24 一人の女と二人の男 【24-1】

24 一人の女と二人の男


【24-1】

「うまいね、やっぱり」

「もう、まだ並べている最中でしょ、少し待っていてよ」

「いいから、いいから」


響子さんと食べるつもりだったから揚げは、どんどん圭のおなかに納まっていく。

モデルの仕事をしているのだから、太ったら困るのではないかと言ってみるが、

圭は、仕事で夜中に焼肉を食べても、太らないのだと笑っている。

文句を言ってやろうとしても、圭の笑顔があると、それが出来ない。

ただ、嬉しくて……



そして、あったかくて……



「隣の住人は、どういう人」

「うーん、どういう人って、挨拶の時にしか会ったことがないの。
学生なのか社会人なのかもよくわからない」

「へぇ……素敵な人だった?」


心配そうにそう尋ねる圭の表情が、なんだかとてもおかしくなる。

容姿を見込まれてモデルをしているのは自分なのに、自信がないのだろうか。


「どうして笑うんだよ」

「素敵な人だったら、なんなの?」

「心配だろ。隣っていうのは、距離も近いし」

「距離が近いって、壁があるわよ」


圭は、この部屋だけはどうにか借り続けておくべきだったと、

隣の壁のそばに立ち、意味なく嘆き始めた。

私はやっと調理を終え、遅れて食卓につく。


「ねぇ、歌穂、これ何?」


ベッドのある部屋で圭が見つけたのは、

私が謙から預かっている『ICレコーダー』だった。

昨日、部屋に戻ってきて、ベッドに寝転がりながら考えていたことを思い出す。


「『ICレコーダー』」

「うん、それは見たらわかるけれど。どうしてこんなものがここに?」


そう、普通ならそんなものを、持っていることはない。


「ねぇ、圭。『成和銀行』の吉野さんって知っている?」

「吉野さん? 成和の? うーん……知らないなぁ」

「そう、今、『森口支店』の副支店長なの。
どうも本店の粕谷さんと親しいみたいで、で、色々と問題が起きそうなのよ」


圭には、隠し事などしない。

私はそう決めて、なぜ、この『ICレコーダー』があるのかも、しっかり説明した。

謙と会い、過去の出来事を聞いたこと、企業を『東日本』から抜き出したのも、

本当は現在の上司たちがからんでいるのに、それを見ぬ振りしているのか、

問題が複雑化していることを、なるべくわかりやすく言う。


「成和は一時、『ひいらぎ銀行』に抜かれたからね。
業績をあげることは、銀行全体の絶対だったんだろうな」

「抜かれたって、大手であることには変わらないでしょ」

「上を見ればキリがないけれど、経済も下向きだったから、
生き残るために必死だったんだろ。それで、歌穂はどう思っているの?
有働副支店長……あ、そうだ、そういえばもう支店長だったね。……が言うように、
不正は許せないからって、粕谷部長に渡すつもり?」

「粕谷部長に渡すなんて気持ちはないわ。でも……」

「でも?」


謙が私にこのレコーダーを渡したという事実も、そのまま放っておきたくはない。

『どうせ出さないだろう』と、絶対に思われている。


「このままって言うのも、腹が立つでしょ」

「どういうこと」

「支店長は、私が粕谷部長に証拠など出すわけがないと思っている」


『ICレコーダー』。

録音したと言っていたけれど、実際にはしていないのではないかとも思えてきた。

本当に私がこれを粕谷部長に渡したとしたら、支店長でいられなくなるくらいの、

大きな問題になるかもしれない。

謙が、そこまで自分をピンチに追い込むことなど、考えられない気がする。


「だったら押してみればいい。録音してあるのなら、何度聞いても同じだろ」

「……うん」


私が圭の前でボタンを押すと、確かに謙の声が入っていた。

圭は最後まで聞かずに、レコーダーを止める。


「入っていたね」

「……うん」


謙は本当に、あの日の会話を録音していた。

もちろん、自分が関わっていたと言う部分だけだろうが。


「あの人は、君にウソをつかないと思う」

「圭……」

「銀行を辞める前に話したときも、
本当に歌穂のことを思っていることだけは、感じた気がするんだ。
歌穂はどう考えていたのかわからないけれど、
支店長はそれなりに、覚悟を決めているということではないのかな」


『覚悟』

エリートコースから外れてしまうかもしれない恐怖。

結婚相手を選ぶにも、それなりの考えを持ち動いてきた謙が、

本当に覚悟を決めたと言うのだろうか。


「……でも」


でも……


「でも、加担していると思われるのは、腹が立つもの……」


圭は、そう言った私の顔を見た後、楽しそうに笑い出した。




【24-2】

歌穂の見つけた幸せの空は、曇りも晴れも雨もあり
たどりついた『恋』のお話は、まだまだこれからも続く……
1日1回、読みましたの拍手、ランクぽちもお願いします(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


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