15 思いのすべて 【15-1】

15 思いのすべて


【15-1】

『拓と僕が同じ』


拓の無礼を謝った伯父に対して、奥さんは迷いもなくそう言った。

住んでいる環境は違っても、そこに上下関係など存在しないと言いたいのだろうか。

長い間、僕達を見続けてくれた人の、覚悟を決めた言葉に、

誰もが意見を挟めなくなる。


「おっしゃるとおりです。何も言い返すことは出来ません。
拓はここには来させませんし、
もちろん、これからも『MORINAKA』の地位を利用するようならば、
会社の組織から外す覚悟もあります」

「いや、哲治さん、それはいくらなんでもやりすぎです」


社長は、話しが大きくなっているのではないかと、伯父にそう言った。

栗丘さんや赤石さんも、顔を見合わせる。


「いえ、拓にとっても、ここは大事な時期ですから」


拓が、横柄な態度を取るようになったのは、ここ2年くらいのことだ。

それまでも決して愛想のいい方ではなかったけれど、

今のように『力』を振りかざしたりはしなかった。


「伯父さん。あいつ……拓に何かあったのですか」


今までも、何度か聞こうと思ったことがあったが、僕自身も対立を深める気がして、

知ろうとしてこなかった。

伯父は、よくわからないと首を振る。


「近頃、忙しいことを理由にして、話もしていないからな。
少し、私が話しをしてみるよ。歩は気にしなくていい」


伯父の言葉に、奥さんは、あらためてよろしくお願いしますと頭を下げる。



僕達の『MORINAKA』の仕事は、これからも同じように続くことが決まった。



「よかったです。引き受けていただけて」


伯父は、奥さんが出したお茶を飲みながら、ほっとしたと少し口元をゆるめた。


「いえ、こちらこそ、色々と言ってしまって」

「そんなことはありません。今更ながら、拓には苦労をさせていなかったのだと、
夫婦で反省しています。何もわからないのに、力だけを与えてしまって、
未熟さゆえに、その使い方もわかっていない」

「哲治さん」


そばで話を聞いていた赤石さんが、これはチャンスだとばかりに、

拓がいつも上から目線だと発言し、奥さんに止められる。


「いや、いいんですよ。このさいですから言ってください。
このままでは社長の座を任せることも、無理かもしれませんから」


栗丘さんが、余計なことをまた言いそうだと、赤石さんのことを外へと引っ張り出し、

事務所の中から2人が減った。

僕はこの場に残るべきなのか迷ったが、出て行くタイミングも見つからない。


「歩……」

「はい」

「お前が昨日、電話をかけてきたのはこのことだろう」

「はい」

「自分が工場を辞めるから、仕事の話をどうにかしてくれ……とでも、
言うつもりだったのか」


社長と奥さんの視線が僕に向かった。

僕は、言い当てあられてしまったことで、何も言葉が出なくなる。


「歩……そんなこと」


奥さんは悲しそうな顔をしながら、そうつぶやいた。


「この子は、そういう子です。両親を事故で亡くしてからは、
我慢することばかり覚えてしまった。あの時、私が引き取っていればとも思いましたが、
それはまたそれで、気をつかわせたでしょう」


森中の家に世話になることなど、考えたことはない。

それこそ、今より気をつかわなければならなかったはずだ。


「遥さんは、歩のことを思っているそうだね」


伯父はそういうと、湯飲みに口をつけた。

椎名さんの名前が急に出たことで、僕はどう答えたらいいのか、わからなくなる。


「昨日の夜、私の方から椎名家に連絡をし、事情を聞いた。
遥さんは長い間寮生活をしていて、大学を卒業してからすぐ『椎名物流』に入ったので、
お付き合いをしている人もいないと聞いていたんだ。
拓が妹のようにかわいがっていたので、まぁ、それならと二人の将来を申し入れたが、
歩がそこにからんでいたとは知らなかったよ」

「哲治さん、歩と遥ちゃんは、『犬』を間にして、親しくなりました」

「犬? あぁ、椎名家に来た白い犬のことか」

「はい」

「歩が、道に捨てられていた犬を拾ってあげて、
その犬を気に入った遥ちゃんが、飼うことにしたんです」


伯父は奥さんから『パール』の話を聞き、納得するように頷いた。


「遥ちゃんはいい子ですから。社長さんのお嬢さんだなんて素振りは全く見せなくて、
この地域の運動会でも、精一杯歩の応援をしていましたし。
『TEA』さんのコンサートにも、二人で出かけたりして……」


僕と椎名さんがどういう日々を送っていたのかと、

今までのしかめっ面から表情を変えた奥さんは、堰を切ったように語りだす。


「『TEA』さん……」

「はい」

「あぁ……あの日、そうか、遥さんと……」


初めて二人で出かけた日、そういえば、僕を見て驚く伯父がいたことで、

思いを前に出すことは出来ないのだと痛感した日。


「お前は……どう思っている」


伯父の問いかけはさらに続いた。

僕の口は、今まで一度も言えなかったセリフを言おうとしたけれど、

そこで止まってしまう。


一度出してしまったら、二度と戻らない。


「歩。私を拓の親だと思わずに、
景子の……お前の母親の兄だと、そう思って言いなさい」


『母の兄』

そう、伯父は亡くなった母のお兄さんだった。


「お前が、何かを相談できるのは私だと、思っているのだから」


でも、僕の心の中では、いつも『MORINAKA』の社長であるという事実が、

大きく立ちはだかっている。


それでも……


「僕も……」


初めて見たときから、きっと、特別な感情があった。

白い肌に柔らかい笑顔。そして、誰とでも明るく話せる人柄に、

どれくらいときめく思いを持っただろう。


「……彼女が好きです」


周りの空気に押し出されるように、僕は椎名さんへの思いを口にした。



【15-2】

初めて見た時から、僕は君に惹かれていた。
思いを送り出した歩に、新しい風が吹き始める……
1日1回、読みましたの拍手、ランクぽちもお願いします(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


コメント

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きゃーーー!!
とうとう気持ちを表に出しましたね!
キュンキュンしちゃいました。
遥ちゃん、大好きです。
上手くいってくれるといいなー^^

やっと前進

ハンコックさん、こんばんは

>とうとう気持ちを表に出しましたね!
 キュンキュンしちゃいました。

はい。なかなか自分を出さない歩ですが、
周りの波の中で、口に出しました。
物語の1つの山なので、毎日更新中です。

歩と遥。
これからも見守ってやってください。