18 分かち合い 【18-5】

【18-5】

「うわぁ……今朝は寒いですよ」

「そうだな。これだけ寒いとエンジントラブルも起きやすいから。
飛び込みもあるかもしれないぞ」

「はい」


いつものように準備運動を済ませ、それぞれが今日のスケジュールをボードで確認する。

納車予定の中に『MORINAKA』の文字があり、拓のことを考えた。

遥さんとの距離が近付くたび、心のどこかで拓のことを気にしている。

仕事はしているだろうが、伯父がきっと、ここへ来させないのだろう。


「歩」

「……あ、はい」

「俺とお前はAラインな」

「はい」

「しっかり頼むぞ」

「はい」


修理箇所を記入した用紙とボードを受け取り、僕はその日の作業を開始した。

一度点検した箇所を、今度は別の人間がなぞるように見ていく。

印の上にチェックを重ね、見落としや間違いのないように一つずつ潰した。


「オイルの汚れはどうだ」

「変えておいたほうがいい気もしますが、確認後にしましょう」

「そうだな」


声を掛け合い、誤解のないように作業を進め、そして作業は完了した。





「それじゃ、お先に失礼します」

「お疲れ様でした」


栗丘さんと赤石さんは揃って駐車場の方へ歩いていく。

作業を終了した車が並ぶ中に、『MORINAKA』の黒い営業車が置いてあった。

担当者のところに、赤石さんの印が押されている。

明日、向こうから取りに来ることになっているらしいが、

おそらく拓が来ることはないだろう。



『目障りなんだよ』



僕の存在自体が、目障りだと言っていた。

椎名さんと僕が付き合い始めたことを知ったはずのあいつは今、

何を考えているのだろうか。

幸せの時間が、少しずつ増えているのに、心の一部分だけは歩みを止めているような、

複雑な思いがした。


僕は、事務所の扉を開け、ホームページをチェックするためにPC前に座る。


「……っと、また間違えた」


目の前の机には生田が座り、毎度、毎度のレポートを続けていた。



『別に……夢も希望も、何もないですから』



この間、生田は確かにそう言った。

その後、遥さんに責められることになり、少しずつ仕事に前向きな態度を見せている。

生田は、整備士としての勘もいい。

ここのところの仕事振りを見ていたら、

もう少し互いに話してみるべきではないかと、思えてくる。

僕は、PCの横にあるカーテンをしめた。

キャリアも年齢も、一番近いのは僕なのだから、ここはこちらから歩み寄らないと。


「なぁ、生田」

「なんですか」

「お前、小さい頃、色々なものを分解して、親に怒られたことはないか?」


生田は動かしていた手を止めて、僕の方を見た。

唐突に何を聞くのだろうと思っているだろうか。


「僕はよく怒られた。買ってもらったおもちゃを、しばらくするとひっくり返して、
電池のケースを開けたくて、父親の工具入れから何やら引っ張り出しては、
結局壊したりして」


そう、急に蘇ってきた記憶は、おもちゃを大事にしないと怒る母と、

それを笑ってみていた父。


「最初は悪いことをした僕を怒っていたのに、
いつの間にか母は、工具を手の届くところに置く父が悪いと怒り出して……」


父親としては、男の子らしい遊びだとでも思っていたのだろう。

分解をして怒られた記憶はない。


「お前、手先が器用だからさ。
料理も出来るけれど、美術とか、そういった科目の成績もよかったのかなって。
もしかしたら、同じようなことをしていなかったかなと思ってみたり」


生意気なところはあるけれど、整備士としての素質は間違いなくあるだろう。

細かいところをいじるには、器用さは大きなポイントになる。


「覚えてませんね、昔のことなんて」

「……そう……か」

「はい。怒られたことは怒られましたよ。俺は兄貴よりも勉強が出来なかったし、
親の言うことも聞かずに、遊んでばかりいましたから」


生田は、整備士の学校に通ったのも、東京に出てきたかったからだとそう言った。


「家が整備工場ですからね。学校の授業でも、なんとなく聞いたことがあるような、
見たことがあるようなことが多くて、新鮮さもないし。まぁ、俺、
正直、卒業も就職もどうでもいいんですよ。
普通なら、何年も居残っていたら呆れるでしょうけれど、
他に継がせる人間がいないから、親も意地で金を出しているし」


生田は両手を頭の後ろに組み、天井を見ているように思えた。



【18-6】

会えなくなったから、思い出は綺麗なのだろうか。
時間を振り返りながら、歩は今を歩き出す。
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