22 定めを探る男 【22-1】

22 定めを探る男


【22-1】

『東日本成和銀行』

合併の成果で、日本で総合2位の規模を誇る銀行に成長しているにも関わらず、

内部事情は、相変わらずだった。

『東日本』と『成和』の争いは、いまだに終わりの見えない状態のまま、

合併をしてから2度目の、新人を迎える4月となった。


「それでは、支店長」

「あぁ……」


粕谷部長を挟み、互いに牽制し合う仲のはずなのに、

吉野副支店長も、謙も、まるで何もないように見せている。

融資の仕事も2年目を迎え、これからというときなのに、

その日の午後、吉野副支店長から、『キャリア研修』の書類を渡された。


「私がですか」

「米森さんはもう、かれこれ10年行員だろ」


この4月で、私は34。

支店を変わるからなのか、10年以上経っていたと考えることもなく、

自分がそれだけ長く銀行員として勤めるとは、正直思っていなかった。


「すみません、長々と居座って……」

「いやいや、何を言っているんだ。そういうことではないよ。
今、国でも、もっと女性を上のポストへ引き上げようという動きが始まっている。
派遣で来てくれている人たちも女性が多い。米森さんのような人たちが、
頑張ってくれることを望んでいるからね」


吉野副支店長は、自分が私を推薦したとそう話を付け足した。

正直、管理職などに興味はないが、年齢から行けば、断るわけにもいかない。


「そろそろ異動の時期だろ、それを有利にするためにも……ね」


異動の時期が近いのは、薄々わかっていたけれど、

『有利』というのはどういう意味だろう。私はとりあえずファイルを受け取り、

熊沢課長のところへ話しに向かった。


「ほぉ……キャリア研修か。わかりました」

「すみません、春になって動き出したばかりなのに」

「いやいや……」


窓口勤務の時には、色々とうるさいお客様に苛立った日もあったけれど、

こうして接客から遠ざかっていくと、

その頃が一番仕事をしていても楽しかった気がしてしまう。


それから1週間後、初めての『キャリア研修』のため、本店へ向かっていくと、

隣のビルの1階に、何やら楽しそうな店を見つけた。


中に入るだけで『木の匂い』が漂ってくるようなつくりと、小さな電気のこぎりや、

ノミやかなづちなどが置かれ、女性たちが楽しそうに作業をしていた。

表に出ている看板を見ると、

大手メーカーが出している『DIY』のアンテナショップだということがわかり、

私は、一面ガラス張りの作業室を、ただジッと見てしまう。

手際よく材料を切り、それに釘を打っていく。

『お父さんの日曜大工』だと、力をつかって打ち込む感じに思えるが、

今では自動で、釘を打ち込む機械もあり、女性でも簡単に棚や引き出しを作れる。

目の前の小さな箱。そう、あれが家にあれば、調味料があちこちに行くこともないし、

あの小さな棚がつけられたら、押入れに入れたら出せなくなるようなものも、

置くことが出来るかもしれない。

作業をしているのは3名の女性だった。そのうちの一人が材料にやすりをかけ、

私が見ていることに気付き、頭を下げてくれた。

私もあわてて頭を下げる。

中へどうぞと手招きされたように思え、つい引き込まれそうになったが、

その時、自分がなぜここにいたのかという現実に戻った。

集合時間からすでに10分以上が経過している。私は窓の向こうにいた女性に頭を下げ、

慌てて本店へ駆け込んだ。





本店の会議室に、20名くらいの行員が顔を揃えた。

吉野副支店長は『女性』をアピールしていたけれど、実際に顔ぶれを見れば、

ほとんどが男性だった。国がどんなに『女性の雇用』を叫んでみても、

現場はそう一気に変わらない。

私は遅れてしまったことを謝罪し、会場の一番隅に座らせてもらった。

熱心にメモを取る人、腕を組んだまま動かない人、

私のようになぜここにいるのかまだ納得が出来ない人、

それぞれがそれぞれの態度で、研修に臨む。


「それでは粕谷部長、お願いします」

「はい……」


『粕谷部長』

あの人がこの研修にからんでいたのだとわかり、

吉野副支店長が私を押し出した意味が、なんとなくわかる気がした。


「これからは、みなさんが新しい『東日本成和』を作っていく番です。
こうして懐かしい顔も数名見ることが出来、私も誇らしく思います」


『懐かしい顔』

そう言われて、会場の中を見てみると、私も数名知っている人がいた。

以前、窓口業務の後方を担当してくれた、大学相撲部出身の『柳橋さん』、

そして、外回りをよくしていた汗かきの『青木さん』に、

いつも声が小さいと『神波支店』当時、粕谷部長に怒られていた『小川君』。


「私は『東日本』の出身ですが……」


そう……20数名しかいない中で、私を含めて、元『東日本』、

いや『神波支店』で粕谷部長の下にいたメンバーが4人もいる。

ここに揃っているのは東側の行員たちだとしても、

『神波支店』を経験した人たちが多く集まっているのは、

どこか不自然な気がしてしまう。



『東日本銀行 神波支店』



私が勤務した2支店目。

大嫌いな粕谷支店長の話を……



……いつも謙としていた、あの支店。





謙が『東日本』を出て、『成和』に移ったのも、『神波支店』だった。




【22-2】

歌穂の見つけた『素敵な時間』
部品を組み立てるように、過去の出来事が組み立てられていき……
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