13 答えられない理由 【13-5】

【13-5】

「いらなくなった『カラーボックス』を部屋から運ぼうとして、滑ってしまったらしい。
松葉杖で生活しているから」

「ふーん……」

「買い物も不自由だろうし、その姿で通勤電車に乗るのも大変だから、
家に戻った方がいいと思うんだけど……」



『私の思うように、させてください』



「彼女には、彼女の気持ちもあるみたいで……」


彬さんから聞いた、学生時代の話。

簡単に、人に助けを求められない性格。


「気になるんだ、歩」

「ん?」

「怪我をしている彼女が、今、どうしているのか、どんなふうにしているのか、
毎日気にしているってこと?」

「……ちふみ」

「その人を気にしているから、私の連絡にもすぐには返事してくれないってこと?」



『ほっといてください』



「ごめん……変な言い方して。歩の思いは、歩のものなのにね」


ちふみはそういうと、コーヒーを口に含んだ。

視線は僕から離れ、下を向いている。


「彼女、お嬢様なんでしょ」

「……うん」

「だったら、私より条件悪いじゃない」



『条件』



「もう、先に続かないような恋愛、するべきではないと思うけど……違う?」


先に続かない恋愛。

恋に恋する時期は、確かに過ぎたかもしれない。

夢や希望だけを、深夜まで語り合うような日々も、今はない。


「それでも、歩がその人を好きだと言うのなら、私にはどうすることも出来ないけど」


ちふみの言っていることはもっともだった。

そんなことはないよと笑えばいいのに、笑うことが出来ない。


「さて、行くね。仕事の邪魔をするのは悪いから」

「あぁ……うん」


ちふみはヘルメットを取り、飲みかけのカップを流しに運んだ。

スポンジを取り、素早く洗う。


「炊飯器も使えないお嬢様に、おばあちゃんの面倒は、見られないと思うけど……」


水の音と交じり合いながら、ちふみのつぶやきも、そのまま流れていった。





「歩、お疲れ」

「お疲れ様です」


その日の作業を終了し、シャワーを浴びると、着替えを取りに向かった。

ロッカーからシャツを出し、ジーンズを引っ張ると、

ポケットから携帯電話が滑り落ちる。

衝撃で画面が割れていないかと確認すると、メールの印を見つけ、

見たことのないアドレスがあり、僕は中を開いた。



『TEAです』



『TEA』さんからだった。

11月にアメリカへ一度戻るので、その前に会いましょうと書いてあり、

場所は『スレイド』を指定される。

『TEA』さんの都合がつく候補の日がいくつかあげられていた。

連絡をくれることを願っていたはずなのに、本当にもらえたことがどこか信じられず、

文面を何度も読み直す。

忙しい人なのだから、なるべく早めに会っておこうと思い、

僕は、一番先頭に上がっていた日付を選び、すぐに返信した。





それから3日後、僕は仕事を終えた後、『スレイド』へ向かった。

『TEA』さんと約束したその日は、本来なら定休日なのだが、

支配人さんの特別な計らいで、場所を提供してもらえることになった。

さすがに3度目なので、道にも迷わずに到着する。

教えてもらった携帯の番号を鳴らすと、中から扉を開けてくれる人がいた。


「こんばんは」

「すみません、ご迷惑をおかけして」

「いえいえ」


支配人の持田さんは、営業中に見せるスーツ姿ではなかった。

僕は頭を下げて中に入る。


「こんばんは」

「あ、すみません」


約束の時間よりも早く着いたのに、『TEA』さんはさらに僕よりも早かった。



【13-6】

僕の『誇り』は、どこにあるのか。
歩は自らに問いかけながら、後ろを振り返り……
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