23 星に願う女 【23-5】

【23-5】

オートロックを解除する前は、確かに響子さんがいたはず。

私が見た画面に映ったのは、間違いなく響子さんだったはず。

それがなぜ、圭になっているのか、私の頭は事実に追いつかないでいる。


「ごめん、驚くよね」

「どうしてここにいるの? 工藤さんと約束……」

「それについては話すよ、これから」

「響子さんは?」

「響子さんは帰った」

「帰った?」


圭は、響子さんは始めから今日、ここに自分が来ることを知っていて、

手伝ってくれたのだと笑っている。

私は、一人だけ何も知らなかった。響子さんと圭は、知っていた。

その事実を単純に受け入れることが悔しくて、私は圭を玄関の外へ押し出した。


「あ……歌穂」

「知らない」


二人して、私を騙した。

ここへ今日来ることが出来るのなら、どうして連絡くらいよこさないのか、

扉に背中をつけたまま、心の中でブツブツとつぶやいているうちに、

『竹原川花火大会』が始まる合図の花火が、勢いよく上がりだした。


オープニングの花火は、いつも連発。

大きな輪が空に描かれ、観客たちの歓声が沸きあがる。

このオープニングと、そして最後のエンディングが一番の見ものだった。

さらなる歓声が上がる中、外に押し出した圭のことを思い出し、また扉を開ける。


「早く、入って」

「怒っている?」

「怒っているというより、慌てている。オープニングが終わってしまうから、
ほら、早く」


今日は一人ではない。

圭と一緒に『花火大会』が見られるのに、この瞬間は1年に1度しかないのに、

意地を張って、見逃すわけにはいかない。

腕をつかみ、急いでベランダへ飛び出していく。


「ほら……ほら、圭」

「わかった、そう引っ張られると、転ぶかもしれない」


一瞬の眩しい光りの輪が輝いた後、少し遅れて大きな音が届く。

その頃にはまた次の花火が打ちあがり、さらに滝が流れるように、光の線が重なっていく。


「オープニング、見られた」

「うん……」


1、2分のオープニングが終わり、そこからは色とりどりの花火が上がり始めた。

周りの興奮度合いも少し落ち着きを見せた頃、

私は隣に立つ圭の姿をもう一度確認する。


実家の借金を返済するために、モデルの仕事を引き受けることになった。

『Rioni』という世界的なブランドとの契約には、私と別れることが条件だったはず。


絶対に会わないと約束したのに、どうしてここに来てしまったのだろうか。

響子さんから、私が大変そうだとでも聞きだし、尋ねてきてくれたのだろうか。

聞かなければならないのに、聞くことが出来ない。

せめて、この花火大会が終わるまで、事実を突き詰めたくはないから。

『花火のような一瞬の輝きでもいいから会いたい』と願ったのは、私自身。


「歌穂……」

「何?」

「ここに来ていることは、工藤さんも『Rioni』の片桐さんも知っている」

「知っている?」

「うん……だから、焦ることもないし、不安がることもない。
ゆっくり花火を見よう」


圭はそういうと、ベランダの手すりに腕を乗せた。

本当に圭がここにいることを、周りの人たちは認めてくれているのだろうか。

信じたいと思う反面、どこかから催促の連絡が入るのではないかと、

なかなか落ち着けない。


「話をするから、とにかく聞いて」


圭は、こうなっているいきさつを語ってくれると笑っていた。

話をするのなら、手すりに寄りかかった状態では疲れてしまうだろうと思い、

私は、この間完成させた椅子を横に置く。


「座って……」

「あ、うん。へぇ、これなんだ。歌穂が花火大会までに作ろうとしていたのは……」

「……どうして知っているの?」

「だから、色々と話すって、言っているだろ」


まだ頭の中が混乱していて、自分がどうすればいいのかが思いつかない。

私の慌てっぷりに対して、圭がものすごく落ち着いていることが、

なぜか納得いかない。


「どこから話せばいい?」

「最初から最後までよ。私にはあなたがここにいてくれることが、何もわからないもの」

「そっか……そうだね」


圭は頷きながら、お土産に持ってきてくれたお酒をテーブルに置いた。

そして、美味しそうなフルーツケーキも横に並べてくれる。


「これは、工藤さんがくれた」

「工藤さんが?」

「うん……歌穂によろしくって」


ますますわからない。

工藤さんは、私に圭と別れて欲しいと言った、張本人なのに。


華やかな花火の連発から、川沿いにかけられた『ナイアガラ』が披露される。


「あのね……」

「うん」

「確かに、『Rioni』が俺に出した条件は、
君と別れてまっさらな状態になってくれることだった。
事務所の人たちとも話し合って、どうするのか悩んだ中で、
結局、歌穂の後押しに甘えて、二人の時間を止めることになった」


私は圭の言葉に、ただ黙って頷き返す。

条件を飲まなければ、圭は実家の土地や家を守ることが出来なかった。

私はその責任を、背負えないと感じ、別れを決意したのに。


「別れなければならないと心に決めたとき、君に2年待っていて欲しいと、
そういうつもりだった。でも、それは有働副支店長に止められた。
モデルという仕事が、どうなるのかわからないのに、
歌穂の選択肢を狭めてしまうのは、俺のわがままではないかって」


謙から聞いた話と同じことを、圭が圭の言葉で語っている。


「君を自由にしたままで、もう一度競わせて欲しいとそう言われて、
確かにその通りかもしれないとそう思った。あのポストに入れられた写真に、
男女の意味がなくても、歌穂の中に、有働副支店長への思いが、
どういう形にせよあり続けているのではないかと、
俺自身も思っていたところがあるから……」


鴫原有紀から、そして謙からも聞いた言葉。

過去を断ち切ったと思っていた私の中に、長い間残されていた思い。


「圭……ずっとそんなふうに思っていたの? 私と付き合っているときも、
私が心のどこかで有働支店長を思っているって……」

「歌穂の気持ちを疑っていたわけではないよ、
でも、副支店長が本当の意味で自由になったとき、彼の言葉や行動に、
君はどう思うのかって、それは気になっていた。
副支店長が男としても魅力的だと言うことは、俺自身も認めるところだし、
上司としても、惹かれるところもあったしね」


花火大会は、打ち上げ方が変わり、少し小さな細工をこらしたものに変化した。




【23-6】

知っていくほどに、結局あなたに会いたくて……
歌穂が見上げた空には、一瞬の星が瞬く
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