17 心のつながり 【17-3】

【17-3】

「いいわよ座って、食べながら話そう」

「はい」


母屋に呼ばれて、僕は奥さんと向かい合って昼食を取ることになった。

お茶を入れてくれた奥さんは、目の前に座る。


「歩」

「はい」

「どうしたの。何かあった?」


奥さんは、この間の失敗がどうしても気になるらしく、僕にそう尋ねてくれた。


「俊祐は実習生が来ることのプレッシャーだなんてごまかしたけれど、
それは歩らしくないもの、他に理由があるのでしょ」


奥さんは、僕を小さい頃から知っている。

適当な理由では、納得してくれないのも当たり前だった。


「それだけじゃないわよ。昨日も今日も、いつもの歩らしくないもの。
訂正書類、見ておいてって話したのに、サインなかったし……」

「あ……すみません」


僕は、昨日、仕事終わりに確認して欲しいと言われた書類のことを思い出した。

確かに、椎名さんが来て、『血液型』の話しになって、忘れていた。


「ねぇ、何か心配事があるのなら、話してくれない?」


心配事。

そういわれて、僕はすぐに言えず黙ってしまった。


「遥ちゃんのことで、何か言われたの?」

「いえ、違います」

「だったら……りつさんでもまた具合が悪いとか?」

「いえ……」


祖母のことを言われて、ふと考えた。

奥さんは母と親しかったはずで、

そういえば以前、子供の頃のことを聞いたかと、尋ねられたことがある。


「あの……」

「何?」

「だったら、答えていただけますか」

「答え? 私が」

「はい。祖母に聞いたのですが、『知らない』と突っぱねられました。
知っているから、知らないとしか言えないのだと思うと、それ以上は強く出られなくて」

「……うん」


どういう気持ちの結論を持つことになるのか、それはわからない。

でも、今のように払いきれない靄の中に一人、おきざりになるのは嫌だ。


「祖母が入院したとき、病院に持って行く洋服を探していて、
箪笥の奥に事故の報告書を見つけました。データを見ると、
亡くなった父の血液型は『AB』でした。母は『A』。
だとしたら、子供の血液は『A』か『B』か『AB』。でも、僕は……『O』なのです」


4つのうち、唯一可能性のない血液型を持ってしまった。

ごまかそうにも、ごまかしきれない。


「僕は……後藤克信と、後藤景子の息子ではないということですよね」


『親』として生きてきた二人と、僕のつながりはない。

信じたくないけれど、それが真実。


「以前、僕に聞きましたよね。子供の頃の話など、されていないのかって。
それは奥さんがこの事実を知っているから、そう話したと言うことではないですか」


あの事故で、両親が亡くなることがなければ、いずれ、真実を語ってくれたのだろうか。

なぜ、二人の息子として育てているのか、どうして産みの親は離れたのか。


「教えてください……知ってしまったんです。隠されても、ごまかされても、
僕の気持ちは晴れません。なんとか割り切ろうとしましたが、割り切れるものでもないし、
このままだと、どこかでまた失敗するかもしれないと思うと、
仕事に集中出来ません。全てを知る権利は、僕にあるはずです」


何も知らないのなら、奥さんは驚き、何を言っているのかと、怒っただろう。

こうして黙ったまま、真剣な顔をしていることが、ウソではない事実なのだと、

間接的に迫ってくる。

そうなってほしくはなかった事実が、目の前まで僕に押し寄せてくる。

逃げたくて仕方がないけれど、逃げてもきっと、めぐりめぐってくるだろう。

『知りたい』と思う気持ちがわきあがった以上、知らなければ靄は晴れない。

黙ったままの時間が、どれくらい過ぎたのか。

ほんの数秒かもしれないし、数分かもしれない。

流れているはずの空気も止まり、僕の感情もストップした。


「歩はいくつだっけ」

「僕はもうじき27です」


クリスマスの少し前、僕は27歳になる。


「少し、待っていて」


奥さんはそう言って席を立つと、事務所の方へ消えていった。

食べかけの弁当と、飲みかけのお茶。

これから何を語られるのか、鼓動だけが速まり、ドンドンと強い音を立てる。


10分ほど待っただろうか。

奥さんと一緒に入ってきたのは、社長だった。


「待たせてごめんね、歩」

「はい」

「今、りつさんに電話をしてきたの」

「ばぁちゃんに……ですか」

「うん」


社長は、ポケットから写真を取り出し、僕の前に置いてくれる。

それは父が僕を家の車のボンネットに乗せ、楽しそうに笑っている写真だった。

背景から考えると、おそらくこの場所は、『半田自動車整備』だろう。


「歩ももう大人だから、そう思って話をするね」

「はい」

「私たちは、亡くなった二人の血液型を知っているわけではないけれど、
確かに、報告書に書いてあるのなら、克信さんは『AB』で景子は『A』なのだと思う」

「……はい」

「私が知っているのは……」


知っていること。

今まで、語られなかった事実。



「二人は、歩の産みの親ではないということ」



やはりそうだった。

僕は、あの二人の息子ではなかった。



【17-4】

過去と向き合おうとする歩。
そして、また新しい風が吹き始め……
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