22 定めを探る男 【22-4】

【22-4】

『キャリア研修』も残りは2回。

始めは本店へ行くこと自体、納得がいかなかったのに、

気持ちなんて、ちょっとしたことで変わるものだ。

研修のために本店へ出かけたおかげで、アンテナショップを見つけ、

そこから私は『DIY』を楽しむようになった。


キットを使った『スパイスラック』。

そしてこの4月、圭から届いた2つ目の時計を、

その次に作った『おもちゃキッチン』の上に置いた。

今さらおままごとをするつもりなどないけれど、

先生いわく、切り方や組み立て方を学ぶのに最適だと言われ、なんとか形にした。

父は昔から仕事が忙しく、一人っ子だった私の相手は、

いつも、おもちゃの『おままごとセット』だったことを思い出す。


「あ……」


思い出に浸っている場合ではない。

時間を確認し、研修に向かうため家を出る。

そこからは圭が最初にくれた腕時計が、私に時間を教えてくれた。


午前中の研修を終えたあと、面接がそれぞれ行われることになった。

私は『小会議室』の扉を叩き、ゆっくりと開ける。

そこには粕谷部長が座っていて、他にも2名ほどの本店の行員が姿を見せた。

『キャリア研修』全体の話が語られ、私もそれに合わせて答えを返す。

時間にすれば5分ほどで、内容もたいしたことはなく、質問も特になかったため、

終わりになる雰囲気を感じた。


「ここからは、別のことを聞かせてもらいたい」


粕谷部長の合図で、座っていた一人の男性が席を立った。

書類を手に持ったまま、会議室を出て行ってしまう。

『別のこと』という意味は、何を示しているのだろう。


「さて、米森さんは……どこを希望する?」


そう切り出したのは粕谷部長だった。

『キャリア研修』を終えると、何か希望が叶うのだろうか。


「希望? どういう意味でしょうか」

「そろそろ異動の時期だと、薄々わかっているだろう。君くらい経験のある行員なら」


銀行という組織は、行員を同じ支店に長く勤務させない。

お客様と親しくなること、慣れてしまうことを避けるためだ。

男性と女性とでは動くタイミングが違うけれど、確かにそれぞれ時期が来れば、

異動は当たり前だった。


「せっかく『キャリア研修』を頑張ってくれたのだから、
それをいかせる場所へ異動するのが、いいと思うけれど……どうだろうか」


粕谷部長は、主任という形で異動出来るように、配慮するつもりだと、

私に少しずつ近付きながら、話し続けた。

私は、特に出世欲もないので、結構ですと断っていく。

この人の言うことを鵜呑みに出来ないことくらい、過去の経験でわかっている。


「君は固いなぁ……それともまだ、有働に操られたままなのか」


『操られた』

操られた覚えはない。そういう意味を込めて、粕谷部長を見続ける。

最初から感じていた怪しい雰囲気の『核』が、いよいよ姿を見せるのだろうか。


「これを見てくれ」


粕谷部長が目の前に出したのは、『東日本銀行』時代の、融資関連書類だった。


「もう昔の書類だ。しかし、見過ごして終わりというわけにはいかない。
なぜなら、君たちは知らないうちに、有働に使われたのだから」



『株式会社 本間設備』



あまり印象のない会社だった。でも、確かに書類自体は本物に見える。


「『東日本』と取引をしていた数件の会社を、有働は手土産状態にして、
『成和』へ移った。君たちがコツコツと仕事をしていた裏で、
あいつは自分の利益だけを求めた」


確かに、書類上で見ると、融資した金額を前倒しに返済し、

『本間設備』は『東日本』との取引を終了している。

当時、謙は融資課の行員として、こういった企業を担当していた。


「この会社を最初に引き入れたのは、青木君だそうだ。
とある企業からの協力を取り付けるようになり、規模が大きくなった。
そこに目をつけた『成和』は、『本間設備』を引きこもうと、有働を利用した。
青木君は認めてくれたよ。自分が営業をした会社だとね」


以前、青木さんが真剣な顔で出てきたのは、このことだった。

粕谷部長は、こうして、当時の行員から話を集めている。





それはきっと、謙を追い込むため。





「どうだろう……思い出すことはないか。君なら、有働が当時どう動いていたのか、
知っていることもあるだろう」


当時、確かに私は謙と特別な関係にあった。

でも、こうした話は一度もしたことがないし、何も聞いていない。

私も、謙が『成和』に移ったと正式に知ったのは、ずいぶんあとのことになる。


「申し訳ないですが、記憶にありませんので……」


謙をかばおうとかではなく、本当に記憶にない。

確信のないことは、言うことが出来ない。

粕谷部長は、私がこういう返事をすることをわかっていたのか、頷きながら笑っている。


「まぁ……うん、まぁ、そうだな」


私は、企業本体の取引を動かせる場所にはいなかったし、謙がどう動いたのかも、

本当に何も知らない。


「あいつは、『東日本』の行員という立場にありながら、
同僚が仕事をしていた企業を横から奪い取り、なおかつ、別の銀行へと持ち出した。
それで得をしたのは誰だと思う。有働一人だ。青木君をはじめとして、
一緒に汗をかき、仕事をしていた面々が、あとでどういう対応をすることになるのかなど、
何も考えてはいなかった。青木君は、自分の営業が間違っていたのかと、
悩んだそうだよ。柳田君もそうだ。天秤にかけていたのかと思っていたそうだが、
実は同僚が裏切っていた……」


『柳田さん』、『青木さん』

粕谷部長は、その縁があった人を選んで、この『キャリア研修』に呼んでいた。

当時、何が行われていたのか、それを告げたのだろう。


「まぁ、いきなり有働を裏切れと言うのは、
確かに君にとって飲み込めるものではないのかもしれない。
でもな、あいつに義理を立てても、何も戻っては来ない。
それより……これからもここで生きていくつもりなら、チャンスは掴んでおいた方が、
いいと思うがね」


粕谷部長は次の面接をするのでと、話をここで終わりにしてしまった。

とにかく、私たちが『神波支店』にいた頃、何かが動いていたことは間違いない。


「申し訳ありません、お役に立てませんで」


私はそう言い残し頭を下げると、『小会議室』を出ることにした。




【22-5】

歌穂の見つけた『素敵な時間』
部品を組み立てるように、過去の出来事が組み立てられていき……
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