16 心の闇 【16-2】

【16-2】

「O型……」


以前、祖母の箪笥の中で見つけた、両親の事故の報告書。

『AB型』の父と『A型』の母の血液型を考えると、

『0型』の息子が産まれる可能性は……





あるのだろうか。





あの時も、ふとそんな疑問はわきあがった。

しかし、アルバムを見つけ、確かに両親がそばにいたことを確認し、

心の靄は払拭したはずだった。

僕は、もう一度アルバムを開き、

確かに両親に抱かれている、まだ生まれたての自分を確認する。

写真の隅に入っている年号を見ても、これは僕で間違いないはずだ。

その前をめくると、ベビーベッドの上で寝ている写真があった。

両親の写真とは着ている産着は違っているが、白いベビーベッドの上で眠っている。

そばには、同じように白いふわっとした上掛けが、かかっていた。


写真の日付は、誕生日の次の日。

両親が抱いてくれている写真の日付は、それから2週間が経過している。



『次の日』



結婚し、初めての子供が生まれた。

あの父ならば、すぐにでも病院へ飛んで来て、

緊張しながらも僕を抱きしめたのではないだろうか。

なぜ、その日の写真が存在しないのか、思うと不思議になってくる。



『歩、お前の番だぞ』

『歩、宿題したの?』



あの両親と僕との間に、何か知らない事実があるのだろうか。

手にした『献血手帳』、何度見ても、血液型は『O型』となっている。

まさかとは思うが、検査をする人が間違えたとか、そういう可能性はないだろうか。

取り違えたとか、入れ間違えたとか。

僕は、どう考えても答えの出ない中に迷い込み、ただ、ため息を落とすだけだった。





幼い頃の記憶など、途切れ途切れにしか残っていない。

でも、気付いたときから、目の前には父と母がいた。

それが自分の親ではないなど、考えたこともなかったし、

いや、あの日、報告書を見て、疑問に感じたときも、すぐに間違いだとそう思った。

自分の血液型を『0型』だと勘違いしているのだと、疑うこともなかった。

しかし、落ち着いて考えてみれば、献血するときの手帳表示に、

間違いがあるとは思えない。

祖母の血液型も『AB』だった。父が『AB』でもおかしくはない。

だとすると、僕は……


「おい! お前、いつまで止まっているんだ」


大きなクラクションが鳴らされ、後ろにいた車の窓が開き、

怒り全開のおじさんから、怒鳴られた。

僕はすみませんと頭を下げ、工場に向かう道を走る。

事故など起こしたら大変だ。

僕は気持ちを切り替えて、前だけを見ることに集中した。





その日の仕事は、特に慌しいこともなかったので、定時に工場を出た。

東京の大きな駅では、移動車ではなく、献血センターがあるため、

僕はそこへ向かうことにする。

一度広がった不安感は、『100%』の確信がなければ、

何をしていてもどうしても切り替われない。

電車に揺られながらも、ただ、祈る思いだけを持ち続ける。

祖母には、寄りたい場所があるからと話しをしておいた。

僕は駅を下り、まっすぐに献血センターを目指す。

勤めを終えたサラリーマンや、休憩所代わりにしているのか、

本を読む学生などがいたが、順番はすぐに回ってきた。


「血液型は……」

「すみません、わからないのですが。献血すれば調べていただけますか」

「あ、わかりました」


備え付けのベッドに横になり、献血の針が腕に入った。

他のことなどどうでもよかった。ただ、一つだけ『O型』ではないということだけを、

願いながら、天井を見続ける。



でも……



始めの頃は、願う思いが強かったが、時間が経つにつれ、

すでに道は出来ていて、その上を歩かされているような気持ちになってくる。


「後藤さん」

「はい」

「お疲れ様です、終了です」

「はい」


僕はゆっくりとベッドから起きると、休憩所へ向かい、声がかかるのを待つ。

時間つぶしにする雑誌があったが、何も見る気持ちにはならない。


「後藤さん」

「はい」


新しい『献血手帳』。


「血液型は『O型』ですね」

「……そうですか」


結果は、やはり『O型』だった。

もっと強いショックを受けるかと思っていたが、どこかで覚悟していたのか、

それとも、『ショック』を感じられないほど、気持ちが壊れてしまったのか、

特に鼓動が速くなることも、涙が出ることもなく、献血センターを出る。


幼い頃のことを、親に聞いたことがないかと問いかけてくれた奥さんや、

『普通の子』だとしか、話そうとしない祖母は、何かを知っているということだろうか。


考えてもいなかった現実を、どう受け止め、どう処理していいのかが全くわからないまま、

僕はただ、歩き続ける。

気付くと、見たこともないビルの前に立っていて、

そこからどこへ向かえば駅になるのかさえ、わからなくなっていた。



【16-3】

『真実』の前に、ひとりたたずむ歩。
追うべきか、そらすべきかと考えてみるが……
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