24 一人の女と二人の男 【24-4】

【24-4】

「どうして怒るのよ」

「怒るに決まっているじゃないですか」

「あれあれ? なぜかな?」


私はその日の仕事を終えた後、『ジュピター』へ向かい、

全てを知っていたのに、知らないふりをしていた響子さんと向かい合った。

怒っているというのは建前で、本当は言い尽くせないくらい感謝をしている。


「誰と歌穂さんが歩むべきなのかまで、私が決めることではないでしょ。
もしかしたら、本当の意味で縁のあるのは、元彼なのかもしれないとも思ったしね。
だから、とにかくあなたの状況だけは知らせると約束したの。
『素敵な時間』を送って欲しいと願った梶本君の思いが、
どういうふうに歌穂さんへ向かうのか、それはあなた次第だし……」



『素敵な時間』



「2度目の誕生日に時計が届いたのは、まだ大丈夫だよって私が教えてあげたから。
内心、ドキドキしていたみたいよ、彼も」

「全くもう、圭はすぐに響子さんを頼りますね、昔から」

「そこらあたりが、年下君の微妙なところよ、歌穂さん」


年下だけれど、男性はプライドが高いのだと、

響子さんはコーヒーを入れながら笑ってくれた。

私が昔、一人で箱根へ行くときも、圭は響子さんのところで愚痴を言ったし、

気持ちを伝えてくれる前にも、『プラネタリウム』の券をもらい、

ガンバレと後押しされていた。


私が響子さんに感じる思いと一緒。

頼りがいのある姉に出会えたような、気持ちなのだろう。


「そうですね……男の人は、プライドが高いから」


私は、『花火大会』当日、自分が仕掛けたことがうまく行き、

得意顔だった圭のことを思い出す。


「でもさ、彼なりに演出したつもりなのよ。『竹原川花火大会』の日に、
あなたの前に戻りたいって」

「……はい」


あの時には、どうしてそうなったのかと怒りをぶつけた私。

圭は圭なりに、頑張ったことなのだろう。

精一杯私を驚かせるために。


「1にも2にも、米森歌穂なのよ。そんな彼、かわいいでしょ?」


響子さんの言葉に、私は口元をゆるめながら、小さく頷いた。





『Rioni』の仕事で、圭は8月いっぱいパリにいるらしく、

携帯には写真やメールが、一日に数回届いた。

私はそれを見ながら、いつものように休憩室で昼食を取る。

熊沢課長は、近頃肩こりがひどくなっていると嘆き、

井上さんは彼氏と別れてしまったと、目の前でため息ばかりついている。


「はぁ……」

「井上さんらしくないじゃないの。まだまだこれからでしょ」

「いえ、もう、恋愛は疲れました」


そう、頑張っていた恋にピリオドが打たれると、人はもう結構だと思うものらしい。

私自身、そう思いながら、『かわいくない女』の鎧を、着続けてきた。


「井上さん、いくつ? だめよ、そんなふうに諦めてしまったら」


人は必ず、前向きになればいいことが待っている。

自分の現実に背を向けることは、幸せからも背を向けることだと、そう思う。

私は携帯を横に置き、思っていたことを井上さんに告げた。


「米森さん」

「何?」

「米森さん、変わりましたね」

「私が、変わった?」


井上さんは、以前の私は、どこか別のところをいつも見ていて、

全てを割り切っているように思えたと、そう言ってくれた。


「自分にも、他人にもあまり興味がない……と言うか……あ、すみません」


井上さんは、先輩に言い過ぎていると思ったらしく、すぐに頭を下げてくれた。


「謝らなくていいわよ、うん……確かにそうだったかも。
『ほっといて欲しい』といつも思っていた」


確かに、以前の私はそうだった。『どうせ』という言葉をよく使い、

色々なものに関わることを避けてきた。


「どうして変わったんですか?」

「どうして……うーん……」


『変わった』ことは、誰よりも自分が知っている。

いや、『変われた』ことは、自分自身が誰よりも知っている。

でも、どうしてなのかは、色々なことが重なっていて、これですとは言えない気がする。


「……恋愛……ですか?」


私はその問いに答えることはせずに、残り時間が少ないからと理由をつけ、

お弁当を食べ終えることに集中した。





「どう? これ」

「どうって、すごいけれど、これ、本当に歌穂が作っているの?」

「どういう意味? 出来上がっていくのそばで見ていたでしょ」


カレンダーが9月に入り、私は週末に実家へ戻った。

夏の強い日差しが、少しずつ秋に近付いていく中で、

テラスでつかえる小さな椅子とテーブルを、母にプレゼントすることを決める。

材料を選び、寸法も測り、細かいところから全て自分で取り組んだ。

もちろん、買ってしまえばすぐに整えられるけれど、それでは意味がない。

何度かそれを理由に家へ向かい、出来上がったものに色をつけていく。


「楽しそうね、歌穂」

「楽しいわよ。工具を持つと、朝なのか昼なのかもわからなくなるくらい」

「まぁ……」


『色鉛筆』で絵を描くことが好きな響子さん。

たまにしか戻らない父親でも、戻ってくることを待つことが好きな母。

そして、どこか危うい関係でも、自分を奮い立たせることが好きな坂口弥生。

私は『DIY』と出会い、あらためて人の思いはそれぞれだと気付くことが出来た。


こうだという枠にこだわることなどなく、

自分が信じる道で、『幸せ』を求めればいい。


今までなら許せなかったような出来事が、なぜか許せる気持ちに変わっていく。



『親は親ですから』



以前、圭の部屋に泊まることになったとき、親の愚痴を話したことがある。

その時、圭は私にそう言ってくれた。

一生、突き放せることはないのだろうけれど、

そのために自分の生き方まで乱される必要もない。


このままの私を、好きだと言ってくれた人のために、

今日も、『素敵な時間』を送るため、1歩ずつ進む。


「はぁ……美味しい」

「そう? よかった」

「体を動かしたからかな、おなかも空いてきた」

「あら、それなら夕食、早めに作るわね」


父の生き方も、母の生き方も、私が理解することは一生ないだろう。

それでも、私は、この関係を無理に変えようとは思わなくなった。




【24-5】

歌穂の見つけた幸せの空は、曇りも晴れも雨もあり
たどりついた『恋』のお話は、まだまだこれからも続く……
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