16 心の闇 【16-6】

【16-6】

事務所にいた時には、生田君が来たおかげで、頭が別の方を向いていたけれど、

いざ、部屋に戻ってみると、また晴れない靄が広がり始める。

以前、見つけた『アルバム』を開き、間違いなく重ねられてきた日々を、

たどるように見ていった。



『母が父ではない男性と恋をした』



このパターンであれば、父や祖母が僕をかわいがることはないだろう。



『僕の親は、全く別』



この考えの方が、しっくりくる。

しかし……


「歩、出来たよ」

「うん」


食事の支度が出来たと、祖母から声をかけられ、僕は部屋を出る。

部屋の隅には、数日後に向かう旅行用のバッグが置いてあった。


「持っていくものとか、何か買わなくていいの?」

「大丈夫だよ。あるもので出かけるからさ」


少し早めとも思える準備は、気の合う人たちと出かける日を、

楽しみにしているのだろうとそう思う。


「洋服の1枚くらい買ってやるからさ、あるもので行くなんて言うなよ。
ばあちゃん、普段贅沢なんてしないんだし。ほら、駅前の『ブティックリリアン』
あそこなら何かあるんじゃないの?」


祖母が行く『憩いの和』。

その店のおばあさんも、確か参加していたはず。


「いいんだよ。そういうことに気をつかわなくていいって言うからさ、
行く気持ちにもなったのだし。着飾って行くくらいなら面倒だし、行かないよ」


祖母は、僕と暮らす前から、長い間駅前にある青果店で働いていた。

あまり洒落た服を着た姿など、そういえば見たことがない。

祖父は、僕が小学校に上がる前に亡くなってしまった。

今、生きていてくれたら、二人で電車に揺られる旅にでも、行けただろうに。


「あら、なんだか今日のご飯は、少し固いかな」


自由になるべき時間を、祖母は僕を育てるために使ってきた。

もし、僕が父と母の子供ではないのなら、本当にこの生活を望んでくれたのだろうか。


聞くべきではないと思えるけれど、

それでも、このまま晴れない闇を抱えているのも辛い。


「歩、取り皿を持っていって」

「……うん」


祖母は何もかもを知って、僕を育ててくれたのか、

それとも、知らない部分を晴らす方法もなく、育ててくれたのか。


「なぁ、ばあちゃん」

「なんだね」

「亡くなった父さんの血液型って、『AB』なんだろ」


我慢できなかった。申し訳なさと、祖母への愛情が交差して、

黙って知らないふりをすることが出来なかった。


「……さぁ」


祖母は、茶碗にご飯をよそいながら、そう言った。

事故の報告書に書かれていたのは、『AB』。

警察の調べだ、ウソは書かないだろう。


「さぁ……って」

「なんだね急に。どうしてそんなことを聞くのかね」

「僕の血液型が、『O型』だから」


そう、ありえないものが、目の前に現れたから。


「……知らないよ、克信の血液型なんて、ばぁちゃんは」

「知らない? でも、事故の報告書に書いてあったんだ、
父さんの血液型が『AB』だって。ばぁちゃんの血液も『AB』だろ」

「知らない」

「ばぁちゃん」

「何も知らないから、何度聞かれても知らないものは知らない。
そんなことを言っていないで、ご飯を食べなさい」


理路整然とごまかすことが出来ないのだろう。

僕はこれ以上、祖母に聞くべきことではないのだと痛感した。

寂しそうに震えるような声を出すことが、全てを語っていて、

結論など、聞かなくてもわかる。



『僕の親は、本当の親ではない』



祖母は、全てを知っていて、何も言えないのだから。


「ごめん、妙なことを聞いて」

「そうだよ、早く食べよう」

「うん……」


中学2年で両親を亡くし、祖母に育てられてきた。

それは、血のつながりがあるからだと、当たり前のように受け入れてきたが、

もし、それがないのだとしたら……


「いただきます」



僕は……





このままここにいて、いいのだろうか。



【17-1】

『真実』の前に、ひとりたたずむ歩。
追うべきか、そらすべきかと考えてみるが……
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