18 分かち合い 【18-1】

18 分かち合い


【18-1】

「よし、昼です」


生田は弁当箱を出すと、目の前で広げていく。

一人暮らしだと言っていたので、どこかから買ってきたのだろうと思っていたが、

どうも手作りに見えた。


「あら、生田君。ずいぶんしっかりしたお弁当じゃないの。
誰かに作ってもらったの?」

「いえ、自分です」

「自分?」


奥さんが驚くのも無理はない。

肉を焼いただけとか、焼き魚を詰めただけではなく、それなりの加工をしたおかずが、

色合いも見事に配置されている。


「ほぉ……生田は料理が得意なのか」

「料理も……ですね。俺、結構手先が器用なんですよ。料理って簡単でしょう。
ベースさえしっかりわかっていたら、アレンジ、ガンガンききますし」


僕は、通勤前に購入したサンドイッチのシールをはがしながら、

生田の話は適当に聞き続ける。


「あはは……簡単かぁ。遥ちゃんに聞かせてやりたいね」


生田の気持ちなど何も知らない赤石さんが、椎名さんの名前を出した。

ここでしなくてもと思うが、知らないのだから仕方がない。


「遥ちゃん? あぁ、あのかわいい人」

「そう、あの子はとんでもない料理音痴でさ、炊飯器をマスターするのに、
10日くらいかかったんだよ。天ぷらをすれば油で手を怪我するし……」

「へぇ……」


生田の視線が、僕の方に向いた。


「料理、ダメなんですか、彼女」


生田は、僕にそう問いかけてきたが、そうなんだと返事をしたのは、

後ろにいた赤石さんだった。


「いいですね、ますます……」


生田の言葉に、赤石さんも、不思議そうな顔をする。


「いい? 何がいいんだよ」

「料理なんて出来なくてもいいってことですよ。
狭くるしい台所になんて、立たなくてもいいです。料理なら俺やります」

「は?」

「彼女にそんなことを求めてはダメですって。
朝、ベッドの隣で眠っていて、『おはよう』なんて言ってくれるだけで、
幸せじゃないですか」



『ベッドの隣』



生田はそういうと、トマトで煮込んだ肉を、口に入れる。


「いやいや、全く男は、そういうことを平気で口にするのに、
本当は料理が出来ないとってなるのよね」


奥さんは、封筒をはさみで開けながら、生田に勝手な想像をするなと、

釘を刺す。


「女の底力を知らないな」

「底力……ですか」

「そうよ。この人……と思う人が出来たら、
苦手なものもチャンレジ出来るようになるし、怪我をするのも怖くないの」


そういえば、椎名さんは以前、簡単に出来るおかずの本や、

お菓子の本を買っていたけれど、あれから、チャレンジ、出来ているのだろうか。


「生田君。料理が出来る男もいいけれど、やはり男は仕事が出来ないとダメなのよ。
『恋』ならば、目を瞑ることが出来ても、『愛』は経済力がないと、続かないの」

「ガーン……経済力ですか」

「そうよ、女の幸せは、男の努力次第なところもあるでしょ」


奥さんは、伝票を束ね、ホチキスで止めては箱の中に納めていく。


「仕事か……なんだかいきなりつまらない話になりましたね」


栗丘さんは、お前はここに何をしに来ているんだと、

読み終えた新聞で生田の頭を叩く。

生田はしぶしぶ『わかりました』と返事をし、自慢の弁当を全て食べ終えた。





僕も遅れて昼食を食べ終えると、少し運動でもしようかと、

『パール』を連れて、散歩に出ることにした。

工場から5分ほど歩くと、大きな駐車場がある。

『パール』はそこをジグザグに歩くと、時々道の草をもぐもぐ食べる。

ある程度まとめて口にすると、それを吐き出してしまうのだ。

胃のむかつきなどを整えるための行動らしい。



『私も驚いて、すぐに病院へ連れて行ってしまいました』



椎名さんが子供の頃に飼っていた犬は、小型のお座敷犬だったため、

こういった行動はしなかったらしい。



『胃薬のようなものだと……』



僕も確かに、初めて散歩で見たときには驚いたが、話を聞き納得した。

『パール』は気分がよくなったのか、どこかの野良猫を草の奥に見つけ、

飛びかかろうとする。


「ほら、『パール』。ダメだって、行くぞ」


リードを軽く引っ張ると、あいつはすぐにかけてきた。

犬の中には、やたらに人と会うと吼えまくるものもいるけれど、

『パール』は誰かと一緒ならば、あまり威嚇をしない。


「お前には、兄弟がいたのかな」


あのダンボールには、最初から『パール』だけが入っていたのだろうか。

それとも何匹か入っていて、誰かに拾われたのだろうか。

父親はどんな犬で、母親はどんな犬なのだろう。

『パール』は自分の過去を気にすることもなく、

目の前にあるものだけを追い続けている。

僕が、生きている世界が違うと椎名さんに言ったときも、

確かそんなことを語っていたっけ。

考えてみたら、犬と僕を一緒にするなという気はするけれど。


そんなあれこれを考えながら歩いていると、

前から同じようにリードを持った女性が近付いてきた。



【18-2】

会えなくなったから、思い出は綺麗なのだろうか。
時間を振り返りながら、歩は今を歩き出す。
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