16 心の闇 【16-4】

【16-4】

「わかりました。受け入れてやりましょう」

「ありがとう、俊祐」

「はい」


奥さんはすっかり上機嫌の赤石さんをさらに褒め称えると、

机の上に、実習生の写真を置いた。


「こいつですか」

「そう、生田寛一(かんいち)君」

「寛一……へぇ、長男ですか」

「ううん、次男だって」

「なんだそれ」


『生田寛一』

髪の毛は明るめの茶髪、顔もなかなか整っている。

まるでどこかのファッション雑誌から飛び出てきそうな実習生が、

『半田自動車整備』に来ることが決まった。





栗丘さんはいつもの通り仕事をしていたが、

赤石さんは、自分が先生役を引き受けると言い出し、

使っていなかったロッカーの荷物を出していく。


「ちょっと、ちょっとみなさん。この薄汚れているような服や雑誌は、
一体、誰のですか」

「は?」

「ロッカーですよ。実習生が来るわけですから、空けないとまずいでしょう」


僕と栗丘さんは作業を止め、赤石さんが立つロッカーの場所へ向かう。


「これですよ、これ」

「これ?」

「そうです。ロッカーは残り1つですから、空けてやらないと」

「みんなお前のだろうが、俊祐」

「は? あれ?」

「僕のではありません」

「あれ? 俺ですか」

「そうだよ。ここに歩が来ることになって、お前がとりあえずって、
使わないロッカーに押し込んだんだろうが。見てみろ、何年の雑誌だ」

「……あ」


栗丘さんは、ばかばかしいと仕事に戻り、

赤石さんはそうだったかと、紐を出し束ね始める。



『血液型相性特集』



赤石さんが一番上にした雑誌の記事。



『後藤歩 O型』



僕の血液型は、間違いなく『O型』だった。


「歩……」

「はい」

「立っているのなら、手伝ってくれよ」

「あ、はい」


僕は、赤石さんが苦手だという雑誌の束ねを手伝い、それから仕事へ戻った。





「へぇ……実習生ですか」

「うん。生田寛一君。社長の昔からの知り合いが、教えている学生らしい」

「学生」

「いきなり実家に戻って仕事をすると、きっと甘えるだろうって」

「あぁ……」


仕事を終えた椎名さんが工場に『パール』を迎えにやってきた。

僕はホームページの問い合わせに答えながら、実習生の話をする。


「うちでも父がそう言って、よく愚痴ります」

「愚痴?」

「はい。兄も私も大学を終えて、すぐに会社へ入ったからですけれど。
何でも言いたいことを言ってくるって、ブツブツ言いますよ。
もう少し他で苦労させておけばよかった……とか」

「ふーん」

「私からしたら、自分の言うことをきかないから、
腹を立てているようにしか思えませんけれど」


言いたいことが言えるのも、遠慮なくケンカできるのも、親子だからだろう。

血のつながりがあり、自分を受け止めてくれるとわかっているからこそ、

関係を崩しても、また修復できる。


「あ……それ」

「ん?」

「一度打ち込んだら、ここでこうしてください」


椎名さんの白い手が、マウスをつかむ僕の手に触れた。

そのままの動きに任せて、クリックする。


「あ……すみません。私、勝手に……」

「いえ……」


偶然、触れた……

その現実に急に気付いた僕達は、互いに下を向いてしまう。

ここは何か話さないと、なんだか空気が重い。


「あの……」

「ちわっす」


いきなり事務所の扉が開き、ヘルメット姿の男が頭を下げた。



【16-5】

『真実』の前に、ひとりたたずむ歩。
追うべきか、そらすべきかと考えてみるが……
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