17 願いを託す女 【17-3】

【17-3】

「それでも君が自分の無実を訴えたいと言うのなら、僕はいつでも梶本に話をする。
離婚問題が片付いてもいないのに、勝手な男だと思われるもの心外だからね」


謙の言葉を聞きながら、その弁明は本当に必要なものなのだろうかと、

自分自身が思ってしまった。


「さて、『渡辺商会』の件は?」

「いえ……大丈夫です」


これ以上何を言っても、謙に勝てる気がしなかった。

圭が言っていたように、私に隙があったといえば、それは間違いない。

謙に説明を頼み、圭を納得させるのも、自分を守るためだと言われてしまえば、

それまでかもしれない。

置いた封筒を持ち、落とさないようにファイルに挟む。


「お忙しい時間に、すみませんでした」


私は、謙の言葉に振り返ることなく扉を開け、小会議室を出る。

目の前の壁を見ながら、大きく息を吐いた。





仕事を終えて、あらためて写真を見た。

圭のことがあり、不安な気持ちを抱えている中で、何度か謙と会った。

副支店長という立場もあるし、彼しか頼れないという思いも確かにあった。



私は、いつの間にか、謙自身を頼っていたのかもしれない。

過去の人を『頼っている』という気持ちが、圭を傷つけてしまった。

心の中がどうであれ、こうして会ったという事実が、罪だった。

頼らなければならないのは、圭自身だったのに。

何度も話し合い、納得するまで語り合うことが、必要だったはずなのに。


6歳の年齢差が、どこかで圭に頼りたくないという、

ひねくれた思いを出したのだろうか。

私は写真を全て重ね、封筒にもう一度押し込んだ。





すれ違ったままでも日々は重なり、

圭と事務所との期限である10日がまた少し近付いた。

結局、圭がどういう選択をしたのか、それはわからないままになっている。

買い物を終え部屋に戻ると、ベランダへ出て隣の明かりを確認した。

圭は、事務所に寄っているのか、まだ帰ってきていない。

携帯が鳴り出したのがわかり、慌てて相手を確認する。

圭だと思っていたが、相手は謙だった。


「もしもし……」

『もしもし、今、梶本と別れた』

「……エ……圭と会っていたの?」

『急に連絡を寄こしたのは梶本の方だ。
自宅にいると行ったら、話しがあるから向かってもいいかとそう言われた』


圭は謙に会いに行った。

私の鼓動は一気に速まっていく。


「あの……」

『聞かれたことに答えたよ。でも、ここでは語らない方がいいだろう。
僕が君に連絡をしたとわかるのは、歌穂の望むことではないだろうからね』


謙は圭に何を言ったのだろう。

圭は謙に……何を聞いたのだろう。


二人が会ったという事実だけを聞き、私は電話を切った。

確かに、会ったことを圭に尋ねたりすれば、こうして連絡を取っていることを聞かれ、

また疑われてしまう。


時計が10時をしめそうかというとき、玄関のインターフォンが鳴った。

外に立っていたのは圭で、私は扉を開く。


「こんばんは、すみません、急に来て」

「ううん……」


きっと、圭は何かを語ってくれるのだろう。

私はまずそれを聞き、そこから自分の話をしなければ……


「何か飲む?」

「アルコールはいいです。お茶でも、コーヒーでも」

「うん」


インスタントだけれど、コーヒーを飲むことにした。

カップを圭の前に置き、向かい合うように座る。


「この間は、すみませんでした。取り乱したようになってしまって」


私は黙って首を振る。

申し訳ないのは、私の方だ。

圭を傷つける結果になってしまったのは、私のミス。

それにしても、あまりにも冷静な態度が、逆に怖くなってしまう。


「少し前まで、俺、副支店長と話をしてました」


驚くような声をあげるべきなのか、なぜなのかと訴えるべきなのか迷っていると、

圭に口元をゆるめ、『知っていたでしょ?』と言われてしまった。


「副支店長から、電話ありましたよね」


自分を繕う為のウソなら、すぐにつけると思っていたのに、

圭の前では何も出来ない。心が全て読まれてしまいそうになって、ただ、ここにいる。


「うん、少し前に連絡をくれた。二人で話したって……
でも、何を話したのかは何も聞いていない」


私は、写真を撮られた後、私自身が謙に会い、

誤解を生まないようにして欲しいと頼んだことも、圭に話した。

こうなったら全てを語って、彼に判断してもらうしかない。


「そうですか……」


圭の言葉は、そのまま床に落ちていく。

私はもう一度圭をしっかり見ながら、あの写真は全て誤解だとそう告げた。

『別れる』選択をしたのは、謙とよりを戻すためではない。

それだけはどうしてもわかって欲しい。


「副支店長からも同じことを言われました。会っていたのは俺の退社が決まってからで、
最初は副支店長として、どうにか動いてもらえないかと頼まれたこと、
その後、本店から急な視察が入り、昔の上司から少し気になる話を聞いたから、
呼び出されたこと」


『はやぶさ証券』の名前は出さなかったが、謙はその通りの話を圭にしてくれた。

私は間違いないと頷き、個人的な話は何一つないことを付け足していく。


「自分自身が、少しイライラしていたのだと思います。
全ての事情を知れば、あなたがきっと、こういう結論を出すこともわかっていて、
だから『Rioni』のことも、怖くて言えなかった」


私自身と、親や親戚とのつながり。

圭は間に挟まれたまま、ずっと辛い時間を送ってきた。

時にはウソをつき、その場をごまかし、なんとかしようとあがいてきた。

『ハッキリ』しないことが何よりも嫌いな彼が、そうせざるをえないほど、

ことは複雑だったのだから。


「あの写真を見て、動揺したのは事実です。
目に入るものって、インパクト大きいじゃないですか。
でも、冷静に考えたら、そんなことに動揺している状態ではないわけで……」


圭は、ずいぶん落ちついているように思えた。

それは私の思いを理解してくれたからなのか、




【17-4】

相手を思い、揺れ続けた歌穂の結論
その先に見えてくるものは、幸せなのか……不幸なのか
1日1回、読みましたの拍手、ランクぽちもお願いします(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


コメント

非公開コメント