10 見えない糸 【10-3】

【10-3】

「うーん」


ご飯はそれなりに炊けたけれど、味噌汁の味は、いまいちだった。

祖母が使っているダシを入れたはずなのに、味噌が少なかったのか、

それとも、他に何かを入れ忘れているのか、食べなれている味にはならない。

スーパーで、パックに入った惣菜を買い、栄養のバランスを考えて、煮物も買ったけれど、

その味も、食べなれているものとは、全く違うものだった。


「はぁ……」


今更ながら、祖母に頼りきった生活をしてきたのだと、そう思う。

テーブルの横には、今朝干していった洗濯物がまだ、取り込まれたままで、

当たり前だけどたためてはいない。


「これは……いいか」


明日着てしまうものは、椅子にかけた状態にして、

残りを1枚ずつたたみ出す。それぞれを箪笥にしまいながら、

棚に並べてあったアルバムに目が止まった。

引き出しを閉め、手を伸ばし、アルバムを開いていく。

整理されていない写真が数枚あり、

その中には、僕が中学を卒業した時の写真も、入っていた。



祖母と暮らし始めてからは、それほど写真を撮った覚えはない。

入学式、卒業式など、決められた行事に、周りの影響でなんとなく撮っただけだ。

祖母が友達と旅行をしている写真や、祖父と祖母が並んでいる写真など、

それなりに歴史を感じるものがある中に、父と母の結婚式写真を、

1枚見つけた。



『1985年11月2日』



カメラの下に並ぶ数字は、そう記している。

父が25、母が24で結婚式を挙げたのだろう。


「そうだ……」


祖母の部屋の押入れの奥に、いくつかのダンボールがあった。

父や母のもので、残した方がいいと思ったものは、たしかその箱に入っていると、

以前聞いた記憶がある。

閉めたものを開けて、懐かしがったり悲しがったりするのは、祖母に申し訳ないと思い、

僕は事故から1度も、開けたことがなかった。


「えっと……」


幼い頃にも、祖母と祖父には何度か会っていて、

夏休みなどにはここに泊まったこともあった。

目の前に田んぼがあり、夏になると虫の声が聴こえる中で、

確か川の字になって眠った記憶もある。


「これかな」


ダンボールを止めていたガムテープを破り、10年以上閉じられていた思い出を、

この場に呼び起こした。

残されていたのは、サラリーマンだった父が、確かよくしていたネクタイと、

母が気に入っていた帽子。そして、時計や指輪、そして数冊のアルバムだった。

僕はアルバムを抜き出し、最初のページを開いてみる。

祖母が、アルバムの中に押し込んでいた、結婚式の写真が同じように入っていて、

それと一緒に、二人で並んで撮られた写真も貼り付けてあった。

母の字だろうか、『出発』と書いた文字が、そこにある。

それからも、旅行へ行った写真や、地域のイベントなどに参加した写真があった。


「あ……」


もちつき大会だろうか、鉢巻をした母と、隣には社長の奥さんが並んでいる。

二人とも手でおもちを丸めながら、鼻の先には粉をつけて笑っていた。

日付を見ると、『1990年』となっていて、すでに僕はこの世にいるはずだ。

それからも、父が母を撮ったものや、母が父を撮ったものが何枚もあり、

半分を過ぎた頃になり、生まれたばかりの赤ん坊の写真が、3枚出てきた。


まだ、手はしっかりと握られていて、そして目も開いていない。

何も記入されていないけれど、日付から、それが僕なのだということがわかった。


写真は存在した。

2歳ごろのものより前のものが見つからなくて、どこかもやもやしていたが、

こうしてきちんとアルバムに残っている。

次をめくると、洋服を変えた写真があり、

さらにめくると、白いベッドに寝ている僕の写真が入っていた。

どこで撮られたものだろう。

場所の記入もないし、なぜか日付も入っていない。

そして次をめくると、父と母が嬉しそうに僕を抱きかかえている写真があった。

この洋服は、少し前に見た写真と同じもの。


「……あった」


祖母が持っていた写真よりも、もっと古い写真があったことで、

僕の乱れていた気持ちは、さらに落ち着けた。

どういう状態で保存していたのかわからないけれど、そこからは怒涛の勢いで、

写真が収まっている。寝返り、はいはい、歯が生えたなど、母の一言メモが、

僕の成長を、しっかりと残してくれていた。


「うん……」


僕は何を疑っていたのだろう。

どういうことかはわからないけれど、何かを勘違いしていた。

父と母は、間違いなく僕の親で、こうして僕を愛しいと思いながら育ててくれていた。

この年になって、こうしてアルバムを見ることで、心が癒されるのもおかしいが、

僕は思い出のダンボールを元通りにする前に、そのアルバムだけを抜き出し、

自分の机の横へ、整備士試験の本と一緒に並べることにした。



【10-4】

人と人をつなげる糸があるのなら、
どんなに細くても、自分の手でつかんでいたい。
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