13 答えられない理由 【13-2】

【13-2】

『答えられない理由』



「あの……」

「はい」

「遥さんには、拓との縁談があるのだと聞きました」

「……拓?」

「あ……すみません。森中拓のことです。拓は僕の従兄弟なものですから」

「あぁ、拓君。はい、従兄弟……あぁ、そうですか」


従兄弟とは名ばかりで、置かれている環境はあまりにも違っている。

それでも無関係だとは言えない。


「縁談ねぇ……」

「はい」

「うちの両親は、いまだに遥が何も決められない娘だと、そう思っているのでしょう」


親同士が決めたこと。

会社の利益が関わるのだから、そういうこともあるのだろう。


「確かに、『MORINAKA』とのつながりは、うちにとって不可欠ですが……。
わかりました。僕の方から何気なく伝えましょう。
後藤さんに妙な期待をするなと……それでいいでしょうか」


『期待』


「……はい」


僕には何も出来ないのだから、期待などないのだとわかってもらうべきだろう。

犬のことを話したり、日々の生活の中でくだらない冗談を言い合うことは出来ても、

その先は……


「それでは……」

「あ、あの」

「はい」

「やはり僕が言います。無理せずに家に戻った方がいいことと、それと……」


『もういいよ』と言ってあげた方がいい。

たとえ、彼女の思うような言葉でなくても、他人から伝わるほど苦しいものはない。


「僕の本心を話します」


椎名さんには、椎名さんを評価してくれる場所が、用意されていて、

彼女を必要としている人もいる。


「わかりました。すみません長々と、お仕事の邪魔をして」

「いえ、すみません、僕の方こそ」


彬さんはもう一度丁寧に頭を下げ、工場の隅に止めてあった車に乗ると、

そのまま走り出した。僕はその車が見えなくなるまで立ち続ける。



『僕の本心を話します』



何も考えずに、彼女のことが好きなのかと聞かれたら、僕は頷くだろう。

相手が、拓でなければ、いや、『MORINAKA』でなければ、

どうにかして道を開こうと、彼女にそう告げたのだろうけれど。


「歩、お前、『橋爪酒店』の車、出来そうか」

「あ……はい」


『世界が違う』と、そう始めに宣言したのは僕のほうだ。

いい加減に、心も仕事に戻らなければ。



どこが悪いのかはほぼわかっている。

その部分に手を加えて、試してみれば済むことだ。

僕は怪しいと思う場所を絞り、異常な音を出した原因を突き止める。

『橋爪酒店』のエンジン音が、元に戻ることには、陽はすっかり落ちていた。





仕事を終えて、着替えも済ませた後、一度事務所に戻る。

奥さんは伝票にそれぞれ印を押し、肩が凝ったと言いながら回し始めた。


「歩、彬さんから聞いたのでしょ、遥ちゃんのこと」

「はい。足のことがあるから、実家に戻れと言ったのに、彼女が拒否したらしくて。
で、戻るように告げてくれないかと」

「歩に言ってくれってことなの?」


奥さんの問いかけに、僕はすぐそうだと言えなかった。

彬さんは『僕』にその役目を引き受けろと言ったけれど……


「歩……」

「はい」

「あれから、ちふみちゃんとは会っているの?」


僕は、奥さんからちふみという名前を出されて、

そういえばメールが来ていたことを思い出した。


「歩がさ、ちふみちゃんとまた付き合いだすのなら、それはそれでいいと思うよ。
あの子がいい子なことも、私はわかっているつもりだしね」


僕は前のように忘れてしまってはまずいと、中身を確認する。



『今度の日曜、映画でも行かない?』



ちふみなら、どんな付き合いになるのかも想像できるし、

今度は、前のような失敗はないだろうという思いもある。

でも……


「でも、もしもよ、もしもだけれど、
拓君とのことで遥ちゃんを諦めようとするのなら、私は反対だけどね」


奥さんはそういうと、棚に入れてあったアルバムを取り出し、ページを開いた。

そこには、小さな僕と亡くなった母が並んで撮った写真がある。


「これ……」

「これ、保育園の運動会で歩が1等賞獲った時の写真なのよ。
『くるまのおばちゃん』のところに見せに行くって、歩が言ったからって、
景子が連れてきてくれたの」



『くるまのおばちゃん』



そういえば、僕は小さい頃、ここに来ればいつも車があることを知っていて、

社長と奥さんのことを『くるまの……』と呼んでいた。


「あぁ、そういえば、そういう……」

「1等賞なの、誇らしげでしょって、その時に景子は言ってた。
一人っ子だから、競争心がつくかどうか心配だけれど、どんなことにぶつかっても、
常に全力で走れるような子になってほしいってさ……」



『常に全力で』



「ねぇ、歩」

「はい」

「8月の試験だけど、正直、あまり乗り気ではなかったでしょう」


奥さんの言葉に、僕は何も言えなかった。



【13-3】

僕の『誇り』は、どこにあるのか。
歩は自らに問いかけながら、後ろを振り返り……
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