14 覚悟の産物 【14-6】

【14-6】

「歩……」

「はい」

「前にも言ったわよね。うちの仕事のことを気にして、思い通りのことが出来ないのなら、
それは私たちにとって、迷惑な話だからねって」


拓のことがあって、工場の仕事のことがあって、

そして僕のこと、椎名さんのこと、全てがごちゃ混ぜになっていることを、

奥さんは気付いている。だからこういう言い方をするのだろう。


「何もかも考えずに、見てごらんとそう言ったでしょ」


抱えているものも全て取り払って、ただ一人の人として相手を見ること、

僕は黙ったまま下を向く。


「これからも……」


社長があらたな決意を表明しようとしたとき、工場の中に1台の車が滑り込んだ。

その車が、伯父のものだということがすぐにわかる。


「……うわぁ、来ましたよ社長。『MORINAKA』ですよ」


伯父が工場に来るとき、いつも止める場所で、エンジンが切られる。


「あたふたするんじゃないのよ、俊祐。こっちはもう気持ちを固めているって、
言ったのだから。ヤリでも鉄砲でも持ってこいって!」

「いや、それは……」


助手席から、伯父の秘書である延岡さんが降りてきた。

そして、後部座席の扉がゆっくりと開き、伯父が姿を見せる。


「社長……初心を思い出している場合ではないですよ。
これはうちの工場、潰されるかもしれないですよ」

「バカなことを言うな、俊祐」

「そうよ、それならそうしてみろって……あ、歩」


僕は誰よりも早く事務所から出ると、伯父の前に走った。

工場を潰されるのも、仕事を無くされるのも困る。

僕に対する拓の悪感情だけのために、色々な人に、迷惑をかけるわけにはいかない。


「待ってください、伯父さん、話があるんです」

「歩……」

「困るんです、こんなこと困ります。
今日の夜ではなく、今この場で話しをしてください」


僕は、どれほど『半田自動車整備』に世話になっただろう。

社長夫妻に子供のように接してもらい、栗丘さんに仕事を教えてもらった。

赤石さんのような、兄のような先輩と一緒に、毎日汗を流してきたのに。


「ここに来たのなら、これを持ってくれ」

「……は?」


伯父は手で、座席の横にあった箱を取ると、僕に手渡した。

どうみても、どこかのお店で買った、洋菓子のように見える。


「あの……」

「今日は、ふがいない息子を持った親として、社長に頭を下げに来た。
お前にも、相当な迷惑をかけているようだな」


伯父はそういうと、僕の肩を軽くポンポンと叩き、

そのまま事務所の方へ向かった。

ゆっくりと扉を開け、驚きで動けなくなっている工場の面々に、深々と頭を下げていく。

思いがけない展開に、社長は焦ってしまい、

奥さんも、そんなことは辞めて欲しいと伯父の姿勢を直そうとする。


「いえ、本当に私の育て方が間違っていたのだと、あらためて反省しております。
どうか、みなさんにご迷惑をおかけしたこと、あらためて謝罪させていただきたい」


伯父は、事務所に入る前の場所で、もう一度頭を下げた。


「哲治さん、謝罪だなんて、ちょっとやめてくださいよ」

「そうですよ、困ります」


とりあえず中に入ってほしいということになり、伯父は事務所の中に入った。

僕らが座る場所に立ち、昨日、社長夫婦が来た後、拓に事情を確認したと話してくれる。


「『MORINAKA』が『半田自動車整備』と契約を結んでいるのは、
縁があるからということではありません。私たちが毎日使う車ですから、
信頼の出来る工場に修理や点検を依頼するのは当たり前のことで、
それは価格競争の対象ではないと思っています。たとえ1割安い値段を提示されても、
それによって、10%の見逃しがあるようでは、命を守れませんので」


あのFAXも、それによって切り出された契約の話も、

全て拓の勝手な行動だった。

伯父は、失礼なことをしながら申し訳ないことだが、

今までどおり仕事をしていただけないかと、あらためて頭を下げてくる。


「いや……その……」

「よろしくお願いいたします」


社長は、奥さんの方を見た。

奥さんは、表情を崩すことなく黙っている。

社長は、返事をしてしまっていいのか、隣にいる奥さんを何度も見るが、

その口元がなかなか動かない。


「愛美、こうして社長が頭を下げて……」

「お断りします」


社長を始め、栗丘さんや赤石さんも、予想外の展開に、口をあけたままになった。

奥さんは、顔を上げた伯父と視線を合わせ、すみませんと頭を下げる。


「申し訳ありませんが、このままではなかったことには出来ません」

「半田さん」

「今回の出来事で、私たち社員も非常に傷つきました。
仕事を評価していただけていると信じていたのに、紙切れ1枚で、
これほどまで変わるのかと、情けなくもなりました」

「……おっしゃる通りです」


伯父も、本当に申し訳ないと口を結び、その場に立ち続ける。


「新しい契約書に、一文を入れていただけますか」

「一文」

「はい」

「何を、どう入れるのでしょうか」

「仕事での意見交換は、これからも必要だと思いますが、それ以外の出来事に対して、
この契約と絡めてしまうことは、絶対にやめていただきたいです」


奥さんは、拓がここへ来た時に、社員たちに対して横柄な態度を取ること、

提案をしても、勝手に用紙を破り捨てたりすることもあることなど、

この際だからと、全て語っていく。

社長はそこまで言わなくてもと、横でオロオロしているが、

伯父は黙って聞き続ける。


「特に、歩に対しての態度は、あらためていただきたいとそう思います。
歩は立派な技術者です。拓君が社会人として
『MORINAKA』の役職をこなしているのなら、歩だって、立派な仕事をしていますから」

「……はい」

「拓君と歩を同じように扱って欲しいと……そう思う私の気持ちを、
哲治さんは理解してくださいますよね」


僕に対する態度への不満を、言い切った奥さんの目は、いつの間にか潤んでいた。



【15-1】

小さな工場と、大きな企業。
笑顔の裏にある、哀しみの思い。歩は自らの心に、今何が必要なのかと問いかけて……
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コメント

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あースッキリ!

こんばんは^^

深夜、こちらにお邪魔するのが日課になっている撫子です^m^

奥さん、よくぞ言ってくださいました!
これで、いい夢が見られそうです^^

では、おやすみなさいzzz・・・

スッキリしたかな

なでしこちゃん、こんばんは

>深夜、こちらにお邪魔するのが日課になっている撫子です^m^

ありがとう。
ちょこちょこ更新で、日数を稼いでおります(笑)


>奥さん、よくぞ言ってくださいました!

そうだね、みなさんもやもやをスッキリさせてくれたかな。