17 心のつながり 【17-2】

【17-2】

「歩……」

「すみません本当に何でもないんです。
なんだかこう、やる気が空回りしたのかもしれません」

「やる気の空回り?」

「はい」


今の答えが正しいのかどうかわからないけれど、ここはなんとかごまかさないと。


「あ、わかった」

「わかった? 何がわかったのよ俊祐」

「あいつですよ、あいつ。歩、お前、実習生の存在におびえているな」


赤石さんは、実習生が来ることがプレッシャーになっているのではないかと、

勝手な想像を膨らませた。そんなつもりはないけれど、

ここはその想像にありがたく付き合うことにして、頷いておく。


「やだ、そうなの、歩」

「だろ、そうだろ。歩はそうなると思っていたよ」

「すみません」

「どうしてよ。歩がプレッシャーを感じることなんてないでしょう。
きちんと仕事も出来ているのだし、別に競っているわけではないのだから」


奥さんは、向こうはあくまでも勉強に来るのだと、そこを強調した。

僕はそうですねと頷き、祖母が持たせてくれた弁当を広げていく。


「いやぁ……奥さん。男って言うのはそういうものですよ。
負けたくないから、あれこれ考えるのです」

「何が男よ、全く」


野菜炒めと、少し甘めの玉子焼き。

昨日、気まずい雰囲気を作ったのに、祖母の弁当は、いつもと変わらない。

その味を感じ、心を落ち着かせていく。



『僕は、どこかの橋の下にでも落ちていて、両親が拾ってくれた』



そう考えてしまえば、それでいい……



けれど……



当たり前だが、そんな感情は持つことが出来ない。

あまりにも納得できない自分の頭に、箸まで止まってしまった。



『……知らないよ、克信の血液型なんて、ばぁちゃんは』



その日の僕は、何度も気持ちを立て直しながら、仕事をし続けた。





『評判を聞きました。12月で空いている日はありますか』


ホームページから得た仕事で、少しずつ予定が埋まっていく。

今日の処理が全て終了したことを確認すると、僕は左端のボタンを押しネットにつなげ、

『血液型』の検索をするために、マウスを動かしてみる。


「こんばんは」

「あ……」


椎名さんが事務所に現れたので、ネットを切ろうとしたが、

慌ててボタンを押し間違えてしまい、開かないはずのページが開いてしまう。

何をしているのかと思ったのだろう。椎名さんはすぐに画面を覗き込んでくる。


「血液型? 何か調べるのですか」

「あ、うん」


すると、彼女の声に気付き、奥から『パール』が走ってきた。

椎名さんは大歓迎を受け入れ、何度もなでてやる。


「後藤さん、私『A型』です」

「ん?」

「血液型占いでしょ」

「あ……まぁ、そんなところかな」


適当にごまかし、開いたページを閉じる。

椎名さんは、椎名家は家族全員が『A型』だけれど、性格は全然違っているのだと、

話し始めた。


「うちの父は祖父も祖母も『A』なんです。でも母方の祖母は『0』で。
だから二人は同じ『A』でも、要素が違っているはずなのです」


椎名さんは落ち着きを取り戻した『パール』に命令し、きちんと座らせた。

小さな犬用のビスケットを取り出し、それを食べさせる。


「でも、本を見るときはどちらも『A』でしょ?
だから私は、血液型占いをあまり信じません。だって、4つしかないのですよ。
それで決まってしまったら、世の中単純すぎませんか?」

「まぁ、そうだよね」


知りたかったのは、その部分ではないのだけれど、

そこでまたネットを開くことは出来ずに、結局、僕は仕事を終了した。





「ただいま」

「お帰り」


テーブルの前に座る祖母は、何やら縫い物をしているようだった。

肩が凝るのだと言いながら、老眼のメガネを動かしては首を回す。



『知らない』



祖母は事実を知っているのだろうが、きっと話してはくれないだろう。

ここでまた、語らせようとしたら、それこそ『今』など維持できなくなる。


「腹減った。食べよう」

「うん」


僕は、何も聞くまいと思いながら、その日も食事を済ませた。





『AB型』と『O型』

誰に聞けば、真実を話してくれるのだろう。

次の日も、時々、どこかに飛びそうになる意識を慌てて戻し、なんとか仕事を続ける。


「よし、昼にしよう」

「はい」


事務所に戻り、席に座ろうとしたとき、奥さんから手招きをされた。

僕が自分を指でさすと、奥さんは無言で何度か頷いた。



【17-3】

過去と向き合おうとする歩。
そして、また新しい風が吹き始め……
1日1回、読みましたの拍手、ランクぽちもお願いします(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


コメント

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ほぼ

拍手コメントさん、こんばんは

>毎日、歩に頑張って欲しいと思いながら、楽しみにしています。

ありがとうございます。
歩の前に見えてきた過去。そして現在と未来。
これからも応援してやってください。

ちなみに、年末年始もほぼ平常営業(笑)だと思います。
お暇な時間に、1話ずつでも、まとめてでも、おつきあいください。