19 親子の絆 【19-5】

【19-5】

『予定が入ったために、私はいけなくなった。歩が使いなさい』



『TEA』さんのクリスマスディナーコンサートのチケットが、

そこに入っていた。


「22日の券? あらら……すごいじゃないの」

「はい」


12月の頭に気付き、取ろうとしたが結局チケットは取れなかった。

急な展開に、すぐ遥さんへメールを打とうと思ったが、その手が止まる。

伯父から渡されたチケットは2枚ある。

伯父は誰かと行くために、これを買ったのだろう。

以前、『スレイド』で見かけたときには、そばに誰もいなかった。

さらに、金額も食事がしっかりとつくだけに、高価なものになる。


「哲治さんなりの応援なのでしょ。歩と遥さんに対して」

「あ、はい」


12月22日。『TEA』さんのディナーショーは3日間行われる予定だった。

伯父がこの日のチケットを取っていたのは、偶然だろうか。



12月22日。この日は、僕の27回目の誕生日になる。



「いいわねぇ……ディナーショー」

「はい」


伯父の優しさがわかるだけに、しばらく会っていない拓のことが気になり、

このまま素直に、受け取ってしまっていいのだろうかと、どこか複雑な思いがした。





その日の仕事を終えて、僕はいつものようにホームページを見ながら、

時計を確認する。遥さんもそろそろこちらに向かって来ている時間だ。

携帯を取り出し、森中の伯父の番号へ印を合わせる。



『宝物』



亡くなった母は、僕を引き取ることになったことを、そう社長の奥さんに告げた。

養子縁組を斡旋する団体もあるにはあるが、それならそういうところに登録したことも、

奥さんに語った気がする。

兄である伯父には、もっと詳しいことを話している可能性は高いはず。

中途半端な情報なら、あの伯父がそのまま流してしまうようには思えないからだ。

『息子』として迎える赤ん坊が、どんなところから来るのかわからないまま、

親戚として受け入れるという方が、妙だと思う。


「もしもし……歩です」

『あぁ、歩か、どうした』


車の中だろう。少し雑音がする。伯父は移動中だった。


「伯父さん、チケット届きました。とてもありがたいのですが、
本当にいいんですか? 僕がもらってしまって」

『届いたか、もちろんいいよ。2枚あるから遥さんを誘いなさい』


チケットが2枚あった意味。それを聞こうとしたが、言葉を止めた。

聞いたところで、伯父が行けなくなったことは変わらない。

何か探りを入れているように思われても、困る。


「チケット代金、払いますから」

『そんなものはいらないよ。お前からもらおうとは思わないから。遠慮なく使いなさい。
それとも、休みが取れないか』

「いえ、それは平気だと思います」


やりとりしていた言葉が止まる。

忙しい伯父と、長い間話していることは出来ない。

言わなければならないことを言おうとした時、目の前の扉が開いた。

遥さんの顔が、目の前にある。


『歩……』


受話器から聴こえる伯父の声。


「こんばんは」


僕は軽く頭を下げた。


「伯父さん、聞きたいことがあるんです。忙しいところすみませんが、
少し時間をいただくことは出来ますか?」

『話? なんだ、どうした。それならまだ到着まで20分近くあるから、言いなさい』

「すみません、今ここで語るようなことではないので。
あらためて時間をもらいたいです」


そう、僕が家族の過去を知ったことすら、まだ伯父には話していない。

ここで適当にかいつまんで語ってしまうのは、話が軽くなりそうで嫌だった。


『時間……か』

「僕の方から『MORINAKA』にでも行きますし、どこでも行きます」


どこにでも行くと言ったことで、伯父も僕が何か考えていると悟ったのだろう。

しばらく無言の時間が続く。

クリスマス、年末前に、貴金属の店を運営する伯父が忙しくないわけがない。

でも、僕もこのまま、新しい年を迎えるのは、どこか忘れ物があるような気がして、

素直に笑えない。


『わかった。しかし、しばらく忙しくて落ち着いた時間がないんだ。
26日でも構わないか』

「26日」

『あぁ、2週間後になるけれど……それでは遅すぎるか』


もう少し早くという気持ちもあったが、それは僕が言える立場にはないだろう。


「わかりました、26日で大丈夫です。会社に行けばいいですか」

『そうだね、夜8時過ぎになるだろうから、社長室で待っていなさい』

「……はい」


僕はお礼を言った後、受話器を閉じる。

心配そうに横に立っている遥さんに対して、手元にあるチケットを見せた。



【19-6】

親と子のつながりを知るたびに、会えない人への思いは募る。
歩は、遙の笑顔に励まされ、さらに一歩前へ……
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