梶本君」

「俺にとっては、何よりも大切なものなんですよ、
それを失えって言われて、納得できるわけがない」



『何よりも大切なもの』



彼は私のことを、そう表現してくれた。


「母にも伯父にも話しました。だから、計画通りには出来ないと、それも言いました。
納得してくれて、俺の思ったようにしていいと、そう言われました。
だから、あなたが悩むことではないんです」


梶本君は携帯を取り出すと、どこかに電話をかけようとする。


「何するの?」

「工藤さんにかけます。米森さんに話はするなとそう言いました。
約束を守らないのなら、事務所にも戻りません」

「ダメ……やめて」


私は梶本君から携帯を取りあげると、それを必死に抱え込んだ。

一瞬の感情のまま、結論を出して言いわけがない。


「やめて……」


梶本君は黙ったまま、私のことを包んでくれた。

苦しいのは私だけではない。彼の方がもっと、もっと、数倍苦しいはず。

私の頬に梶本君が触れていく。

こっちを見てと、思いを呼び起こそうとする。

私は梶本君の方へ向き直り、両手を彼の首に回した。


「気にしないでと言うのは無理でしょうけれど、もう、結論は出しましたから」


唇が触れるたびに、この人を失うことがどれだけ重いことなのか、

それを感じてしまう。

胸元に滑り込む指が、そして熱い吐息が私の身体を少しずつ支配していく。

長いキスから唇を離した彼が、おでこをあわせた。


「サンタ……来ましたか?」


耳元にそうささやかれ、熱いキスが首筋に落ちていく。

私は思わず声を上げ、もっと先へと、彼を誘った。


「……圭」


圭は私を支え、そのままベッドへと誘ってくれた。

互いに触れ合いたくて、余分なものを取り払っていく。

素肌はすでに熱を持ち、膨らみの先は、彼の思いを待っている。

圭の舌先が触れると、私は身体をそらし、もっと愛して欲しいと、

長めの息を吐き出していく。


「歌穂……」


名前を呼ばれ、全身を快感が貫いた。

腰をすべる指に、脚先へ向かう唇に自分が壊されてしまいそうで、

ただ、シーツをつかむ。


どうか刻み付けて欲しい。

あなたのその全てを、明日もあさっても忘れないように、私を抱きしめて欲しい。


指をからめ、唇の先にあるキスに酔いながら、

私はただ、必死に彼を求め続けた。



【15-3】

感情を出せる人と、出せない人がいる。
思いの深さは、言葉だけで知ることは出来ず……
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