17 願いを託す女 【17-5】

【17-5】

週が明け、私はいつもより早めに銀行へ向かい、謙が来るのを待った。

圭とのことを、説明だけでもしておくべきだとそう思ったからだ。

仕事で聞きたいことがあると内線で連絡を入れる。

謙はわかっているのか、すぐにOKの返事を出してくれた。


「おはようございます」

「おはよう」


今日はこの後、役員会議が行われるらしく、私はすぐに済みますと言い、

とりあえず土曜日に圭と話をしたことを告げた。


「そうか……」

「あなたがきちんと誤解を解いてくれたことを、話してくれた。
あの写真がどういう日に撮られたのか……あ、そう、ごめんなさい。
『はやぶさ証券』とは言っていなかったけれど、
何かあったことまで話さないとならなくなって」

「いや……それはいい」


謙はバッグをデスクに置き、何かを言いたそうな顔を私に向けた。

口元が少し動いたけれど、セリフにはならずそのままになる。


「何?」

「いや……あとは?」

「あと? あとって? 圭から聞いたのはそれだけだけれど……」


あの写真の誤解を解く以外に、何か話をしたのだろうか。

私は逆に、何か別の話題があったのかと、謙に尋ねてみる。


「いや、そういうことではないんだ」

「何? 何を言ったの?」

「いや、話はそれだけだ。
ごめん、君に梶本がどういったのかそれが気になっただけだ」


何かが残ったような思いは消えなかったが、山田支店長からの内線が入り、

話をそれ以上続けることが出来なくなった。私は小会議室を出ると、

そのまま仕事に戻った。





それから3日後、スポーツ新聞に『Rioni』のモデル選考会のお知らせと、

メインのモデルに圭が決定したと言う事実が掲載された。

まだ、銀行に勤めている状態の姿を撮ろうとしているのか、

道の反対側に数名のカメラマンが控えている。

事務所側は報道は最低限にお願いしたいと『Rioni』側に申し出ていたが、

日本の各支店を回る業者の男性が、とあるパーティーで、

元学生モデルだった男性がトップになるという情報を流してしまい、

それが圭であることが調べられてしまう。


「いやぁ……驚き」

「本当」


休憩室の窓から高野さんと井上さんがカーテンの隙間で、外の様子を確認した。


「梶本君が選ばれたなんて、思わなかったよね」

「うん、でも、だから2月に辞めるのかって、納得だわ」

「そうそう、そういうことだったんだってね」


たいした仕事など出来ないだろうと言っていた二人は、

また急に圭なら出来るのではないかとか、身勝手な話題で盛り上がる。

高野さんは、やめる前にサインをもらい、記念写真を撮らせてもらうと張り切り、

井上さんも友達に自慢できると、携帯に残した飲み会での写真を呼び出した。

私はいつもの席に座り、お弁当を開く。


「米森さん、見ましたか? この記事」

「……うん、さっきね」


見なくても、何が書いてあるのかはわかっている。


「26だから、第一線は無理だろうなんて思っていたのに、驚きですよね」

「そうね」


井上さんも高野さんも、出社してからあれこれ聞きだそうと待ち構えていたが、

そこに先輩行員が現れる。


「梶本なら、もう来ないらしいぞ」

「エ……来ないってどういうことですか」

「銀行側がこういうことは困るって、そう言ったらしい。
外でカメラが構えられているのは、お客様たちも困るだろう。
事務所側も、雑誌や新聞社にお願いと言う形で伝えているらしいけれど、
ダメだと言われたら、自分だけでもと思うのが今のマスコミだからね」


……来ないということは、どういうことなのだろう。


「引継ぎもほとんど終わっているからと、有働副支店長がそう判断した」



謙が……



「ウソ! だったら写真も撮れないじゃないですか」

「いや、俺はそこまでわからないけれど、でも、決まったらしいからさ」


休憩室で聞いた話は、この後、正式に発表された。

外で待ち構えているカメラマンたちにも、銀行と事務所の連名で紙が配られる。

梶本圭は1月末を持って退行扱いとなり、『森口支店』へ顔を出すことはないこと、

ここで取材をされることは、何も関係がない一般のお客様に対して、

不快な思いをさせることなど、丁寧な文面で記されてあった。

事務所側から、あらためての記者会見の予定が決まり次第発表するという内容もあり、

どこか浮付いていた行内に、ため息が漏れた。


「あぁ、もう。携帯に出ない!」

「本当に?」

「出ないよ……梶本さん」


寿退社をする人や、異動になる人がいれば、それなりにお別れ会をしたり、

花束が贈られることが当たり前だった。

でも、圭にはその機会さえも与えられないのだろうか。

慌しく銀行を去り、新しい環境に身を投じなければならないなんて。

仕事が終わり、私は他支店へ向かっていた謙が戻るのを待った。

せめて、仲間の一人が出発するという出来事をみんなで送り出すことくらい、

出来るはずだ。

バッグを抱え、謙の帰りを待っていると、階段を上がる音が聞こえた。

私は待ちきれずに廊下に顔を出す。


「……話があります」

「待っていたのか」

「はい」


誰もいない小会議室に入り、私は思っていることを口にした。




【17-6】

相手を思い、揺れ続けた歌穂の結論
その先に見えてくるものは、幸せなのか……不幸なのか
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