12 彼女の意地 【12-6】

【12-6】

「すみません、お仕事中だとはわかっているのですが、電話でお話をするよりも、
直接したほうがいいと思いまして」

「いえ……」


僕はお茶を入れ、彬さんの目の前に置いた。

彬さんは湯飲みに軽く口をつけ、すぐにこちらを向く。


「実は、遥のことなんです」

「はい」

「あいつ、3日前に怪我をしたようで。ご存知ですか?」

「あの……」


僕は、3日前に今日はここへ来ないという連絡があったことを話し、

そこから何もわからなかったので、奥さんが心配していたこと、

つい、少し前に商店街の方が、

松葉杖をついた椎名さんを見かけたという話を、聞いたと全て語った。


「そうですか」


彬さんは、そう言いながら頷いてくれる。


「怪我の理由が、カラーボックスを運ぼうとしたということも……」

「はい、今、その話の中で聞きました」

「そこまでご存知ですか。そうなんですよ、全く。
怪我をしているのなら家に戻れと言ったのですが、あいつは意地なのかなんなのか、
大丈夫だというばかりで」

「あの……『パール』は」

「はい。犬だけは家に戻ってきました。
さすがに松葉杖だと、外に連れ出すことがままならないようで」


それはそうだろう。あいつの動きは、どんどん素早さを増している。

思い切り引っ張られると、僕でも体のバランスを崩しそうになる。

毎日散歩をしてやらなければ、ストレスだって溜まるはずだ。


「後藤さん」

「はい」

「申し訳ないのですが、あなたから家に戻るように、遥に言ってもらえませんか」

「……僕がですか」

「はい」


確かに、松葉杖なら実家に戻った方がいいだろうが、

僕の話など、彼女は素直に聞いてくれるだろうか。



『無理……しているかもしれません。でも、しなければ何も変わらないと思うので』



「僕が話しをして、彼女が聞くでしょうか」


僕が実家に戻れと言っても、

彼女自身が納得しなければ、動かないのではないだろうか。


「あなたでなければ、聞かないと思います」


彬さんは、あらためてお茶を飲むと、

僕に向かって話したいことがあるのですと言いだした。


「話したいこと」

「はい」

「何でしょうか」


椎名さんに対して、個人的に関わるべきではないと思いながらも、

僕の頭は、彬さんの話を聞くつもりになっている。

興味があるからというよりも、心が勝手に前へ出ようとする。

『知りたい』と、静かに小さな動きを重ね、心の芯が少しずつ熱くなる。


「遥は、あぁ見えて、なかなか人に頼ることが出来ないのです」


『人に頼れない』

それは、どういうことだろうか。

僕から見たら、彼女は誰とでも話せるし、誰とでも合わせられる。


「すみません、それはどういう意味ですか」

「信頼していた人に頼って、その後裏切られたという経験が、
あいつのトラウマになっているものですから」



頼って裏切られた経験。



『無理……しているかもしれません。でも、しなければ何も変わらないと思うので』



「どういうことですか?」


椎名さんに僕が持つ印象と、全く別の話が出てくる気がして、

僕は、彬さんと向かい合うように座り、続きを聞くことにする。


「あいつは、小さい頃から黙っていることが多い子どもでした。
どうするのと聞いても、困ったように下を向いてしまって。
それを心配した両親が、中学から寮のある女子校へ入れました。
友達と深く関われば、成長できるだろうと思ったようです。
しかし、そこで、大きな事件がありまして……」



大きな事件。



僕は、いつもの笑顔を思い出しながら、『事件』とはどういうことなのか、

焦る気持ちを抑えながら、耳を傾けた。



【13-1】

イメージだけでは、人のことは語れない。
歩は、『その人』を少しずつ知り始め……
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ナイショコメントさん、こんばんは
ありがとうございます。早速直しました。
えへへ(*^▽^*)