13 答えられない理由 【13-1】

13 答えられない理由


【13-1】

『大きな事件』


椎名さんが、中学からずっと寮生活をしてきたことは以前聞いていた。

お金持ちのお嬢様が、それなりの学校に通っていた、

ただそれだけのことだとそう思っていた。

しかし……

実際には、そういうことではないらしい。


「あいつが中学2年の時でした。仲のいい友達が一人、
どういうわけか先輩に目をつけられてしまって、悩みを抱えたそうです。
まぁ、世の中でよく言ういじめですよね。本人がいないときに教科書を隠されたり、
洋服をわざと汚されたり、遥もそれをわかっていたし、
クラスの他の友人も、それをわかっていた。
でも、みんな、いじめの子を庇えば、自分に矛先が回ることを恐れてしまって、
強く出られなくて」


いじめ……

人が集まると、大きなものではなくても、必ずこういった問題が起きるものだ。

寮生活をしているとなると、勉強時間だけではなく一緒にいるのだから、

色々とぶつかることも多いのだろう。


「それでも遥は、自分がそばにいてあげさえすれば、
その友達が一人になることはないと考えたのでしょう。
それからずっと、彼女と一緒に行動していたら、
ある日、いじめの対象が、彼女から遥に変わっていたそうです」


椎名さんの友人は、自分の身を守るために、椎名さんを犠牲にした。

彼女はそれからずっと、一人になりながら、黙って耐えていたという。

『信じていた友達に、裏切られた』という思いを抱えたまま。


「親の参観日とか、寮の見学の日などがあると、悪知恵なのでしょうね、
先輩たちも何もなかったかのように、後輩をかわいがったそうです。
だから、1年近く、それは表沙汰にならずにいたのですが……」


友達のいじめが始まって1年後のこと、

自分がいじめられ、

さらにその辛さを、椎名さんになすりつけていたことに耐えられなくなった友人は、

ある日、手首を切って自殺未遂を起こしたのだと言う。


「自殺未遂……ですか」

「はい。救急車が来て大騒ぎになりました。幸い、彼女は怪我だけで済みましたが、
親はそれを知り、学校を辞めさせるということになりまして」


その出来事に、初めて学校もいじめに気付き、

問題のあった先輩学生は、寮を出されることになった。


「遥にとってみたら、一緒に耐えていたと思っていた友達に裏切られ、
その友達も裏切った苦しさに自らを傷つけてしまって。
頑張りも努力も、何もならなかったと、中学を卒業したときに大泣きしました」


高校に上がることも、最後まで寮生活をすることも、

そこからは椎名さん自身が選んだのだと、彬さんは教えてくれる。


「寮生活をやめることも提案しましたが、遥は首を縦に振らなかったのです。
辞めることは逃げることだと。あいつはそこから変わりました。
自分のことも、自分が大切に思う人のことも守るのだと。
急に口数が増えたわけではないですけれど、決意だけは持ったのだと思います。
だから、いまだに『出来ません』と、人に甘えることが苦手で……」


僕は、彼女が理不尽なことに、いつも立ち向かう場面しか見てこなかった。

僕は、彼女は生まれながらにそういった要素を持っている人だと、

そう思っていた。

恵まれた環境に育ち、言いたいことが言える立場だから、

怖いものなどないから言えるのだと、勝手にそう考えていた。


「後藤さん」

「はい」

「引越しの日に、お話をしましたよね。遥のことをどう思っているのかと」

「……はい」


そうだった。僕は、彬さんに聞かれたことの答えを出さないまま、

あの日は別れてしまった。


「松葉杖を使っている状態では、一人暮らしは難しいでしょう。
ラッシュの車内に揺られるのも大変なことです。
どうかこの際、あいつの気持ちが迷惑なのなら迷惑だと、
ハッキリ言ってやってください」



『迷惑』



迷惑だと思ったことはない。

むしろ、こうして問いかけられると、自分の優柔不断さに嫌気がさすくらいだ。

関わるまいと思う気持ちと、それは別だとどこかで叫ぶ気持ちとが、

頭の中で行ったり来たりを繰り返している。

そう、たった数分前にも、カラーボックスをどうして自分に頼まなかったのかと、

メールを打つつもりだった。

『別の世界』だと宣言し、遠ざけたのは僕なのに。


「迷惑だというわけではなくて……」


迷惑だと言うわけではない。

僕は返答に迷ったまま、ただ下を向く。


「迷惑ではないけれど、答えることは出来ない……そういうことですか」


彬さんなら、この人なら気付くだろうとどこかでそう思った。

僕は、黙ったまま、一度だけ頷いてみる。


「そうですか」

「すみません」

「いえ、謝られることではありませんが、残念ではありますね」


残念。

僕自身にだろうか、それとも……


「遥が高校2年の夏に、中学時代互いに傷つけあった友達から手紙が届きました。
あの頃は自分が悪かったとそう書いてくれた手紙を、
あいつは今でも大事に持っています」


友達として過ごすはずだった人と、心がすれ違った時間。

それを取り戻せた手紙を、椎名さんは、気持ちのよりどころにしているのだろう。


「どんなに悪い方向に傾いても、頑張ればどうにかなると、
あいつは思っているのかもしれません。我が妹ながら、冠がつくくらい正直で、
まっすぐな性格なのです。でも、後藤さんの気持ちは、後藤さんのものだ。
事情はそれぞれにしかわからない。遥が必死になっても、
無理なものは無理なのだというのなら、そこは非情に接してくださって結構です」


彬さんは、黙っている僕に対して、小さく頷いた。



【13-2】

僕の『誇り』は、どこにあるのか。
歩は自らに問いかけながら、後ろを振り返り……
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