22 定めを探る男 【22-2】

【22-2】

『株式会社 キョウグル』





この『キャリア研修』も、何か他の目的があるのだろうか、

私はどこかにやけた粕谷部長の顔を見ながら、そのことばかりを考えていた。





「米森さん、今どこなの」

「今は『森口支店』です」

「あ……あぁ、『森口支店』かぁ」


一緒の班になった青木さんは、どこか含みのある言い方をした。

昔から、気持ちが顔に出る人だから、何かあるのだろう。


「何か……あります?」

「……いや、うん……」


青木さんは、会場の隅にいた粕谷部長のことをチラッと見た後、

すぐに視線をそらした。私はこの場では言えないことなのだと、

そのまま口を閉じる。

1回目の研修は、顔合わせや『特定事例』の対処法について話し合っただけで、

時間になってしまった。

それぞれ名刺を交換し、1週間後の再会をと挨拶を交わし会議室を出る。

粕谷部長と目があったので、とりあえず頭だけは下げておいた。



本店を出て、見とれてしまったあのアンテナショップへ戻ってみるが、

ガラス窓にはカーテンが引かれていて、すでに終わっている様子だった。

次回の研修は1週間後になる。

その時のスケジュールを見ようと入り口に立つと、

そこに『DIY教室』のお知らせチラシがケースに入っていた。

私はその1枚を手に取り、内容を軽く読んでいく。

『ホームセンター』での出張教室が開かれていて、

私の家から電車で10分でつける駅前の店でも、行われることがわかった。

今まで『ホームセンター』など、あまり行くことがなかったので気付かなかったが、

あの実演がまた見てみたいという思いが、わきあがっていく。

私はそのチラシをバッグにしまいこみ、『森口支店』へ戻ることにした。





混み始めた電車に乗り、『森口支店』に戻ると、業務終了の時刻を過ぎていた。

私は報告書類を記入し、引き継ぎとして残っていたメモを見た。

特に慌ただしくこなす業務はなさそうなので、片付けを済ませる。

目の前の支店長室から謙が姿を見せ、顔を上げた私と目があった。


「お先に……」

「お疲れ様でした」


粕谷部長がらみで『キャリア研修』が動いていることくらい、

謙が気付いていないはずはないだろう。

『神波支店』で一緒だったメンバーが多かったことを、耳に入れるべきかとも思ったが、

それはやめることにする。

どんな駆け引きがあるのかは知らないが、入っていくことは避けておきたい。

そう決めたのは自分。

私も荷物を片付け、謙より10分程度遅れて、支店を出た。





「それでは、こちらをご覧下さい」


その週末、私はチラシを持ち、教室が開かれる『ホームセンター』を訪れた。

女性が2名先生となり、簡単な『DIY』を教えている。

材料も工具もお店で揃えられるので、みなさん気軽に参加していた。

今まで、工具を持ったことなどなかったけれど、自分で作って行くのは、

こうして見ているだけでも、楽しそうに思えてくる。

元々、銀行に勤め、数字をチェックするのは嫌いではない。

寸法を正確に計り、作業を進めていくのも、

もしかしたら性格的に向いているのかもしれない。


「どうですか?」

「あ……」


声をかけてくれたのは、先日、アンテナショップで頭を下げてくれたあの人だった。





「『DIY』? 歌穂さんが?」

「そうなんです。自分でも、まさかそういったことに興味が出るとは思っていなくて。
でも、ちょっとだけ触らせてもらったら、楽しくて」


私は『ホームセンター』で覗き見するつもりが、

そのまま教室に遅れて参加することになった。

初めての私は、電動工具の持ち方、扱い方、始末の仕方など、

基本的なところをアドバイスしてもらう。

工具は全て貸してくれると言われたが、あまり高いものではなかったので、

教室が終了した後、基本的なものだけは自分で買い込んだ。


「2週間に1度、あの『ホームセンター』で教室を開いているそうなんです。
基本をしっかりマスターすれば、机も椅子も作れるようになりますよって」

「エーッ! 机?」

「そうですよ」


今まで、たまの旅行に癒されていた私の心は、

『DIY』という、新しい刺激を見つけることが出来た。

とにかく誰かに話したくて、

お店の帰りに買ったものを持ったまま『ジュピター』へ向かう。


「へぇ……これ、かなづち? かわいい色ね」

「そうでしょう、お父さんがトントンやるイメージでしたけれど、
今は女性の参加が多くて、こういった花柄とかドット柄のものもあるんですよ。
かわいらしい配色のものも、もっと増えるそうです」

「ほぉ……」

「私、スパイスラックを作ろうと思っています」

「スパイスラックって、調味料入れのこと?」

「はい、今回はキットを買い込んだので、指定通りにすれば出来上がるそうです。
それを何度か繰り返していたら、オリジナルへの道も開けるみたいですよ」


最初は寸法通り切るのは難しいので、初チャレンジでは、

あらかじめ用意されたキットを使うことにする。

説明書も入っていたので、私はそれを取り出し、響子さんにあれこれ説明した。

響子さんは、コーヒー1杯で粘る私の話を、楽しそうに聞き続けてくれる。


「楽しいことが見つかると、気分が変わるでしょ」

「あ……はい。そうですね」


響子さんには色鉛筆の絵、私にも『DIY』が見つかった。


「『素敵な時間』、見つけました」


圭が残してくれた言葉、『素敵な時間』。

彼はここにいないけれど、あの頃、

彼のために料理を作るのが楽しくて仕方がなかったような、

心がワクワクするような日が、また戻ってくる。


「うまく出来るようになったら、このお店にも何か置いてくれますか?」

「何か? いいわよ、いいわよ。飽きずに頑張ってね」

「はい」


私は任せてくださいと胸を叩き、

響子さんはその仕草を見て、嬉しそうに笑ってくれた。




【22-3】

歌穂の見つけた『素敵な時間』
部品を組み立てるように、過去の出来事が組み立てられていき……
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