2 幸せの一歩 【2-2】

【2-2】

『毛が真っ白で、ふわふわで、光を受けている姿から、真珠を連想しました。
後藤さんは、この名前をどう思われますか?』



「『パール』……か」


白い子犬が、どういう経緯で生まれ、なぜあそこに残されのかはわからない。

それでもこうして縁を持ち、また新しい縁をつなぐことが出来た。

『パール』という名前に、これからもチビの生活が、

キラキラと光り輝いてくれることを願える気がする。



『パールをよろしくお願いします』



『パール』を抱きかかえていた時の、彼女の優しく暖かい笑顔を思い出しながら、

僕は返信のボタンを押した。





僕が仕事の帰りに、茂みの中で拾った子犬は、新しい名前を得ることが出来た。


「パール?」

「はい。昨日の椎名さんがそう名づけてくれたようです」

「ほぉ、捨て犬から宝石になったのか、お前は。大出世だな」


『白チビ』から『パール』に改名された子犬は、今朝も元気に遊んでいた。

社長は、そんな姿をチラリと見ながら、今日納品予定になっている車の書類を、

チェックし始める。


「飼い主になってくれた女性って言うのは、森中さんところの知り合いさんだろ。
お前、いいところにもらわれたな。きっと金印がつくエサを出してくれるぞ。
なんなら、俺がもらわれたい気分だよ」

「何を朝から馬鹿げたことを言っているんだろうね、この人は」


奥さんは、工場の奥にある洗濯機で洗った作業服をカゴに入れ、

干すために裏へと回っていく。


「そのかわいらしい人、何時ごろ来るのかな」

「あぁ、今日は仕事でどこかに行くらしいので、7時くらいになるそうです」

「7時かぁ……って、何、歩は個人的に連絡を取っているのか」


赤石さんは、昨日椎名さんが来たとき、ちょうど工場から抜けていたため、

『パール』の飼い主が決定したいきさつをよく知らない。


「個人的にって、あの貼り紙に携帯番号とアドレスを載せたので、
で、連絡をくれただけですよ」


僕は役目を終えてゴミ箱に入ったカレンダーの裏紙を指差しそう答える。


「いやいや、わからないぞ」

「わからない?」

「そうそう、こういったきっかけがあって、そこから……
燃えるような『愛』が始まることもある」


妙な想像力を働かせようとする赤石さんの帽子を、僕は少し深めにかぶせてやった。

そんな想像が、現実に変わることなどありえない。


「おい、歩。何照れているんだよ」

「俊祐、やたらなことを言うな。昨日のあの子、あれ、お前の従兄弟の彼女だろ」

「従兄弟? うわぁ、あの嫌味全開の拓か」


見積もりをしていた栗丘さんは、さすがに状況をわかっている。

椎名さんと拓がどういう関係なのかは断定できないが、

少なくとも拓は、彼女に好意を持っているのだろう。


「あの男の女なのか。そりゃやたらに近づかない方がいいな。
やめとけ、やめとけ、気をつけろよ、歩」

「気をつけるもなにもないですよ。赤石さんの勝手な妄想だけですから」


そう、彼女と僕とは、犬を受け渡すだけの間柄。


「なんだ……せっかく楽しい話題かと思ったのに、あいつの……と思うと、
一気にどうでもよくなったわ」

「赤石さん」


強い口調でものを言う拓のことを、ここの人たちはあまりよく思っていない。

しかし、得意先の息子であるため、正面きって文句は言わない。

受ける側と与える側、自然とその位置づけが出来ていた。


「まぁ、よかったな、チビ。せいぜい、美味しいものを食わせてもらえ」


僕らの勝手な想像など、何もわからない『パール』は、

古いタオルの端っこを、熱心に噛み続けていた。





昼休み。重なっていた弁当箱を横に広げる。

厚揚げと大根の煮物と、ほうれん草のおひたし、しょうが焼きの肉。

ご飯の真ん中には、祖母が毎年漬けている梅干が、堂々と入っていた。


「いただきます」


僕は箸を持った手を合わせ、食事を始める。

今日は確か、商店街の中にある『松本精肉店』の軽トラックが車検に入る日だ。

冷凍車の温度がしっかり下がらないと言っていたから、

細かく原因を見ておかないと。

季節が梅雨になれば、衛生管理も難しいだろう。


「歩」

「はい」


ご近所の婦人部集まりに出かけていた奥さんが、

何やら袋を持って戻ってきた。



【2-3】

小さな白い犬がもたらせた出会い……
歩の周りで、少しずつ風が動き始める予感。
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