22 定めを探る男 【22-3】

【22-3】

『ジュピター』から戻り、早速キットを開けてみる。

慌てて作り出して、失敗するのも嫌なので、説明書をじっくり読んでいると、

外から入り込む春の日差しが心地よくて、いつのまにか居眠りをしてしまう。

インターフォンが鳴り、手に持っていたはずの説明書が床に落ちていたことに気付く。


「はい」


両手で一度寝ぼけているだろう顔に触れ、気持ちを元に戻した。

説明書を拾いテーブルの上に置く。

『お届け物です』の声が聞こえ、私は印鑑を持ち、扉を開けた。


「はい、ご苦労様です」

「米森歌穂さんですね」

「はい、そうです」


どこからだろうかと箱の差出人を見ると、そこには懐かしい筆跡が確かにあった。


「ここにハンコをお願いします」

「あ……はい、すみません」


私は業者の方が示した場所に印鑑を押し、箱を受け取った。

扉が閉まり、部屋の中には私と箱だけになる。



『梶本圭』が送ってくれた、箱。



送り主の住所は、所属事務所のビルだったけれど、筆跡は確かに圭のものだった。

鼓動が速くなるのを感じながら、私は箱を開けて行く。

中に入っていたのは、『時計』とメッセージカード。



『お誕生日 おめでとう 歌穂の素敵な時間は続いていますか』



去年、圭が隣の部屋を出て行くときにも、少し早いプレゼントとして時計をくれた。

それは別れの挨拶と、誕生日のプレゼントを兼ねたものだと思っていたのに、

今年もまた、こうして贈り物が届くなんて、思っても見なかった。



『素敵な時間』



今年、圭がくれた時計は、置き時計だった。私はその時計をテーブルの上に置く。

言われたわけではないのに、なぜか『そうかもしれない』という思いが、

自分の中で大きくなる。

別れの挨拶なら、今年も贈ってくれる必要などないはず。

だとすると、これは……



私は窓を開け、いつもと変わらない川の流れと、

そして向こう岸に見える、小さな工場へ視線を向けた。





『Rioni』との専属契約は2年。

その後、どうするのかなど、去年話してくれることはなかったけれど、

でも、この1年、圭も私のことを気にしてくれていただけで、心が温かくなる。

『素敵な時間』を積み重ねた先に、また何かが待っている気がして、

私は次の日から、さらに気持ちを前へと向けることが出来た。

昼食時間には、週末チャレンジするキットの説明書を読みながら、

完成を頭の中でイメージする。


「『DIY』ですか、米森さんが」

「そう。始めてみたら楽しかったの。井上さんも趣味、何かある?」

「趣味……ですか」


井上さんは、どこかのお店で買ってきたパンをほおばりながら、

趣味など特にないかもと、首を傾げている。


「私も趣味なんてないと思っていたのに、
急に『これ』って思うときが、来るかもしれないわよ」

「そうですか?」


井上さんは、傾げた首を元に戻すと、温かそうなスープを飲み始めた。





週末の楽しみを挟みながら、私は週に1度、『キャリア研修』へ通い続けた。

4回目にはそれぞれの発表が行われ、その頃には、気持ちも打ち解けはじめ、

それぞれの支店での苦労話なども聞こえ始める。

支店長が成績を上げることばかり気にしているので、職場がピリピリしているとか、

女子行員が取引先の人と不倫関係になり、奥さんに支店へ怒鳴り込まれたなど、

そんな話も飛び出るようになった。

話の輪からはずれ、化粧を直そうと廊下に出ると、

向かい側の部屋から、何か思いつめたような表情をした青木さんが、

出てきたところだった。


「お疲れ様です」

「あ……お疲れです」


青木さんは、私に会いたくなかったのか、慌てて頭を下げたまま、横を通り過ぎていく。

他の人はみんな、昼食の休憩中なのに、何をしていたのだろう。

パタンと扉の開く音がして、もう一度顔を向けると、そこには粕谷部長が立っていた。


「……お疲れ様です」

「あぁ……お疲れ」


粕谷部長は、私の横を通り、そのまま角を曲がるのかと思ったが、

何か思い出したことがあるのか、立ち止まった。


「米森さん」

「はい」

「『神波支店』当時のこと、君は覚えている?」

「……どういう意味でしょうか」

「どういう意味かぁ……いやいや、仕事のことだよ、当たり前だろ」


含みのある言い方、以前もそうだった。

『はやぶさ証券』というキーワードを出し、私が謙に話しに行った日、

私たちは写真を撮られた。


「悪いことをしたら、謝らないとならないよね、人として」


粕谷部長は、怪しい笑みを残したまま、曲がり角に消えていく。

私は、ここを出てきた青木さんの浮かない顔を思いだし、

そして、『森口支店』にいるはずの、謙のことを考えた。




【22-4】

歌穂の見つけた『素敵な時間』
部品を組み立てるように、過去の出来事が組み立てられていき……
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