1 白い子犬 【1-1】

1 白い子犬


【1-1】

雲の広がる空から、見えてくる光りの道。

まるで空にいる神たちが、地上の小さな生き物に、

希望の場所はここだと、教えているかのように見えてくる。


時には海の上に。

そして、広い草原の上に、光りは優しく降り注ぐ。




そして、僕の心につながる一筋の光りがそこに……





『薄明光線』

この自然現象は、別名『天使のはしご(Angel's ladder)』と呼ばれている。





『半田自動車整備』

トタンの屋根、それに同じような壁を持つ、なんていうことのない小さな街の、

小さな自動車整備工場、ここが僕の職場になる。

社員は全部で5人。

社長の『半田倫太郎』と、経理担当で実際には社長もコントロールし、

会社の全てを取り仕切る、奥さんの『半田愛美(まなみ)』、

幼なじみの女性を奥さんにして、3人の男の子を持つ整備長の『栗丘毅(たけし)』、

そして僕より1つ年上で、新しい彼女と付き合い始めたばかりの先輩『赤石俊祐』。



そして……



「おい、歩(あゆみ)、手が空いているのなら、ちょっとこっちを頼む」

「はい」


『後藤歩(あゆみ)』

僕は高校を卒業し、この仕事についた。


「どうだ」

「今、見ています。もう少し動かしたままで待ってもらえますか」

「あぁ……」


家庭の事情もあり、大学進学をあきらめていたが、

方法は一つではないのだからと奮起させてくれたのは、社長の奥さんだった。

工場で仕事をしながら、整備士の資格を取らせてくれただけではなく、

午後3時過ぎに仕事を終わらせ、夜間の大学に通う時間まで作ってもらった。



『母の友人』



理由はたったこれだけのことなのに、今でも本当の母のように、僕に接してくれている。


「あぁ……」

「どうだ、歩」

「栗丘さん、オイルが漏れているんじゃないですか。少し触れると湿ってますし」

「やっぱりお前もそう思うか」

「はい」


僕は、油の匂いが染み付いた作業服を着て、一日中、車の下に入ったり出たり、

そんな生活を繰り返している。

大手とは言えない職場で、決して恵まれている生活だとは思わないけれど、

だからといって、それを理由にうなだれているわけにもいかない。

周りを支えてくれる人たちがいて、それに応えようとする自分がいる。

その生活ぶりには、それなりに満足していた。


「歩……」

「はい」


寝板を動かし、車の下から顔を出すと、

奥さんが小さな紙袋を揺らし、テーブルの方を指差した。

今朝、腰が辛そうに見えたから、いいと言ったのに。


「すみません、ばあちゃんですか」

「今ね、自転車に乗って」

「自転車?」

「そう、私も驚いたけれど、しっかりとした足取りで来てくれたわよ。
歩を呼びましょうかと言ったのに、仕事の邪魔になるからって、すぐに帰られた」

「そうですか。今朝は腰が辛そうで。
だから、昼飯くらいどこででも買えるからって、言ったんですけど」


80に届こうかという、僕の祖母『後藤りつ』。

もう、自分のことだけ考えてくれればいいと、言っているのに。

いまだに、手のかかる孫という気分だろうか。


「いいじゃないのよ、歩がかわいくて仕方がないのだから、
甘えてあげられるところは、甘えてあげなさい。それがりつさんの元気の源でしょ」

「……まぁ、はい」


僕にはすでに、『親』と呼べる人がいない。

僕が中学2年の時、仕事に向かう二人が乗った軽自動車が、

突然の交通事故に巻き込まれ、別れの挨拶をすることもなく、両親はこの世を去った。

事故は、相手車の『整備不良』が原因で、

ブレーキがしっかりと、きかなかったことにあった。


車には数年に一度、『車検』というものがあるのだが、

相手はそれを受けない車を乗り回し、責任を取ってくれないままその事故で亡くなった。

僕の親権は、父の親であった祖母が取ることになり、

そこから二人の生活がスタートした。


親が生きている頃は、たまに家に行き、お小遣いをもらうような間柄だったため、

始めこそお互いにわからないことが多くて、

コミュニケーションを取ることも苦労したけれど、

今では、生まれたときから一緒だったのかと思えるくらい、

わかりあっている自信もある。

苦労ばかりをしてきただけに、なんとか『穏やかな日々を』と思うけれど、

いまだに自分のことだけで手一杯の僕は、こうして世話になっているだけの毎日に、

申し訳なさだけが積み重なっていた。



【1-2】

『半田自動車整備』の朝は、準備体操から……
歩のお話は、ここからがスタートです。
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コメント

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いいなぁ

拍手コメントさん、こんばんは

>天使のはしご、海で見るときれいですよ。

あぁ、そうでしょうね。
今回、タイトルの写真を探している間も、綺麗なものが多くて、
悩みましたから。

私も、見てみたいです。

拍手コメントさん、こんばんは

『Angel's ladder』におつきあいありがとうございます。
文字の大きさ、とりあえず、私が出来る範囲で大きくしてみましたが、
どうでしょうか。

テンプレートの仕組みがよくわからないので、
これ以上の修正は難しいかも。
全体的に、文字の小さいものが多いんですよね。
『小説用』というものもあるのですが、
そうすると、普通のブログを書きづらくて。

あとは、パソコン本体で拡大するような形に、
変化させてみてください。

これからも、何かあったら、遠慮なく教えてくださいね。
お気楽に、遊びに来てください。

よかったです

ナイショコメントさん、こんばんは

文字、大きくなりましたか?
自分のPC以外でどうなるのかわからないところもあるので、
少し心配でしたが、よかったです。
目のトラブルや、衰えは、私も実感しています。
それでもついつい、PCに向かってますけど(笑)

これからも、お気楽におつきあいください。
声をあげていただいて、よかったです。