20 影に追われる男 【20-6】

【20-6】

「はぁ……」

「どうしました? 米森さんらしくないですね、仕事中にため息なんて」

「そう?」


なんだか考えれば考えるほど、頭の中が混乱した。

『東日本』と『成和』が合併し、1年半以上が経過しているのに、

いったいいつまで足の引っ張り合いをするのだろう。

行員の目が、お客様に向ききれないのだとしたら、

結局は全体的な損害になるとは思わないのだろうか。




『まっすぐ』にものを見ることは、それほど難しいのだろうか。




仕事を終え、たまには気分を変えようと街を歩き、

何気なくショーウインドーを見ると、そこに圭のポスターが貼り出してあった。

マフラーを首に巻き、コートを羽織り、うつむき加減で立っている。


そういえば、去年のクリスマス、彼にマフラーを渡した。

少しでも首に巻いてくれる時間は、あっただろうか。



今年もまた、数日でクリスマスがやってくる。

私は……



しっかりと仕事をしている圭の顔をもう一度見た後、

バッグの紐をもう一度握りなおし、私は駅に向かって歩き出した。





クリスマスはあっという間に通り過ぎ、次の年を迎えることになった。

何日かの年始休暇の後は、一気に取引が始まるため、とにかく忙しい。


「おはようございます」

「おはよう」


謙は、あの日以来、どこか冷たくなった。

答えを返さない私に、腹を立てているのだろうか。

それともまた、これも駆け引きをしているつもりで、

どうするのかと試しているのかもしれない。


どこか寂しいという気持ちと、それならそれでもいいという気持ちが、

行ったり来たりする。

1階では、お客様と向かい合う行員たちが、あちこち歩きその内容に対応していた。





いつもの休憩時間。テレビのニュースを見ながら、食事を進める。

高野さんという相棒がいなくなり、少し寂しそうな井上さんが、

今年の自分の運勢が悪いと、目の前で嘆きだした。


「おひつじ座、今年の前期は悪いです」

「気にするの? 井上さん」

「しますよ……しませんか? 米森さん」

「うーん……気にするから読まなくなったかな」


見れば気になる。気にしないようにするには、はじめから関わらなければいい、

井上さんは確かにそうだけれど、つい見てしまうと意見を述べた。

食事を終えて席へ戻ろうとすると、吉野副支店長とすれ違う。

法人課は新年の企業周りがあり、それぞれが別に動いていて、今は私しかいない。

誰もいない場所に、どんな用事があったのだろうか。


「あの……何か」

「あ、いや、うん」


どこかバツの悪そうな態度が気になったが、頭だけ下げると、席へ戻る。

ファイル棚を開け、担当の企業を取り出そうとしたが、

少し雑に押し込まれているファイルが気になった。



『株式会社 キョウグル』



『成和』と合併する時に、『成和』側が直接持ってきた企業だ。

特に、データの管理は、謙が全て担当している。

銀行が企業に融資を決定する基準は、もちろんあるのだが、

それ以外に支店長決済と呼ばれるものが何件かあり、

この『株式会社 キョウグル』はその一つだった。


「誰だろう……出したの」


気になり開いていくと、あるページの紙の裏に、

赤いボールペンの跡が少しだけついていた。

データは全てPCで管理をする法人課のメンバーがつけたとは、到底思えない。



誰かが勝手にデータを見ている。

何かを探している。



そんな確信とは言えない思いが、ふと心の中を横切った。

私はスティック糊を取り出し、書類の端に少しだけ塗っていく。

私以外にファイルを開く人がいたら、この糊づけは取れるはず。

なぜかここですれ違った副支店長の、少し動揺した顔つきが気になりながらも、

私は業務に戻った。





糊付けをしてから1週間後、私は『株式会社 キョウグル』のファイルを開けた。

やはり、糊付け部分は取られていた。

これは誰かが意図的に、この書類に目を通している。

謙だとしたら……



『はやぶさ証券』



以前、聞いていたあの企業名が、頭の中で回りだす。

『株式会社 キョウグル』は、『はやぶさ証券』にいた社員が興した会社だ。

熊沢課長から声がかかり、私は書類を元の位置に戻すことにした。




【21-1】

歌穂は時を振り返りながら、今を見つめることに。
揺れる心の行き先は……
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