17 心のつながり 【17-1】

17 心のつながり


【17-1】

そこからは、何事もなかったかのように振るまい、日々を重ねた。

今更、時間が戻るわけでもないし、祖母も聞きたくないと話をそらすのだから、

知らないふりをして生きていくのが正しいのかもしれない。

それでも、どうしてこうなっているのか、なぜ、こうなったのか、

誰かに話を聞けなければ、自分の心がバラバラになりそうだった。

甘えと情の境目はどこなのか、いつまで僕はこの生活を続けていけるのか、

正しいか正しくないかではなくて、誰かに方向性を指し示して欲しい。

祖母に聞けないとなると、事情を知っていそうな人は、あと……


「おい、歩!」

「……はい」

「はいじゃない、お前、何をしているんだ」

「……あ」


まずい。

予定外の部分まで削るところだ。

僕は慌てて電源を切り、工具を下に置く。


「すみません」

「すみませんじゃないぞ、お前」

「はい」


塗装前の微妙な仕事だったのに、いつの間にか頭の中が別の思いに支配されていた。

栗丘さんに声をかけられなければ、大事な部品を無駄にするところだった。


「暑さでボーッとするような日じゃないだろう、しっかりしろ!」

「はい」


集中しようとしているのに、気持ちがついてこない。

こうして日々を重ねていていいものなのかどうか、自信がなくなってくる。

『努力』をすること。

それを椎名さんのお父さんと約束した。

彼女のお父さんが、『努力』で上がってきた人だから、だから許されたのに。


「少し、走ってきていいですか」

「……いいけれど、どうしたんだ」

「いえ、ちょっと。気分を変えてきます」


僕は先輩二人に頭を下げ、そのまま道に出る。

あてもないし、距離も決めていないけれど、今、どんな仕事をしても、

また集中力が途切れそうな気がしてしまう。


この広がっていく心の闇を取り払うには、事実を知るべきなのだろうが、

事実を知ったとき、僕は今と同じことが出来るのだろうか。



『後藤歩』



この名前を、名乗り続けることが、出来るのだろうか。


「はぁ……はぁ……」


いないことはわかっているのに、気付くと椎名さんのマンションに来ていた。

カーテンの閉まっている3階。

彼女は、今日も仕事を頑張っているだろう。

血液型が違っていたこと、亡くなった両親と血のつながりがないかもしれないこと、

彼女に話せば、真剣に聞いてくれると思う。

でも……



そんな話を聞かせて、また、辛い思いをさせる。

僕は、彼女にそんなことしか出来ないのかと思うと、悔しくなった。



『努力をすること』



宙に浮いた決意は、逆に僕の頭を締め付けていく。



どうして、父の血液型は『AB』なのだろう。

他のどの血液型でも、『O型』の子供が産まれる可能性があるはずだ。

そうすれば、こんな疑問を持つことなく、僕は時を信じることが出来た。

優しかった母と、強かった父を尊敬し、歩み続けることが出来たのに。


「……どうしてなんだ」


マンション前の段差に、ずっしりと重たい腰を下ろす。

重力という逆らえない強さに、心ごと引っ張っていかれそうなほど、体がだるい。



『僕は誰で、どうしてここにいるのか』



誰にも語ることが出来ない思いは、何度ため息をついても、

僕の心を出ることはなく、ただ、時間だけが過ぎていった。





町内を1週まわって工場に戻ると、奥さんが母屋から走ってきた。

体の調子でも悪いのか、熱でもあるのかと心配する。


「すみません、大丈夫です。何でもありません」

「何でもないって歩、栗丘さんに聞いたら、突然走ってくるって言って、
工場を出て行ったというから……」

「本当に大丈夫なのか。お前らしくないミスだったから」

「はい」

「ねぇ、遥ちゃんのこととか、また反対された?」

「いえ……」


なぜ、心が乱れたのか、それは今ここで説明できない。

僕は、ただすみませんと頭を下げた。



【17-2】

過去と向き合おうとする歩。
そして、また新しい風が吹き始め……
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