24 一人の女と二人の男 【24-2】

【24-2】

どうして笑われるのかがわからずに、私はから揚げを箸でつまんだが、

口に入れずに言い返す。


「ごめん、ごめん、歌穂らしいなと思ってさ。
ようするに、どちらにも従いたくないとそういうわけだ」

「……そうかも」

「でもさ、上に立てば、きれいごとだけでは済まないよ。
それは、工藤さんが俺と君にきついことを言ったことでもわかるだろ。
流されていたら組織なんて動かせないし」

「それもわかる」

「粕谷部長と、有働支店長と、どちらが自分の上司として仕事がしやすいのか、
それを考えたら? 今までのことは全て水に流して」


『上司としての資質』

『神波支店』での粕谷部長、そして本店へ移ってからの態度。

謙とは、あれこれあったけれど、仕事の面では全て助けてもらってきた。

圭が銀行を去る前も、彼なりに手をつくしてくれていた。

どちらが上司として、これからの『成和』に必要なのか……

互いにマイナスがあったとしても、それをフォロー出来るプラスがあるのは……


「粕谷部長がどういう人なのか、俺はわからないんだよね」

「あの人は、昔から……」


そう、昔から粕谷部長だって、何もなかったわけじゃない。

私と同期の行員をくどき、妻子がいたにも関わらず、深い関係を求めてきた。

彼女はそれが嫌で、銀行をやめたのだ。


「そうだ……」

「何?」

「そういえば、そうだった、思い出した」


以前、友人の結婚式に出たとき、

美保子は、今でも粕谷からのメールは残してあるって、そう言っていた。

あの携帯に残っていた写真。


「何を思い出した?」

「うん、正義のヒーローぶっている人が、本当は悪だってこともあるでしょ」

「悪?」

「いいことを思いついた。ちょっとだけドキッとさせるいい方法」


どういう意味なのかわからない圭の顔を見ながら、

響子さんが持たせてくれたワインの味に、その日は気持ちよく酔わされた。





久しぶりにしてもらった圭の腕枕が一番、

私の心を、ほっこりとあたためてくれた。





週の明けた月曜日。

『森口支店』には午前中から、粕谷部長が顔を出した。

吉野副支店長は、待っていましたとばかりに丁寧な応対をし、

謙は覚悟を決めているのか、一切動じる素振りもない。

私は朝礼を済ませ、自分の席に座り、それから仕事を開始した。


「米森さん、ちょっといいかな」


私のことを呼んだのは、副支店長だった。

先日話をした異動の件で、話があると言う。

そんなオブラートをしてくれなくても、聞きたいことはただ一つなのに。


「わかりました」


呼び出された支店長室には、謙と粕谷部長がすでに座っていた。

私は謙から受け取っていた『ICレコーダー』を片手に持ち、扉を叩く。


「失礼します、米森です」

「どうぞ」


お辞儀をして中に入ると、テーブルの上には『株式会社 本間設備』の資料と、

『株式会社 キョウグル』の資料が揃えられていた。

青山さんが持ち込んだのか、東日本当時の顧客資料メモも、そこに加わっている。


「あの……」

「先日、米森さんには『キャリア研修』をしていただいて、
異動の希望もお聞きしたけれど、どうかね、何か希望はありますか」


粕谷部長は、謙の証拠を並べ立て、それを追及するつもりだろう。

私が何を言おうが、これだけ並べられたら、逃げることなど出来ないはず。

謙の目が、私の顔から、手に持った『ICレコーダー』へ向かった。

一瞬、まさかという顔をしたけれど、すぐに冷静さを装い、

粕谷部長の前に座るようにと、指示を出してくる。

あの顔つきは、絶対に、予想外だったのだろう。


「結構です、座らずにここで」

「米森さん」

「私は決められた場所で働くだけです。どこに行きたいなど希望はありません。
ただ……」

「ただ?」

「銀行が、この合併により、少しでもよくなって欲しいと思っています」


そう、長い間勤めていることで、色々な人と知り合い、そして別れも経験した。

お客様にも個性があるけれど、みんな毎日を一生懸命に生きている。


「あはは……何を言っているのかね。私だって、考えているよ。
だからこそ」

「粕谷部長」

「何だね」

「これを、お聞きください」


私は真剣な顔で謙の方を見た後、『ICレコーダー』をテーブルの上に置いた。


「米森さん……」

「支店長、最後まで話を聞いてください」


有働謙。

あなたが今、どれくらい焦っているのか、それはわかっています。

でも、あなたがしてきたことだって、全てが正しいわけではないと思うから、

ほんの少しだけ、意地悪をさせてもらいます。


「そうだよ、有働君。米森さんには米森さんの考えがある。
うん、何だねこれは。聞けばいいのかな?」


何かを持ってきてくれたという、粕谷部長の嬉しそうな顔。

私はあなたのことを、一度も尊敬したことがありません。


「粕谷部長が、『東日本銀行』当時のことを、色々とお知りになりたいようなので、
自分なりに考えて、昔の話を聞いたつもりです」


そう、私は昔の話を聞いた。

言っていることに、少しの間違いもない。


「米森さん、この中身は……」


吉野副支店長は、これはなんなのかと私に問いかけた。

頬が少しゆるんでいるのは、謙が落とされたら、

支店長にでもなれると思っているからだろうか。

申し訳ありませんが、あなたのそのやり方では、到底人を動かすことなど無理でしょう。

粕谷部長は笑みを浮かべ、とにかく聞いてみようと副支店長を制止する。


「はぁ……」


謙は一度大きくため息をつくと、口を強く結び、私のことを見た。




【24-3】

歌穂の見つけた幸せの空は、曇りも晴れも雨もあり
たどりついた『恋』のお話は、まだまだこれからも続く……
1日1回、読みましたの拍手、ランクぽちもお願いします(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


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