4 土曜の出来事 【4-4】

【4-4】

「後藤さん、頑張って!」

「歩、頼むよ!」


僕はいきなり地域の期待を背負わされ、選手の集まる場所へと向かった。

リレーは男女混合のため、僕は20代男子という枠で走ることになる。

8人中、4番目の走者だ。

栗丘さんはアンカーとなるからか、緊張しているように見えた。


「歩」

「はい」

「俺が転んでもいいように、お前がぶっちぎれ!」

「そううまくいきませんから。過度に期待しないでください」


そこでリレーが始まることがアナウンスで告げられ、会場は一気に盛り上がった。

6地域で走るため、ライバルは5人。

入場している間に、僕らの名前が順番に呼ばれ、それぞれのスタート位置に到着する。

女性はグランド半周、男性は1周。

スターターのピストルの音で、運動会最後の競技がスタートした。





「4連覇、バンザイ!」


僕は無事、転ぶことなく任務を終了し、

『半田自動車整備』のあるこの地域は、特別予算を一番多く取ることになった。

そもそもスタートの女性が速く、最初から我が地区はトップを取った。

その後も全員がそつなくバトンを受け渡し、少しずつ開いていった貯金を持ち、

アンカーの栗丘さんは、大声援の中、テープを切ったのだ。

地域の会長や役員さんたちが結果を喜び、それぞれが笑顔になっている。


「帰るぞ、歩」

「はい」


上機嫌の栗丘さんと、僕は盛り上がったままの地域の人たちに挨拶し、

仕事が残っているため、工場に戻ることにした。

後ろに乗せるべき人を探すと、お茶の缶を手に持ち、こちらに走ってくる。


「はい、これ、後藤さんの分です」

「ありがとうございます。帰りますよ」

「いえ、私は今度こそ歩きます。大変でしょうから先に戻ってください」


確かに、後ろにいない方が楽は楽だけれど、

それではまた忘れ物をしている気がしてしまう。


「いや、戻るのなら乗ってください。なんだか、忘れ物をした気になるので」

「忘れ物?」

「はい」


誰かから大切な人を預かっているような、そんな気がして……


「いいのですか?」

「いいですよ」

「重くなりましたよ」

「は?」

「私、テントの中で、色々おすそ分けしていただいて……」


世話好きのみなさんから、ご自慢のおつまみやお菓子を振舞ってもらったと、

椎名さんは嬉しそうに言うと、自分のお腹を軽くさすった。

この中にあれこれ収まったと、そう言いたいのだろう。


「大丈夫ですよ、それくらいなら」

「……なら」


椎名さんは、自分の分でもらったお茶を、同じように前かごに入れると、

後ろの座席に座り、また僕の腰をつかんだ。





『4連覇』

思いがけない状況から参加した地域の運動会。

思いがけない応援団まで登場し、ドタバタしながらも成果を上げることが出来た。

栗丘さんとすぐに工場へ戻り、椎名さんの車修理へ取りかかる。

完成まで3時間を要したが、椎名さんは他の場所に行くこともなく、

『パール』と一緒に事務所でお茶を飲みながら、

運動会から戻った奥さんと、話の花を咲かせていた。





「そうかい、それはよかったね」

「うん。栗丘さんから頼まれて、急遽参加したけれど、
とりあえず転ぶこともなかったし、役目は果たせてよかったよ」


今日の夜にある打ち上げ会にも誘われたが、

そこまで地域の方たちの顔を知らないこともあり、お気持ちだけでと断った。


「せっかく声をかけていただいたのに、よかったのかい?」


祖母は、工場とのつながりもあるのにと、心配する。


「大丈夫だよ、うちからは栗丘さんと奥さんが参加しているから。
あの二人なら、僕の分まで飲んだり食べたりしてくれるはず」

「まぁ、それもそうだね」


僕はその日の疲れを風呂場で洗い流し、慌ただしかった一日を終えることになった。





運動会の熱も冷めた頃、朝から事務所は賑やかだった。

いつもならそんな場所にはいないというところで、社長がなにやらじっと見ている。


「おはようございます。そこに何かあるんですか?」

「おぉ、歩。ちょっと来い。これ、見てみろ」

「何ですか」


呼ばれてそばに近寄ると、そこにはパソコンが1台置いてあって、

画面には、チカチカと光る『半田自動車整備』の文字が見えた。



【4-5】

緑がまぶしい季節の、風の匂い。
見慣れない景色から感じた思いが、歩の心に足跡を残していく。
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コメント

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歩はやさしいですね。
それが災いとならなければいいですけれど

ぽこさん、こんばんは

>歩はやさしいですね。
 それが災いとならなければいいですけれど

優しい人につけ込むってこと、ありますしね。
歩がどうなるのか、引き続きおつきあいください。