16 追い込まれる男 【16-6】

【16-6】

色々と考え、気持を固めたのかもしれないと思い、

私は自分がしんみりしないよう、何か食事を作って明るく話そうと考える。

銀行を出た後、スーパーに立ち寄り、材料を買い込んだ。

それほど凝ったものを作る時間はないけれど、それでも気持ちは伝えたい。



部屋へ戻りすぐに着替えると、玉ねぎを刻んだ。

入っている成分のせいなのか、気持ちが動いていくからなのか、

少しずつ目が潤んでくる。

『旅立ち』を自分から望んだくせに、本当にお別れなのかと思うと、

気合を入れていないと、崩れてしまいそうな気がした。


「はぁ……」


涙の出そうな目で、天井を見る。

私がしっかりしないと、圭はまた後ろ髪を引かれてしまう。





圭が私の部屋の扉を叩いたのは、それから1時間後のことだった。


「少ない時間で作ったから、豪勢とは言わないけれど、とにかく食べよう」

「……歌穂」

「何?」

「君が急に気持ちを変えたのは、俺のため?」


圭の真剣な眼差しと、一緒についてきた言葉の意味がわからず、

私は返事に一瞬困ってしまった。


「……何? どういう意味?」


圭は思いつめたように下を向く。

もしかしたら、あれこれ悩んでいる間に、

『Rioni』の仕事が流れてしまったのだろうか、

それとも、何か他のトラブルが起きたのだろうか。


「俺のためって、私は圭にいい仕事をして欲しいとそう思って……」

「本当は、自分の気持ちが離れたからじゃないの?」




気持ちが離れた?




どういう意味なのかがわからず、私はその場に立ち尽くす。

圭から気持ちが離れてしまったわけではない。

今でも、一緒にいられるのなら、一緒にいたいとそう思っている。


「今朝、ポストを見たらこれが入っていたんだ」

「ポスト?」


圭がポケットから出してきたのは、茶色のしっかりとした封筒だった。

すでに封が開いていたので中身を出そうとすると、勝手に何枚かの写真が落ちてくる。

そして、その写真は、すべて……



私と謙が、一緒にいるところを写したものだった。



「何これ……」


あの待ち合わせをする店で、隠し撮りをされたのだろうか。

『はやぶさ証券』の話をした日、その前に圭のことを話題にした日、

どこで撮られていたのかわからないけれど、1度だけではないことは服装の違いでわかる。

しかも、駅の階段で、私が謙に寄りかかっている姿があり、

何も知らないで見てしまえば、抱き合っているようにしか思えない。


「あ……」


あの時、突然飛び出して私を突き飛ばしたあの男。

あの男は、この写真を撮るために、動いていたのだろうか。

謙は私に『妙な電話』がなかったかと聞いてきたけれど、もしかしたらこれが、

その……


「そんなに驚くような顔をされると……そうなのかと思えてくるよ」

「圭……」

「おかしいと思ったんだ。急に歌穂の態度が変わり出した。
思い悩んでいるのは、君が優しいからで、土地のことも、仕事のことも
最後は俺の話を聞き入れてくれていると、そう思っていたのに……」

「違う、これは……」


違う。こんなことで別れたいわけではない。

謙と私は、何もない。


「昔、副支店長と付き合いがあった話は聞いていた。
副支店長が奥さんとうまくいっていなくて、離婚するつもりだと言うことも知っている。
でも君を信じ、負けないつもりだった。確か、副支店長から呼び出されたときには、
歌穂……君はその話を俺にしてくれたよね。自分がどういう思いなのか、
しっかり話をして、もうこんなふうには会わないって、そう言ったって」

「圭……」


そうだった。謙の奥さんがここへ来て、あれこれ私を責めた日。

あの後、謙と会って、自分は過去に戻らないとそう言い切った。


「これは……」

「こんなふうに二人で会っているなんて知らなかったし、何も話してくれていないよね。
仕事の話なら、銀行で済むだろう。どうしてわざわざ二人で会うんだ」

「違うの、聞いて。確かに何度か副支店長とお酒を飲んだことはあるけれど、
でもそれは……」

「それは?」

「それは……あなたのことを庇おうとしたことを知って、御礼を言おうと思ったし……」

「俺のことでお礼?」

「そう、副支店長はあなたを銀行に残そうとしたの。なんとか出来ないかって、
色々と手を尽くして……で……」


謙はただ、圭を突き放したわけではない。彼の立場の中で、

精一杯出来ることをしてくれた。


「だったら、それは俺が副支店長にお礼をすべきことだろ」

「あ……」

「違う?」


確かに、そうかもしれない。

私が圭に全てを話して、謙にお礼を言わせれば、勘違いにならなかった。


「なら、これは? この日は何?」

「この日は……」


この日は、粕谷部長から『はやぶさ証券』のことを聞き、私が謙を呼び出した。

どういうことが影で動いているのかわからなくて、彼の立場を心配して……


「何かのお礼?」


どうしよう。『はやぶさ証券』のことは何も聞いていない。

安易に他の人へ話してしまうのは、謙の問題にもなりかねない。

圭はまだ『成和』の人間だ。彼を巻き込むことになるのも、困る。


「たいしたことではないの、取り立てて話すようなことではなくて……」


そう言った後、自分で失敗したと思い、圭の顔を見てしまった。


「たいしたことがないのなら、言えるはずだろ」

「いや、それは……」

「たいしたこともないのに、俺には黙ったまま、こうして二人で会うの?」


そうだった。たいしたことがないのに会うことの方が、余計にキツイ。

圭の言っていることが正しい気がして、私は何も言い返せなくなる。

謙がただの上司ではないからこそ、慎重にしなければならなかったのに……

圭は私が駅の階段で、謙に寄りかかっているように見える写真を握り、

そして思い切り破くと、部屋を出て行ってしまった。



【17-1】

『愛し方』は、人それぞれ。
迷い込んだ迷路の先にある道は、どこにつながるのか……
1日1回、読みましたの拍手、ランクぽちもお願いします(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


コメント

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辛いけれど

拍手コメントさん、こんばんは

>どうなるのですか どちらもせつないです

どうなるのかを、書き込むわけにはいかないのですが、
どうなるのかと興味を持っていただけて嬉しいです。
歌穂の決断、圭と謙の思い。
最後まで、おつきあいください。