19 摩擦を呼ぶ女 【19-1】

19 摩擦を呼ぶ女


【19-1】

その週末、私は久しぶりに実家へ戻った。

特に用事があったわけではないが、母からの留守番メッセージが10を越えていて、

これ以上無視し続けていると、そういう時だけ親の顔をする父に、

余計なことを言われそうな気がしたからだ。

話なら電話でしていいと言っても、どこかから美味しいものが贈られてきたとか、

野良猫が庭に入り込んできて、夜中に鳴いているとか、どうでもいいことを話し、

母は戻ってくることを、珍しく催促した。


「ねぇ、美味しい?」

「美味しいけれど……何があったの?」

「何がって?」


母は昔から、『決断』が出来ない。困ると放り出すか、あとは誰かが気付き、

それを処理してくれることを願っているような人だ。


「何かあったのでしょ」


何もなければいいのだけれど、

母の表情を見ていたら、何かがあることはすぐにわかった。

母は椅子から立ち上がり、棚の引き出しから、1枚の『見合い写真』を取り出してくる。


「何、これ」

「ねぇ『お見合い』してみない? 歌穂」


母がなぜ、何度も戻るように催促したのか不思議だったが、

この『お見合い写真』の登場に、裏で動く父のことが頭に浮かぶ。


「お父さんが、言ったの? お母さんに」

「言ったというより……」

「俺が薦めるとあいつは素直に聞かないから、お前が薦めろ、
わかったか! ってこと?」


母はしばらく黙っていたが、観念したのか一度頷いた。

やはりそういうことだった。父の考えることなど、すぐにわかる。

母がこんな写真を、用意できるはずもないのだから。


「全く、何を考えているのよ、あの人」

「お父さんは心配しているのよ、歌穂が悪い男に騙されていて、
お金をあれこれ都合しようとしていたって……」

「悪い男? 冗談じゃないわ。
圭は私にお金を用意してくれなんて一度も言ったことはなかったし、
動いたのは自分がそうしたかっただけ。それに、そもそも私は、
お母さんにお金のことを聞いたのよ。勝手にお父さんに話をしたのはお母さんでしょ」

「勝手にって、だって……」

「何でもお父さんの耳に入れないと気が済まないのは、おかしいわよ」

「歌穂……」


せっかくの美味しい食事も、途端に口に入れたくなくなってしまった。

急須を取り、お茶をいれ、私は『お見合い』写真を見ることなく、母の方へ押し返す。


「歌穂、見るだけ見ればいいでしょ。この方、弁護士さんなんだって。
お父さんの教授のお仲間が、知り合いの人で……」


『総合病院の医者』そして今度は『弁護士』。

世の中の体裁ばかりにこだわる父のやることは、『地位と名誉』に偏っている。

お仲間の知り合いって、せめて自分の目で相手を確かめなさいと言ってやりたくなる。


「こんなもの、必要ないから」

「歌穂……それじゃ、あなた、その人とまだ?」


私は圭とは話し合って別れたことを告げた。

母は、何も知らないくせに、ほっとしたとため息をつく。


「よかったわね、そういう人と別れられて……」


母にとっては、たいした言葉ではなかったのかもしれないが、

私にとっては、無神経極まりない、最低なセリフだった。

『そういう人』とはどういう人のことだろう。


「お母さん、お母さんは彼の何を知っているの?」

「歌穂……」

「何が、『そういう人』なの?」


母は、圭がどれほど私を支え、真剣に愛してくれていたと思っているのだろう。

何も知らないくせに、地位や名誉のある人間が上だと思い込んでいるあなたたちこそ、

『そういう人』の部類に所属する人間だとは思わないのだろうか。


「彼が大変になったのは、実家を守ろうとしたからなの。自分の欲だとか、
プライドだとかにこだわって、周りをどれだけ不幸にしても、何も感じない、
お父さんとお母さんとは違うのよ」

「歌穂……」

「愛情なんてどこにもないのに、お母さんを縛り付けているお父さんと、
満足なんて出来ていないくせに、自分では切り開くことも出来ないお母さんとは、
私たちは違うの!」


写真の男性に罪はない。それでも、勢いで私は見合い写真をソファーの方へ放り投げる。

食事は途中になってしまったが、これ以上顔をつき合わせていることも嫌になり、

そのまま席を立ち上がると、2階の部屋へ向かった。



【19-2】

歌穂は時を振り返りながら、今を見つめることに。
揺れる心の行き先は……
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