15 迷い続ける女 【15-3】

【15-3】

「年末から、実家に戻ります。話は全てしましたし、親も伯父夫婦も、
俺に無理をするなと、そう言ってくれています」


まどろみの中で、圭はそう言ってくれた。

土地を失うことの覚悟も、みんなが出来ていて、彼が犠牲になる必要はないと、

そう認めてくれている。


「だから、あなたが悩んだり、苦しんだりする必要はありませんから」


本当にそれでいいのだろうか。

私は言葉を出せずに、ただそこにいる。


「クリスマスなのに、そんなに寂しい顔をされると、辛いんだけどな」

「……ごめん」


そうだった。

私は彼を信じ、その結論を受け入れていくこと。

それが正しい道。


「ねぇ……」

「何?」

「部屋へ戻る?」


圭はどういうことかという表情を見せた。

私は思いのまま、彼の胸に顔をうずめる。


「お願い……朝までこうしていて」


そばにいてくれないと、不安になる気がした。

世の中の人たちが幸せにいる今だからこそ、私もその幸せに酔い続けていたい。

圭は私の顔を上げると、答えの代わりに、長く深いキスを届けてくれた。





圭は年末の仕事を終えると、家族の待つ群馬へ向かった。

私は実家に戻ることなく、一人で除夜の鐘を聞く。

新しい年は、どんな年になるだろう。

圭は、私の隣に、いてくれるだろうか。

そしてお休みの最終日となる3日に、私は『ジュピター』へ顔を出した。


「あけましておめでとう」

「こちらこそ、おめでとうございます。今年もよろしく」


正月休みのようなときこそ、こういった場所が必要なのだと、

響子さんは忙しそうに動きながらそう言った。私はブレンドを頼み、

今年初のコーヒーだと言う。


「あら、本当? それじゃ気合を入れないと」

「何を言っているんですか、いつもと同じで大丈夫です」


何かを抱えていても、この人と話していると、

それがたいしたことがないことに思えるから不思議だった。

一人で部屋にいると、余計なことを考えるのに、

ここではそれは必ず解決するような気がしてしまう。


「そうでした。クリスマスケーキ、とても美味しかったです」

「あ、本当? それはよかったわ。梶本君から突然、
美味しいお店を教えてくれって言われて、慌ててお客様にリサーチしたんだから」

「あはは……そうだったんですか。ご迷惑をかけました」

「全く、あの彼は、あなたのためなら何でもやりそうね」


私はいえいえと首を振りながら、それを否定した。

でも、そんな思いを感じるからこそ、辛くなるときがある。


「で、『愛しの君』は?」

「実家へ戻っています。ちょっと色々とあって」

「あぁ……銀行辞めるって、そう言っていたわね、そういえば」


梶本君は、響子さんに細かくは語っていないものの、

仕事を変える話だけはしたようだった。

しかし、再就職がどういうものなのかは何も聞いていないと、

カップを拭きながら答えてくれる。


「そう、私の色鉛筆画を興味深そうに見ていったわよ。
なんだか妹さんが美大を受験したがっているとかなんとか……」


圭の妹。

たしか、高校生だったはず。


「明日から仕事?」

「はい」

「そう、それじゃ、ゆっくり休んで行って」

「はい」


私は響子さんの入れてくれたコーヒーを味わいながら、

圭が褒めていたという絵を、しばらく見続けた。



【15-4】

感情を出せる人と、出せない人がいる。
思いの深さは、言葉だけで知ることは出来ず……
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