19 親子の絆 【19-3】

【19-3】

「こんなところで何しているんだよ、戻れって」

「……帰りましたか、母親」

「まだいらっしゃるよ、お前が駅まで送ってあげたらいい」

「……いいっすよ、タクシーでも乗って帰れば」


僕は入り口側になる壁にもたれかかり、生田を見る。

本当に母親が嫌なのなら、ここでふてくされている必要などない気がする。


「お兄さんの名前が『憲一』だから、
お父さんは、差をつけないようにお前に『寛一』とつけたそうだな」

「は? なんですか、それ」


生田は目を開けると、わざわざそんな話を披露したのかと呆れ顔をする。

僕は、披露したのではなくて、赤石さんの質問にお母さんが答えたのだと、

そう言ってやった。


「質問?」

「あぁ、お前が実習生としてここに来ることが決まったとき、
名前を聞いて長男だとみんな思ったんだよ。
そうしたら次男だと聞いて、で、赤石さんがどうしてなのかと、今、お母さんに聞いた」

「ったく、どうでもいいことを」

「そうかな」

「そうですよ」

「どちらにも『一』をつけると言ったお父さんの気持ち、
僕はわかるような気がするけれど」


生田の名前の話から、優しい気持ちを不器用にしか表現できない、

親父の姿が想像できた。生田の気持ちを理解し、不安がる母親に比べ、

男同士なのだから、背中で分り合えると思ってしまっている。

そんなところもまた、誤解を産むのだろう。


「なぁ、実家に戻ってお前の気持ちを話して来いよ」


生田は返事をするわけでもなく、また目を閉じてしまった。

すぐにわかりましたなんて言わないことくらいわかっている。

こんなふうにあれこれ言う僕のことなど、うるさいくらいにしか思わないだろう。

それでもいい。経験者として、どうしてもアドバイスをしておきたい。


「お前が僕を嫌いだと思うのは、仕方がないし、
無理に好きになってくれとも言わないけれど、でも……これだけは言わないと」



どうしても言いたいこと。



「人って、いつ亡くなってしまうのかなんて、わからないんだぞ」


そう、経験している僕だからこそ、言えること。


「ケンカできるのも、相手の思いを知ることが出来るのも、
生きているから……だろ?」


なぜ、僕が『後藤』の家に来たのか、

父と母はどういうふうに、僕に話をしてくれるつもりだったのか、

今となっては、何一つわかることがない。


本当の僕が、どういう経緯で生まれたのか……

誰か、喜ぶ人はいたのか……



この世に誕生した日、たった一人で映っていた写真。

抱きしめてくれる人は、いたのだろうか。



僕がここにいることを知った『パール』が散歩の時間だと催促する。

僕は何も言わない生田を残し、『パール』のリードを取りに向かった。





『産みの親』

いったい、どんな人だったのだろう。

それを知ることが出来るきっかけがどこかにあるとすれば、

やはり森中の伯父しかいないだろう。

ポケットに入れた携帯が揺れ、相手を確認すると遥さんだった。

僕はすぐに画面を開く。



『うーん……難しいです。チケット問い合わせをしてみましたが、
SOLD OUTばかりなの』



『TEA』さんのクリスマスディナーショーのチケット。

確かに、正式な販売はすでに終了し、数枚のキャンセルくらいしかないようだった。

気付くのが遅かったかと半分諦めながら、遥さんに返信をする。



『気付くのが遅かったね、仕方がないよ』



日曜日が休みの彼女と、ローテーションで休みを取る僕の時間は、

なかなか重ならない。お付き合いを始めたつもりだけど、落ち着いて話ができるのは、

うちの事務所ばかりで、申し訳ない気持ちもしていたが、

チケットが取れないのでは、仕方がない。


「『パール』、少し速く歩け」


僕は少し早足気味に歩き、『パール』はそれに負けないように、

軽快な足取りを見せた。



【19-4】

親と子のつながりを知るたびに、会えない人への思いは募る。
歩は、遙の笑顔に励まされ、さらに一歩前へ……
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